「許せぬ」長崎でも怒り 安倍元首相 撃たれ死亡 政治家への凶行、再び

安倍元首相が銃撃されたニュースを心配そうに見詰める市民=長崎市浜町、エディオン長崎本店

 政治家を狙った凶行が再び繰り返されてしまった。自民党の安倍晋三元首相が8日、街頭演説中に男に撃たれ死亡。15年前と32年前、平和都市長崎の市長が2代続けて銃撃された事件の記憶と重なる。「悔しい」「許せない」。長崎でも怒りの声が上がった。
 「同じようなことが繰り返され、非常に憤りを感じる」。長崎市の田上富久市長は報道陣の取材に応じ、沈痛な表情を浮かべた。
 同市では1990年1月18日、本島等氏(2014年に92歳で死去)が市役所前で右翼の男に銃撃され一命を取り留めた。07年4月17日には伊藤一長氏=当時(61)=が市長選期間中に暴力団幹部の男に銃で撃たれ、死亡した。
 07年の事件後、市職員だった田上氏は急きょ出馬し市長に初当選。事件の翌年から「いのちを守る」長崎市民集会を開き、暴力追放を訴えてきた。「一緒に動いてくれた市民の思いも含め、こんな結果になったことは悔しい」と語った。
 遺族に伊藤氏の墓の管理を任されている浦川信治さん(68)は「15年前の事件と重なった。民主主義の世の中で、このような卑劣な事件が再度起こって残念」とコメントした。
 同市議会の深堀義昭議長(77)は、安倍元首相が父・晋太郎元外相の秘書官だった頃から約40年の付き合い。今春、議長就任あいさつのため東京の事務所で面会した。「人情味が非常に強く、相談したことには『イエス』でも『ノー』でも必ず答えを出してくれた」と惜しむ。
 本島氏の事件は、昭和天皇の戦争責任発言が発端。発言への賛同署名を集めた「言論の自由を求める長崎市民の会」メンバーで、長崎大名誉教授の舟越耿一さん(76)は「ウクライナ情勢を受け、国内でも物価高など社会情勢が混沌(こんとん)としている。テロは決して許されないが、こうした社会への不満や不安が暴走させたのでは」と指摘する。
 本島氏の事件を取材した元NBC長崎放送記者でフリージャーナリストの関口達夫さん(72)は「動機は分からないが、批判なら言論ですべき」と非難。立命館大の安斎育郎名誉教授(平和学)は「意見の異なる相手を暴力で封じ込めようとすることなどあってはならない」と批判した。
 安倍元首相は長崎原爆の日(8月9日)の平和祈念式典に首相として計9回参列。県平和運動センター被爆連の川野浩一議長(82)は式典後の要望活動でたびたび対面した。安全保障に関する考え方の違いから「厳しい言葉で非難することもあったが、(凶弾に倒れたことは)残念でならない」と言葉少なに語った。
 長崎市の60代女性は15年前の伊藤氏の事件の際にタクシーで現場近くを通りがかったといい「あの時も本当にびっくりした。暴力はいけない」。大村市の男性は「10年ほど前、(安倍元首相と)写真を撮ってもらった。快い対応だった」と思い出を語り、「あってはならないことが起きて残念」と声を震わせた。


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