日本初公開作品多数! 「メトロポリタン美術館展」名画の数々に片桐仁も感動の嵐

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。4月15日(金)の放送では「国立新美術館」で開催された「メトロポリタン美術館展」に伺いました。

◆西洋絵画500年の歴史を辿るメトロポリタン美術館展

今回の舞台は、東京都・港区六本木にある国立新美術館。ここは、日本で5番目の国立美術館として2007年に開館。建築家・黒川紀章が設計した数多くの美術館の中で、彼の生前に完成した最後の美術館です。

片桐は、そんな国立新美術館で今春に開催された「メトロポリタン美術館展」へ。米ニューヨーク・マンハッタンにあるメトロポリタン美術館は、約150万点の考古遺物や美術品を所蔵する世界最大級の美術館のひとつですが、今回はヨーロッパ絵画部門の常設展示室の改修にちなんで多くの名作が来日。

日本初来日となる46点の絵画を含む計65点、15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派まで西洋絵画500年の歴史を体感することができます。

◆人間らしい文化の復興を目指したルネサンスの傑作

主任研究員・宮島綾子さんの案内のもと、まず注目したのは、フラ・アンジェリコ(本名:グイド・ディ・ピエトロ)の初期ルネサンス時代の作品で日本初公開となる「キリストの磔刑」(1420~23年頃)。

画中ではキリストが磔に、そして聖母マリアが倒れ、周囲には心配そうな面持ちの人が集まっていますが、この時代以前は考えられない光景だとか。というのも初期ルネサンスの前、中世ではキリストやマリアは近寄り難い神のような存在として描かれていたから。しかし、ルネサンスは中世以前の人間文化の再興を目指し、その特徴は人間らしい感情表現。片桐も「キリスト教をテーマにした絵でも、登場人物はみんな生々しい」とその印象を語ります。

また、この時代の特徴はもうひとつ。それは油絵発祥以前に成熟した「テンペラ」という技法で、油絵よりも色が変色しにくく、今作も600年以上前の作品ながら発色豊かで美しい状態のまま残っています。

一方、油絵の具で描かれているのはティツィアーノ・ヴェチェッリオ「ヴィーナスとアドニス」(1550年代)。盛期ルネサンス時代に描かれた本作もまた日本初公開。ティツィアーノはイタリア・ヴェネツィアの画家で、この地は特に湿気が多く、フレスコ画だと漆喰が脆く腐りやすくなってしまうため、油彩画が発達したそう。

本作は神話「ヴィーナスとアドニス」にある、女神ヴィーナスが恋をした美しい人間アドニスが狩りに行くのを止めようとする場面が描かれていますが、実はこの後アドニスは狩りに行き、猪に突かれて死んでしまいます。つまり、ヴィーナスは嫌な予感がしていたわけですが、片桐は「この表情を見てほしいですね」とアドニスの表情に注目。相手が女神なので邪険にできず、とはいえ狩りにも行きたい、その複雑な表情を見事に描き切り、さらにはそのポーズからは緊迫感も多分に伺えます。

◆17世紀、ルネサンスからバロックへ

聖書や神話の登場人物を人間らしく描いたルネサンスでしたが、その後、時代が進むと日常の何気ない一瞬が絵のモチーフに。17世紀の「バロック」と呼ばれる時代の部屋に足を踏み入れると、そこにはイタリアで活躍したカラヴァッジョ(本名:ミケランジェロ・メリージ)の日本初公開作品「音楽家たち」(1597年)が。

ルネサンスが調和した構図を重視する一方で、バロックは動きやドラマティックな部分を強調。その語源は「歪んだ真珠」を意味する「バロッコ」と言われ、この「歪み」というのもポイントで「均衡が取れた調和ではなく、ちょっと崩していったみたいな」と呟く片桐のその言葉通り、それがルネサンスとバロックの大きな違いだとか。

カラヴァッジョは、パトロンであるデル・モンテ枢機卿の家に住まわせてもらっていましたが、芸術を庇護する枢機卿の元には多くの若い音楽家も滞在。これはその音楽家たちをモデルに描いたと言われ、さらには右から二番目の男性はカラヴァッジョ自身とも言われています。

当時、身近な人間を描くことは衝撃的なことで、その上、カラヴァッジョ作品に登場する人々の顔はとても個性的。それは彼の好みが反映されていたのかもしれませんが、それもまた当時の人からすればセンセーショナルなこと。しかし、それが人気を博していたのも事実で、片桐も「若い人からすればそうですよね。こんな絵は見たことないってことですもんね」と納得。実際、ヨーロッパ全土から絵画を学びにきた画家たちが彼の作品に触れ、その新鮮さに驚き、母国に持ち帰ったことでカラヴァッジョの影響は、一気に拡大します。

その作品の隣にはジョルジュ・ド・ラ・トゥール「女占い師」(おそらく1630年代)が。これはターバンをしているロマと呼ばれる民族の占い師が貴族のような人からお金を巻き上げている姿が描かれており、その背後では女性が財布を盗もうとしていたり、中央では鎖を切ろうとしていたり、さまざまな悪事が描かれています。

