買い物ついでに網振ることも…絵本のモデルは身近な命 愛おしみ忠実に描く 生物画家・かわしまはるこさん

「生き物が必死に生きる姿に、愛おしさを感じながら描いている」と語る、かわしまはるこさん

 透明の飼育ケース越しに送られてくる愛らしい眼差し。緑色のアマガエルが、身をこごめるようにして木に上っている。埼玉県飯能市の生物画家かわしまはるこさん(55)の自宅アトリエには、作画の題材となるカエルや水生昆虫が暮らす。「生き物が必死に生きる姿に、愛おしさを感じながら描いている」。かわしまさんは目を細める。

 鉛筆を使い丹念に起こした下絵に、透明水彩絵の具でみずみずしい色彩を重ねる。飼育ケースの生き物は市内の水田や雑木林で採集する。「飯能は生活の近くに山や川がある。買い物のついでに網を振ることもある」と笑う。

 3匹のアマガエルが野原で遊ぶ姿を描いた「あまがえるのかくれんぼ」(世界文化社)。絵本作家の舘野鴻さんがストーリーを書き、かわしまさんが絵を担当した。「カエルのように人間も、毎日を生き切ればいい」。作品に込められたメッセージだ。

 もとは定期購読者向けの絵本だったが、読者らの強い要望があり2019年、単行本としての出版が実現した。「あまがえる」はシリーズ化され、老若男女に愛される作品となった。

 飯能で生まれ、高松市や千葉県船橋市で幼少期を送った。バッタやコオロギを虫かごに採り、家に戻ると昆虫図鑑で確かめた。図鑑は半世紀ほどが経過した今も傍らにある。

 本格的に絵に向き合ったのは38歳のころだ。舘野さんが描く精緻なハンミョウの絵の美しさに衝撃を受け、門をたたいた。動植物の観察方法や作画技術を磨き、作品に投影してきた。「生き物を忠実に描くこと」を信念に据える。例えばヒキガエルはヤブキリを捕食するかどうか。絵本にする場合は実験で確かめる。

 「絵本には文学・科学・表現の三つの柱が必要」。舘野さんの言葉を胸に抱く。「子どもが最初に手に取るのが絵本。相当な責任を日々感じている」。いのちを描く者の矜持をのぞかせた。

© 株式会社埼玉新聞社