Z世代のウェルビーイングは、自分と向き合い、他者も幸せにする『没頭』を見つけること

平田氏、久保氏、江連氏、小村氏(左から時計まわり)

Z世代にとって、「ウェルビーイング=よく生きる」とはどういう状態を指すのか。2月に開催されたサステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、大学生、大学院生でありながら社会課題の解決を目指す2人の起業家と、総合型選抜による大学受験を目指す高校生を同じ立場から支援する高校3年生が対話し、これからの時代のウェルビーイングをテーマに議論を交わした。そこから見えてきたのは、Z世代のウェルビーイングとは、やりたいことに没頭できること、そして、自分自身の問題意識をきっかけに周囲も一緒に幸せにしていく価値観を大切に考えているということだ。(横田伸治)

ファシリテーター:
小村俊平・ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
パネリスト:
江連千佳・Essay 代表取締役、津田塾大学総合政策学部総合政策学科
久保駿貴・ABABA 代表取締役、岡山大学大学院生
平田正英・郁文館グローバル高等学校3年生
(学年は2022年2月時点)

はじめに、ファシリテーターを務めたベネッセ教育総合研究所の小村俊平氏が、国際会議に先立って同研究所などが25〜35歳を対象に行った「若手社会人の活躍と幸せについての調査」で、「人を巻き込みながら学ぶ、ソーシャル・ラーニングの特性が高い人ほど、活躍度と幸福度がともに高く、ウェルビーイングにおいて学びが重要だという示唆を得た」と報告した。この日のパネリストは、その調査対象よりさらに若い、3人のZ世代だ。

就活で心身のダメージあってはならない――ABABA・久保氏

1人目は、岡山大学大学院に在籍し、就職活動で採用に至らなかった学生を企業間で推薦し合うことで別の企業への就職につなげるプラットフォームであり、スカウト型サービスのABABA(アババ)を運営する久保駿貴氏。

新卒採用に挑む大学生は平均して1人26.9社にエントリーする一方、最終面接まで残るのは2社程度とされており、7人に1人が鬱を発症するなど心身のダメージははかりしれない。ABABAは最終面接で不採用となった学生に企業側から登録を促す仕組みで、学生がそれまでの選考プロセスを他企業にアピールできるほか、企業にとっても採用にかかるコストの削減や不採用者との関係性維持などの利点がある。

「落ちても救われるチャンスがあれば、安心感を持って就活に臨める。学生のメンタルヘルスが保たれるようフォーカスを当て、就活は再挑戦の場なんだというメッセージを伝えたい。過程が評価される社会をつくる」

ショーツを着用したくないというニーズを放っておけなかった――Essay・江連氏

続いて、津田塾大学生でデータサイエンスを専攻し(登壇時は休学中)、2020年5月に、女性向けの部屋着をECサイトで販売するEssayを立ち上げた江連千佳氏が、起業のきっかけが「女性のコンプレックスを煽る脱毛の広告を見て怒りを感じた」ことであり、ショーツの痒みや蒸れに悩む女性の声を徹底的にヒアリングした結果、従来のショーツの締め付け感から解放される、ショーツ一体型の部屋着の開発につながった経緯を説明した。

「ショーツを着用したくないというニーズがあることを知ると、放っておけなかった。女性特有の身体の悩みを口にすることへのタブー感が社会にあり、無意識のうちにショーツはあの形じゃないといけないというジェンダーバイアスにとらわれていたのかもしれないという問題を日常の製品を通して知ってもらう機会にしたい」

江連氏をはじめ、平均20歳のチームで社会に問題提起する商品やサービスの企画から販売、発信までを手掛ける。ショーツ一体型部屋着というニッチな商品を開発したことで、車椅子に座ったままでも蒸れない構造や、発達障がいなどで感覚過敏がある人にも対応したショーツを開発してほしいという「新たな課題が顧客の方から出てきている」と言い、ユニバーサルデザインという形での商品のアップデートを検討中だという。

大学の総合型選抜を通して自己の存在意義を見出す――平田氏

一方、郁文館グローバル高校3年の平田正英氏は自身も挑戦した大学の総合型選抜(旧AO入試)を巡る学校間格差や地域間格差に課題意識を持ち、同選抜に挑戦する意欲はあっても取り組む環境にない地方の高校生らに受験に向けた具体的な助言や添削などの支援を行う。

総合型選抜とは、いわゆるペーパーテストによる一般入試とは違い、大学側が「求める学生像」に合った生徒を採用する方式で、ここ数年、東大をはじめとする国公立大でも定員の3割を総合型選抜にしていこうという動きがあるほか、難関私立大学でも5割以上の生徒が総合型で入学している状況がある。

