食品残渣で育てたコオロギを機内食に採用 国内初、航空会社の環境負荷を減らす昆虫食とは

ZIPAIRのコオロギを使った機内食

コンビニや無印良品といった身近な場所でも見かけるようになったコオロギを原料として使用した食品がついに機内食にも登場した。食用コオロギの生産から販売までを行うフードテックベンチャーのグリラス(徳島・鳴門)は、ZIPAIR Tokyo(千葉・成田)の運航する国際線4路線で、7月より2つの機内食メニューの原料にコオロギパウダーを提供する。グリラスは、生育が早く、雑食性を持つコオロギの特性に着目し、食品ロス由来100%のエサでコオロギを育て、そのフンも農場に循環させる研究を行う。ZIPAIRは、コオロギを食材として使うことで機内食の環境負荷を減らしたい意向だ。(環境ライター 箕輪弥生)

昆虫食で機内食の環境負荷低減へ

機内食に使われるコオロギパウダー(右)

昆虫食市場は、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)の報告書をきっかけに注目を集めた。その後、2018年にEUが食品としての承認を行い、昆虫食の市場に新規参入するベンチャー企業が増えるなどして世界的にも市場が拡大を続けている。

市場拡大をけん引しているのは伝統的な昆虫食ではなく、コオロギやミールワーム(甲虫)などの昆虫の粉末を原材料に使った、昆虫の原型をとどめない加工食品だ。

タンパク質などの栄養素を豊富に含むことや、家畜などに比べて生育に必要とされる土地や飼料が大幅に少なく環境負荷が小さいことから、食料危機にも対応する食品として期待されている。日本能率協会総合研究所は、世界の昆虫食市場は2025年には約1000億円に拡大すると推計する。

このような昆虫食の背景をとらえ、JAL(日本航空)グループの国際線中長距離LCC のZIPAIR Tokyoは今年7月から機内食に昆虫食を取り入れる。同社の西田真吾社長は「世界でも初めての試みではないか」と話す。

同社は今年3月に機内食を作るJALロイヤルケータリング(千葉・成田)に昆虫食の開発を依頼し、短期決戦でメニューを開発した。

提供する機内食はトマトチリバーガーとペスカトーレの2種類。ハンバーガーはバンズとパティ、ソースにコオロギパウダーを混ぜ込み、ペスカトーレではトマトソースに使う。筆者も実際に試食してみたが、エビのような香ばしさと味の深みがあり、どちらも食べやすい。

ZIPAIRの機内食は事前予約制を導入しているため食品ロスは比較的少ないが、「原料のコオロギが食品残渣をエサとして育てられているため、さらに環境負荷を減らせるのでは」と西田社長は期待する。

コオロギを「サーキュラーフード」に グリラスの挑戦

徳島大学でコオロギの研究を続けるグリラスの渡邉崇人社長

ZIPAIRの機内食に使うコオロギパウダーを生産、販売しているのが、徳島県のベンチャー企業グリラスだ。同社の渡邉崇人社長は徳島大学在学中の2006年からコオロギの基礎研究を始め、食料資源化の研究をするなかで産業化を提案したものの、生産を担う組織が見つからず、2019年に自ら起業した。

FAOの報告書にあるように、世界では食糧難の可能性があるにもかかわらず、国内で年間約2500万トンの食品廃棄物が生まれ、捨てられている。この矛盾を解決するためにコオロギを資源化できないかと考えたのだ。

コオロギに着目した理由は、渡邉社長によると「生育の早さ、サイズが大きいこと、雑食であること、豊富なたんぱく質源」だ。

同社は徳島県美馬市の廃校2校を整備し、研究開発と生産の拠点を設け、食用の「フタホシコオロギ」の生産から加工、商品開発、販売までを一気通貫で行う。

中でも注目すべきは、えさに食品残渣を使う点だ。研究を重ねた結果、小麦粉を作る際に出るふすまにいくつかの食品残渣を組み合わせ100%食品残渣だけで養殖することに成功した。

現在は、コオロギのふんを農場に戻して新たな作物を作る仕組みを研究し、コオロギに与える残渣の種類と育てる作物の相性などを検討している。渡邉社長は「コオロギを循環型の食品、サーキュラーフードとして確立したい」と話す。

同社のコオロギパウダーは、売れ筋の「コオロギせんべい」を販売する無印良品をはじめ、各社からの引き合いがあり、需要に供給が追い付かない状況だ。同社はコオロギの自動飼育システムの開発を進めるなど、コオロギの大規模産業化に向け研究開発を加速させるという。[^undefined]
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