【最新ライブレポート】佐野元春&THE COYOTE BAND のタフなクリエイティビティ 「これが生きる事の意味だ!」WHERE ARE YOU NOWツアーで実感した佐野元春の衝動

佐野元春「WHERE ARE YOU NOW」ツアー最終公演

人生の中で、目の前の出来事が夢なのか現実なのか分からない瞬間というものに何度か出くわすことがある―― 佐野元春&THE COYOTE BAND TOUR 2022『WHERE ARE YOU NOW』最終公演、TOKYO DOME CITY HALL。この日のオープニングがまさにこの瞬間だった。

開演後、見慣れたレッドボディのストラトキャスターを抱えてステージ中心部に颯爽と駆けつけた元春を見つめながら、僕は14歳で初めて彼と出逢い、ロックンロール熱狂の渦の中巻き込まれた当時の自分と出逢っていた。

アルバム『SOMEDAY』40周年となる今年、このところ初期のアルバムを立て続けに聴いていたので、余計にそんな感覚に陥ったのかもしれない。

オープニングナンバーは、躍動感溢れるベースラインが、未だ見ぬ場所にいざなってくれるような極上のロックンロールナンバー、「彼女はデリケート」だった。THE COYOTE BAND(以下、COYOTE BAND)のアンサンブルは無駄な贅肉がすべて削ぎ落とされ、ソリッドに、シックに、しかし奥深い。「ハッピーマン」、「マンハッタンブリッヂにたたずんで」、そしてアルバム『SOMEDAY』からの「アイム・イン・ブルー」、「ヴァニティ・ファクトリー」と夢のような時間が続く。

この間、僕は14歳の自分と対峙する。40年という長い月日、常に僕の心のドアをノックし続けてくれた元春は、目の前であの頃と同じように、僕に語りかけてくれる。しかし、それは思い出話ではない。「ここにたどり着いた気分はどうだい? さぁ先を急ごう」そんな風に言ってくれたように感じた。

Early Daysの楽曲は続く。6曲目は「ハートビート」だった。曲が転換する無音の状態から、鍵盤の一音を叩くわずかな時間から、すでに凪の状態の大海原に吸い込まれるような静かで深いうねりに飲み込まれていった。

アルバム『SOMEDAY』40周年のアニバーサリーだからこそ実現できた前半のセットリスト。しかしそこには、今を噛み締め、その先に広がる航路しか見えない。

元春が絶大な信頼を寄せるCOYOTE BANDの力量

そして、4月にリリースされたアルバム『ENTERTAINMENT!』の中から「東京に雨が降っている」、「悲しい話」と続く。シンプルでありながら、包容力のあるサウンド。カントリーやサザンロックの影響を感じさせてくれながら、楽曲によってはエッジの効かせ方に心の奥が震える。

どこかで聴いたことがありそうだけど、全く新しい音。元春の特徴的なリリックをより効果的に、より遠くまで響かせるには、今、彼らにしか奏でることが出来ないこの “サウンド” が不可欠だということを実感させてくれる。

それは、今回のツアーでは「愛が分母」、「INDIVIDUALISTS」という、スカのリズムをフォーマットとした2曲の演奏が極めて象徴的だった。リリックが織りなす世界観に呼応してバンドのグルーヴは全く異なる質感を醸し出していた。オリジナルの本質に寄り添い、楽曲の持つ輪郭をクリアに浮かび上がらせている。アーシーにレイドバックしながら、リリックの普遍性をしなやかなビートに乗せる前者に対して、後者は硬質なビートが、「コンクリートジャングルをタフに生き抜けろ!」と言わんばかりの性急さを感じる。これがCOYOTE BANDの力量であり、元春が絶大な信頼を寄せているのが一目瞭然だった。

タフでクリエイティビティに満ち溢れる “2022年の佐野元春”

「アンジェリーナ」のオリジナルとは異なるプリミティブなロックンロールの熱量を最大限まで引き出すギターアレンジに熱狂し、アンコール、「悲しきレイディオ」からの「サムデイ」では、自然と涙が頬をつたう。やはり、そこに懐かしさは微塵もなかったことが何より嬉しいのだ。楽曲は自分の心の中で熟成し、元春もまた、楽曲を熟成させ、時代に即したアプローチを施していた。

この日のセットリストは80年代の楽曲と、ここ近年、COYOTE BANDと共に育んだ楽曲を中心に組まれていた。スペシャルでありながら、現在進行形の元春を存分に堪能できた一夜。この日、この場所に僕が着いたのは必然であるとしか思えない程、心に大きな衝動を残してくれた。

そして、この衝動は、この日のラストナンバー「NEW AGE」のリリックにもあるように、

 昔のピンナップはみんな
 壁からはがして捨ててしまった…

 でも今夜だけは
 君と輝いていたい
 That’s meaning of life

… に帰結する。ノスタルジーに浸ることなく、楽曲の本質をマッシュアップさせながら、最高のバンドと共に今も最前線を駆け抜ける元春。これが生きる事の意味だと言わんばかりに。この日の元春は、これからさらにミュージシャンのピークを迎えるのではないかと思わずにいられないぐらいタフでクリエイティビティに満ち溢れていた。

カタリベ: 本田隆

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