安倍元首相死去に拉致被害者の地村保志さんら「残念でなりません」 2002年の官房副長官時代に永住帰国実現

肘タッチで記念撮影する安倍晋三元首相(左)と地村保志さん=4月9日、福井県小浜市文化会館

 街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相は、国会議員秘書時代から北朝鮮による拉致問題に強い関心を持ち続け「解決しなければ、(政治家としての)私の使命は終わらない」と訴えてきた。福井県小浜市の拉致被害者、地村保志さん、富貴恵さん夫妻=ともに(67)=は突然の別れに「われわれの帰国に多大なご尽力をいただいた。信じられない」とコメント。県内関係者は「特使として北朝鮮と交渉してほしかった。大きな打撃だ」と悔しさをにじませた。

 安倍元首相は2002年9月、官房副長官として平壌での日朝首脳会談に同行。地村さん夫妻ら5人は当時、一時帰国とされていたが、永住帰国を主張し実現した。

⇒安倍元首相と地村さんが今年4月に約束したこと

 今年4月には小浜市で保志さんと対談。「決して諦めず、(北朝鮮に残された日本人を)必ず取り返す決意で全力を尽くす」と意気込みを示していた。

 地村さん夫妻は安倍氏の死去を受け8日、「このような形でお別れすることが大変悲しく、残念でなりません」とコメントした。

 拉致被害者支援の全国組織「救う会」副会長の島田洋一福井県立大学教授は「拉致問題解決のために、(安倍元首相には)特使として訪朝してほしかった。本人も『条件が合えば行く』と言っていた。大きな打撃だ」と述べた。

 安倍氏は、父の晋太郎元外相の秘書時代から被害者家族と接してきた。救う会の西岡力会長は「家族会や救う会の信頼は、ものすごく厚かった。本人は心残りだろう」と言葉少なだった。

 地村さん夫妻が帰国した際には小浜市の自宅まで足を運び、「政府が責任を持って、(北朝鮮に残されていた子どもたちを)取り戻す」と決意を語った。救う会福井の森本信二会長(66)は「地村夫妻が帰国してからも、社会復帰のために何ができるか、常に気にかけてくれた。残念でならない」と惜しんだ。

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