トヨタに「プジョーを過小評価する者はいない」とブルツ。BoPにより“即座にライバル”となることを警戒/WEC

 トヨタGAZOO Racingのモータースポーツ・アドバイザーを務めるアレックス・ブルツは、第4戦モンツァからWEC世界耐久選手権へと参戦するプジョーについて、「過小評価はできない」としており、斬新なコンセプトを持つ9X8を「真のライバル」であると表現している。

 2009年にディーゼルエンジンを搭載したプジョー908 HDi FAPでル・マン24時間レースの総合優勝を果たし、2011年のル・マン・シリーズでタイトルを獲得、その後トヨタへと移籍した経歴を持つブルツは、プジョーの耐久レースにおける実力をよく理解している。

 プジョーには、LMP1時代から「同じメンバーがかなりいる」と話すブルツは、彼らが耐久レースのトップカテゴリーへと復帰してきたことをうれしく思うと同時に、彼らを過小評価しないよう、トヨタチームに注意を促しているという。

「まず、僕は精神と気持ちの部分でコンペティター(競争者)であるし、それはトヨタも同じだ」とブルツ。

「僕らは競争を望んでいる。僕らは10年前、スポーツカーレースにおける偉大な人々と競争するため、この世界に参入した」

「残念ながら、彼らは(2011年限りで)去ってしまったが、再び彼らが戻ってくること、そして多くのメーカーが集まるのは本当にうれしいことだ。プジョーもハイパーカー(規定)で参戦するため、競争相手としてうれしい」

「僕もプジョーで戦ったことがあるから、彼らが真のライバルであることは分かっている。彼らの仕事ぶりを見てきたからこそ、僕はチームの皆に『彼らを過小評価するな』と言っているんだ。このチームに、プジョーを過小評価する者はいないよ」

「彼らは優れた人々だ。だから僕らも、より良くなるようにしなければならない。シンプルなことだよ」

 以前にステランティス・グループ参加でWTCCとフォーミュラEに参戦していた7号車トヨタGR010ハイブリッドのホセ・マリア・ロペスは、2台の9X8がデビュー戦の週末に素早くスピードを上げてくることを予期している、と語っている。

「彼らは随分走り込んできているし、準備もしてきている。同じ人たちがどれくらいいるかは分からないが、僕はシトロエンでの経験から、彼らのことは少し知っている。フォーミュラEではDSと一緒に仕事をしたこともあるけど、彼らは非常に優秀だ」

「彼らはとても良いと予想しているし、もしかしたらすでに僕らよりも速いかもしれない。BoP(性能調整)で見れば、数字上は彼らの方が少し優位だからね。だから、彼らは最初から速いものと、僕らは予想している。それはBoPのおかげでもある。すぐに競争力を発揮できるものだからね」

■「理論上、タイムは同じ」。タイトル争いを左右する存在に

 ブルツもまた、WECのトップカテゴリーがBoPによって管理されていることが、プジョーのデビュー戦でのパフォーマンスに一役買うことになるのではないか、と考えている。

「通常の、つまり旧来のモータースポーツにおいては、それ(デビュー戦)はタフで難しいものだったから、学習するための時間が必要だった」とブルツ。

「だが、BoPという新しいスタイルが採用されるレースにおいては、彼らは基本的に即座に我々と同じパフォーマンスを発揮することになる」

「僕らは(BoPにより)ライバルに合わせてパフォーマンス調整して走っているので、マシンの限界を引き出せているわけではない。これは新しい現実であり、理論的にはプジョーや他の新規参戦者も、すぐに同じ性能のウインドウに入ってくることになる」

「だから、プロジェクトの初期においては当たり前のことではあるが、オペレーション上、非効率なことが起こると、それが命取りになるだろう。ピットストップの遅さ、戦略的な判断、参考にすべき昨年のタイムがないこと、単独走行に比べてレースでは空力的に問題があることが判明する……など、どんなことでも影響を与える可能性はある」

「だけど、パフォーマンス・ウインドウは同じはずだから、彼らを過小評価することはできないんだ」

「もし信頼性が確保できているのなら、理論上、彼らは僕たちと同じラップタイムを出せはずだ。では、ドライバーたちは我々と同じように、トラフィック・マネジメントについて素早く順応することができるだろうか? もしかしたら彼らは、より高いリスクのレベルを想定しているかもしれないから、より速いかもしれないね」

「まだ分からないけどね。現在では、このスポーツの考え方はとても異なるものになっている。自宅から見届けるファンにとってもね。なぜなら理論的には、誰もが同じペースで走ることになるはずだからだ」

 第3戦ル・マン24時間で2位となり、ハイパーカーのドライバーズ選手権でランキング4位につけているロペスは、モンツァから加わるプジョーが、現在の選手権争いに影響してくることになると見ている。

 プジョーはシーズン前半の3戦を欠場したものの、フルシーズン参戦のリストには含まれている。従って今週末のレースからチャンピオンシップポイントを獲得することが可能となっている。

 潜在的には、同一クラス内の台数が多いほど、低い順位でフィニッシュしてより少ないポイントを手にする可能性が出てくる。

「それはポジティブにも、ネガティブにもなり得る」とロペスは述べている。

「それはゲームをより開かれたものにする。もし僕らに競争力があって勝つことができ、同時に8号車やアルピーヌ、グリッケンハウスらが、プジョーが間に入ることによって順位が下がってポイントを失うなら、もちろんその方がいい」

「でも、それは僕らにも起こり得ることだ。ポイントを失いかねないんだ。今回からは、良い週末を過ごせなかった場合は、より多くのポイントを失うことになる」

第3戦ル・マン24時間では2位となった7号車のロペス

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