トヨタ、WECモンツァから新たなデフを導入。テスト期間が短く「プジョーが先行」と技術責任者

 TOYOTA GAZOO Racingは、この週末に行われるWEC世界耐久選手権第4戦モンツァに向けて、トヨタGR010ハイブリッドに新しいデフを搭載した。トヨタのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンはこのことについて、「大きな変化」だと語った。

“リヤウイングレス”という独創的なデザインテーマを掲げるプジョー9X8のデビューと同時に、トヨタの四輪駆動ハイブリッド・プロトタイプカーはこのモンツァ・ラウンドから始まるシーズン後半戦で、まったく新しいディファレンシャル・ハードウェアを導入することになった。

 バセロンによると、トヨタは先月のル・マン24時間の前に新しいコンポーネントを短期間にテストしただけで、モンツァのイベントには「未知の世界に飛び込む」ような雰囲気が漂っているという。

 Sportscar365は、トヨタ、FIA国際自動車連盟、ACOフランス西部自動車クラブの3者がル・マン・ハイパーカー(LMH)とLMDhのバランス調整の一環として、来シーズンの使用を義務付ける前にプジョーが到着した時点で新しいデフでクルマを走らせ、その効果を評価することを今年の初めに合意していたと理解している。

 トヨタGR010ハイブリッドはこれまで機械式ロックデフを搭載して参戦してきたが、1年前の発表されたLMHとLMDhのコンバージェンス(収束、収斂)の条件に応じてオープンデフに変更された。

 今年3月、ACOの競技ディレクターであるティエリー・ブーベは、全輪駆動車も後輪駆動車もディファレンシャルの値は同じであるべきだと説明した。

 トヨタは、190km/h以上にならないとフロントに搭載された電気モーターが使えない四輪駆動車の特性がさらに制約されるため、この変更をパフォーマンス面での打撃と捉えている。

 バセロンはSportscar365に対して次のように語った。「今回初めて、これまでと違うディファレンシャルで走らせることになった」

「我々とプジョーにとって、ディファレンシャルのレギュレーションはここで変わる。BoP(バランス・オブ・パフォーマンス)の調整に加えて、もうひとつ大きな変化や打撃があることを意味する」

「それは、今までのディファレンシャルが使えないということだ。いま、私たちは、はるかにトルク伝達の少ないデフを使わなければならなくなった。これは、来年のLMDhとのコンバージェンスを見越し、四輪駆動車を何とか二輪駆動車にするためのものだ」

デビュー戦WEC第4戦モンツァのFP1で総合3番手タイムを記録した93号車プジョー9X8

■「プジョーの後塵を拝している、と言えるかもしれない」とバセロン

 先月、ル・マンで5連覇を達成し、シーズン後半戦に向けて活動を再開したトヨタは、このディファレンシャルの変更によりモンツァではある部分で新参者のプジョーが優位に立つと予想している。

 プジョーはWECデビュー前のサーキットテストの大部分でオープンデフを使用しているが、トヨタは新しいデフを導入してまだ日が浅い。

 バセロンは、「まだテストを開始して間もないため、これからいろいろなことを発見する必要がある」と語り、新システムのテストが行われた場所については明言を避けた。

「この部分は、明らかにプジョーのほうが先行している領域のひとつだ。我々は他のハードウェアと競争しなければならないことを長い間知っていた」

「プジョーは過去数カ月間、この構成で走行テストを重ねてきた。だから、プジョーに比べると、私たちは彼らの後塵を拝していると言えるかもしれない」

 同氏は新しいディファレンシャルを搭載したことで、トヨタGR010ハイブリッドに問題が起きないよう、他の調整も必要になったと説明した。

「それに加えて、我々は非常に厳しい制限を尊重しなければならない。ハードウェアによっては、非常にノイズが発生する可能性もある」

「ハードウェアの変更により左右のトルク伝達が減少する。そこで問題が発生しないよう、フロントモーターに制御を追加してこれを防ぐ必要がある。ハードウェアの変更、制御の変更、レギュレーションの変更と、ここでの変更はかなり大きなものになる」

「我々にとっては(BoPで行われる)パワーと重量の調整はそれほど大きくはない。しかし、これは大きな変化だ」

 事前に発表されたWEC第4戦モンツァでのハイパーカーBoPでは、トヨタに7kW(約9PS)のパワーアップと1kgの重量増が与えられ、それぞれ513kW(約687PS)、1071kgとなっている。

TOYOTA GAZOO Racingの8号車トヨタGR010ハイブリッド 2022年WEC第4戦モンツァ6時間

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