なお、これ以前にカラヴァッジョもロマの女性が男性の手相を見ながら指輪を抜き取る様子を描写。そもそもこの「占い師」というテーマはカラヴァッジョが流行させ、当時多くの画家がさまざまなパターンの占い師と盗みを描いていたそうで、片桐は「女占い師と言ったら盗みがセット。カラヴァッジョが初めてなんですね」と感心しつつ「面白いですよね。絵がエンターテインメントで」と称賛。

そして、「きましたね、有名なのが!」と思わず片桐のテンションが上がったのはヨハネス・フェルメールの「信仰の寓意」(1670~72年頃)。これまた日本初公開ですが、片桐からは「これはいわゆるフェルメールの絵にしては、すごく大きいですよね」とちょっとした疑問が。

フェルメールといえば、日常の情景を小さめのキャンパスに描く印象がありますが、この作品はカトリック信仰という抽象的な概念をさまざまなモチーフで表現した寓意画。中央に胸に手を当てている女性が描かれており、これは彼女の心の中にカトリックの信仰が息づいていることが表現されています。

そして、その女性が地球儀を足蹴にしているのは、カトリックが世界を治めるという意味だったり、床で口から血を流している蛇はサタン、リンゴはアダムとイヴの原罪を表すものと言われ、片桐は「これは面白いですね~。フェルメールっぽいのに、っぽくない感じがまた」と興味を示します。

◆印象派以降、誰もが知る巨匠の名作

続いては印象派以降で「これも有名な絵ですよね!」と片桐が興奮していたのは、エドガー・ドガの「踊り子たち、ピンクと緑」(1890年頃)。ドガといえば、パステル画が有名ですが、これは油絵でありながらもパステル画のように描写。片桐は「パッと見、パステルか油彩かわからないですね」と息を呑みます。

そんな本作のモチーフはステージの舞台裏。踊り子たちが髪型や衣装を整えるなか、右側の切れている女性は客席を覗いているなど、そのさりげない一瞬に「今まさに始まるという感じで、生々しいですよね」と片桐は目を見張り、さらには「何か動きがありますよね。止まった絵なのに」、「細かくは描いていないけど、遠くから見ると、なんかその瞬間がわかる感じも面白い」とも。

ちなみに、本作にはドガの指が使われ、画中にはしっかりと指紋が。発見した片桐は「本当だ! 完全に指の跡が!」とビックリ。

そして、最後はクロード・モネが76歳頃に描いた「睡蓮」(1916~19年)。当時のモネは白内障を患っていたそうですが、そうしたなかで描いた本作に、片桐は「それでこのサイズ、この鮮やかな色使い……」と感服。

20世紀に入り、新たな作品が次々登場してくるなか、この頃のモネはもはや古臭い印象派の画家という評判で、睡蓮を数多く描くも評価されなかったそう。しかし没後、1950年代になるとアメリカで抽象表現主義が勃興し、多くの批評家がモネの一連の作品は時代を先行して描いていたと脚光を集め、モネの評価が再び急騰。その逸話を聞いた片桐は「世の中のいろいろな流れがあるなかで、自分の画風もどんどん変わる。モネも技術ではなくなっていくというか、より自分のイメージに近づけていく細かい実験を繰り返していたんだろうな」とモネに思い巡らせます。

貴重な名画の数々を堪能した片桐は「宗教的な様式であった絵が時代によって進化していき、画家が画家として、それぞれ個性を出していくというのが500年間で熟成されていく、それが感じられる展覧会でしたね」と大満足。

そして、「500年に及ぶ西洋絵画の名品を堪能させてくれたメトロポリタン美術館展、素晴らしい!」と絶賛し、西洋絵画の歴史を彩った美の巨匠たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、マリー・ドニーズ・ヴィレールによる肖像画

「メトロポリタン美術館展」の展示作品のなかで、主任研究員の宮島さんがぜひ見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。今回選ばれたのは、18世紀末から19世紀にかけて活躍した女性画家マリー・ドニーズ・ヴィレールの肖像画「マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)」(1801年)です。

これは1917年にメトロポリタン美術館に所蔵されたものの、当時はヴィレールと同時代に活躍していた巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドの作品と言われ、1996年にようやくヴィレールの作品であることがわかった作品です。

宮島さんが気に入っているのは、大変珍しい逆光のなかでの明暗の妙で、片桐も「奥から光が来て、効果的ですよね」と感心。また、窓の向こうにはカップルの姿もありますが、それがなぜ描かれているのか今となっては資料もなくわからないそうで、そうしたことを差し引いても素晴らしい作品であることは変わらず、片桐も「展示室に入った瞬間に『おおっ!』ってなりますよね」とベタ褒めしていました。

最後はミュージアムショップへ。キャップやTシャツなど本家メトロポリタン美術館の公式グッズに「オシャレですよね~」とウキウキの片桐。

そして、全228ページの図録をひとしきり堪能しつつ、「いいですね!」と手にしたのはメトロポリタン美術館バージョンの「モノポリー」。さらには、その場で撮影した写真が加工され西洋画風になる「なりきり絵画」に「これすごくないですか!」と驚き、楽しむ片桐でした。

※開館状況は、国立新美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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