京都大学と鹿島建設、月や火星に住むための人工重力施設を共同研究

京都大学(大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター)と鹿島建設株式会社は、月や火星での人工重力施設の開発にあたり、3つの構想を掲げ、これらの実現に向けた研究に着手することを合意した。

月・火星での生活に向けた3つの構想

1.月・火星での生活基盤となる「人工重力居住施設 ルナグラス・マーズグラス」

NASA(アメリカ航空宇宙局)は、低重力を人類が宇宙で生活するための重要課題として位置付けている。低重力の研究は、成人の身体の維持にとどまっており、子供の誕生や成長への影響は不明確である。重力がないと、哺乳類はうまく誕生できず、誕生できても低重力では正常な発育が望めないという。

地球環境と同等の重力を発生できる「人工重力居住施設」が、人類の宇宙進出におけるコアテクノロジー(核心技術)と捉えて提案する。普段は同施設で暮らし、仕事や研究、レジャーの時にだけ、月や火星ならではの低重力、宇宙空間での無重力を楽しむようにするという考えである。同施設で生活することで、人類は安心して子供を産み、いつでも地球に帰還できる身体の維持が可能だという。

2.宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」

実際に地球外での生活を考えた時、その天体環境にどのような形で「自然資本」を存在させ、衣食住を可能にし、宇宙社会を実現するかについて、現実的な数字を踏まえた計画を検討・立案する必要があるとしている。

21世紀後半に、人類が月・火星への移住を現実にするという未来を想定し、要素を抽出した地球生態系システムを「コアバイオーム複合体」と定義。移住に必要な最低限のバイオーム「選定コアバイオーム」を特定する。同時にそれに必要な核心技術「コアテクノロジー」と社会基盤「コアソサエティ」の統合から、他の天体への宇宙移住の基幹学問体系として確立する。同プロジェクトでは、人工重力居住施設 ルナグラス・マーズグラス内にてミニコアバイオームを確立させることを一つの目標として計画を実施するという。

3.惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」(Hexagon Space Track System)

ヘキサトラックシステムは、長距離移動においても1Gを保つ地球・月・火星惑星間軌道交通システム。月・火星での生活でそれぞれのコロニー(居住集団)が経済活動を行い、ビジネスや観光で移動するようになる未来宇宙社会(コアソサエティ)で長期間の移動時、低重力による健康影響を最小限とするための人工重力交通機関としている。

研究者のコメント

京都大学大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター センター長 山敷 庸亮氏

火星移住に関して、アメリカやアラブ首長国連邦らが積極的な案を出しておりますが、我が国から全く独自のアイデアを発信していければと思います。ここ数年間の議論を通じて我々が今回提案するこの三本柱は、他の国の開発計画になく、かつ今後の人類の宇宙移住の実現を確実にする上でなくてはならない核心技術であることを確信しております。

鹿島建設株式会社技術研究所上席研究員、京都大学大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター SIC特任准教授 大野 琢也氏

私が子供の頃、直感した低重力の問題点が、宇宙生活が現実味を帯びてきた現在まさに問題視され始めています。 宇宙進出への分水嶺であるこのタイミングで、京都大学と人工重力居住施設の実現に向けた研究ができることを大変ありがたく思っております。この共同研究が人類にとって有意義なものとなるよう取り組んでまいります。

同研究によって、低重力の問題点を含む宇宙生活の課題と解決方法を世間に周知し、地球環境の重要さを再認識することで、宇宙を包含した持続可能な社会の構築に寄与できるとしている。具体的な人工重力施設が装置としてどのようにあるべきか、生態系をどこまで再現するべきか、人文的、法的、制度的にどのようなものが必要であるかを検討していくという。

▶︎大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター

© 株式会社プロニュース