安倍元首相死去 県内にも衝撃

 参院選投開票日直前の8日、奈良市で街頭演説をしていた自民党の安倍晋三元首相(67)が銃撃され死亡した。国内を震撼(しんかん)させた事件は、和歌山選挙区(改選数1)の候補者陣営、有権者にも衝撃を与えた。不安とともに、さまざまな立場を超えて憤りの声が上がっている。

 新党くにもりの谷口尚大氏は「意図は分からないが、絶対にやってはいけないこと。言論弾圧には屈してはならず、ひるむことなく進むことが大事」と強調し、変わらず選挙活動をする考えを示した。

 共産党の前久氏の陣営は「民主主義の根幹である選挙中に起きた許しがたい蛮行。断固非難する」とコメント。街頭演説では「民主主義を守ろう」「暴力とテロを許すな」というパネルを新たに掲げるという。

 自民党の鶴保庸介氏の陣営は「民主主義の根幹たる選挙中、卑劣な蛮行が行われた。許せるものではない」と強調。「暴力には屈しない。最後まで活動を続ける」と話し、9日の街頭演説も予定通り行う。

 NHK党の遠西愛美氏は「本当に悲しい事件。このような悲劇を二度と繰り返さないために自分に何ができるのかを考えたい。私としては、最終日も時間が許す限りポスターを張っていきたい」と話した。

 参政党の加藤充也氏の陣営は「選挙期間中の暴力行為は民主主義を崩壊させるものだ。テロ行為で自粛すると屈した形になる。政治は言論で進めるべきで、最終日も予定通り進める」という。

■「極めて卑劣で凶悪」 仁坂知事

 仁坂吉伸知事は「犯人に対し、強い怒りを覚えずにはいられない。極めて卑劣で凶悪な犯行であり、決して許すことはできない」とのコメントを出した。

 紀南の市民からも驚きと憤りの声が上がっている。田辺市の自営業男性(40)は「政治的に安定していない国ならまだしも、日本でこんなことが起こるとは。選挙期間中に元首相が撃たれるなんて。とんでもない事件だ」と驚いた。

 「格差社会を生んだ安倍さんのやり方には反対だった」という白浜町の自営業女性(50)は「好きな人物ではなかったが、暴力でどうにかしようという考え方は間違っている」と憤った。

 田辺市の会社員女性(39)は「ニュースの映像を見ると、元首相が全く無防備で演説している。警備が甘かった。地方の駅前で起こった事件で、安全について認識を変える必要がある」と指摘した。

 田辺市の公務員男性(51)は「戦争が起きたり、銃乱射事件が起きたり。世界中で人が病んでいると感じる。この事件は世の中の大きな転換点になる。言論の制限など悪い方向に行かないか恐怖を感じる」と話した。

■こみ上げる三つの恐怖

 現代の日本でこんなことが起こるのか。衝撃の大きさに一瞬思考が停止した。参院選の最中に、安倍晋三元首相が凶弾で死亡した事件である。こみ上げてきたのは三つの恐怖だ。

 一つは犯行理由である。まだ全容は分からないが、政治信条に対する反対ではなさそうだ。どんな理屈を重ねても、凶行は正当化できない。それは大前提である。ただ、本人にしか理解できない理由だとしたら、犯行はいつ、どこで起きるか分からない。

 二つ目は分断の加速である。街頭演説などの警備体制は、当然見直す必要がある。ただ、警戒を強めるあまり、異なる意見を受け入れない風潮がさらに強まるのではないか。議論の場が制限されることは、民主主義の危機である。

 最後は安倍元首相の功罪についての議論である。経済政策「アベノミクス」は一定の成果を挙げたかもしれない。一方で、森友・加計学園や「桜を見る会」の問題など長期政権の弊害はまだ明らかにされていない部分も多い。これらが葬られてしまわないか。

 私たちにできることは、自分で考え、意思を示すことだ。そのためにも10日の投票は欠かせない。(喜田義人)

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