この総合型選抜について、平田氏は、「自分はこの大学のこの学部でこれを学びたいんだ、という強い意志が求められる。実際に取り組む過程で、自分が何を目的に何を研究するのかを突き詰めていくことで、自己の存在意義を見出すことができる」とそのメリットを強調した。その結果得られるのが、ウェルビーイングだという。

「ウェルビーイングが達成されている状態は、自分のしたいことをできている時。自分のしたい研究に没頭できている時間はやはりウェルビーイングが高いのではないか」

自身のウェルビーイングだけでなく、みんなのウェルビーイングを

3人の発表を終え、小村氏は「3人とも没頭するものを持っている」と共通項を挙げ、「どうすれば没頭するものに出合いやすくなるのか」と質問。これに平田氏は、「まずは自分に興味を持つことが重要。そこをとばして自分は何が好きなんだろうと思っても見つからない」と、江連氏も「ポジティブな感情だけでなく、悲しみや怒りと向き合うことも大事。日本人は怒りを外に出してはいけないと考えがちだが、悲しみや怒りと向き合うことによって、自分が世界に何を願っているかが明確になってくる」と述べた。

ここで小村氏は、「3人とも自身のウェルビーイングを高めようとしているだけでなく、自分の問題意識をみんなのウェルビーイングの問題だと捉えて起業し、活動しているようだ」と気付きを話し、セッションはZ世代のウェルビーイングの意識を掘り下げる展開に。

久保氏は、大学1、2年生の頃に、あまり良くないお金の稼ぎ方をしている大人と出会ったことをきっかけに、「周りの人を幸せにしてお金をいただくという形でないと本当にだめだと思った」と振り返り、ABABAの社訓として「隣人を助けよ、自分ごとであれ」と掲げていることを表明した。

これに江連氏は、「すごい素敵な社訓」と共感を示すとともに、「それこそ半径5メートル以内にいる人たちを幸せにできないと、社会を幸せにできないし、自分自身を幸せにできていなかったら、半径5メートル以内にいる人たちも幸せにできない」とする価値観を語った。また、「他者のためにというよりは、自分が見つけた課題を突き詰めていった時に、実はそれが誰かの役に立っていたということが往々にしてある」という。

学校教育での学びがもたらしたインパクトは?

セッションは、学校教育での学びにもフォーカスされた。学生であることにとどまらず、社会で活躍する今の3人に大きなインパクトをもたらした経験はどういったものか。

高校で小学生へのプログラミング教育や探究型学習についての研究も行う平田氏は、「学びとは、将来なりたい自分という明確な目標に向かって自ら学ぶことであり、プログラミングは学びだ」と強調。さらに、同氏は、このフォーラム時点で自身も総合型選抜により慶應義塾大学環境情報学部への入学が決まっていたが、「僕としては大学に期待し過ぎるよりも、この大学で学ぶ自分の可能性に期待したい」とする独自の学び感を語った。

一方、小中高と「大学に入るための勉強をずっとしてきた」久保氏は、岡山大学理学部に入学後は、疑問があればネットで自ら学べる環境を最大限に生かしてきたという。ABABAは、全サービスをノーコードで開発したスタートアップであり、「自身、エンジニアでもなく、プログラムコードもほとんど書けないが、アイデアさえあれば世の中に出せる時代になった」と述べ、インドの14歳の少年が病院と学校の課題を解決するアプリをノーコードで開発した話を紹介した。

もちろん、インドの少年も、久保氏も、時代の恩恵に預かったというだけではないが、その気があれば誰でも学びにアクセスできる時代だからこそ、やりたいことがあるかどうかが大事になる。ノーコードの存在を知って以降、久保氏は岡山大学に提案し、後輩たちにアイデアを形にするための授業を行っているそうで、今後はそのような「既存の教育にとらわれない柔軟性が大学教育に求められるだろう」とする見方を示した。

また小さい時から歴史好きで、興味を持ったらとりあえず本物を見に足を運んできたという江連氏は、その経験が「高校生、大学生になって、これ面白いなと直感で思った時に、ちょっと深ぼってみるか、という行動につながっている」と自己分析。高校まで文系だったのが大学でデータサイエンスを専攻する理由を、「データサイエンティストには男性が多く、女性がいないことによって問題提起すらされない課題がたくさんあるから」と説明し、会社経営はフィールドワークの感覚で取り組みながら、「データという共通言語を使って、今のフェミニズムやジェンダーの流れがどう持続発展していけばいいのかを社会に提起したい。大学院にも進みたい」と意欲を語った。

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