<書評>『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』 モヤモヤの正体を発見

 「大変ありがたい本が出た」というのが最初の感想だった。これまで、メディア報道の中に、ジェンダーの視点から見ると気になる表現があっても、「大げさ」「考えすぎ」「揚げ足取り」など、こちらへの批判を覚悟の上でなければ声を上げられなかった。しかし、今後は「この本にもありますように…」と言えるようになったからだ。

 さまざまなメディアで、驚くほどジェンダー差別的な表現がある度に「ここに上がってくるまでに、社内では誰もおかしいと言わなかったのだろうか」と思っていた。しかしここにこそ日本の問題の本質があるのだと改めて気づかされた。「クリティカル・マス」の必要性だ。組織の中で発言力をもつには、その集団が一定の割合(3割といわれる)を占めなければならない。さらにそれは「意思決定」の地位にいなければならない。これが全く達成できていないということが本書では繰り返し指摘されている。

 また、公平性の担保のために両論併記が必要と言われることがある。しかし、一方は差別に基づいてただ相手の権利を否定している場合には両論併記は不要である。「偏っている」と言われるのを恐れて、全く根拠のない意見を載せて、おかしなバランスを取るのはやめるべきだ。と警鐘を鳴らしてくれている。

 さらに、日本のジェンダー平等が進まない最大の理由と言われる「性別役割分業」や多くの国で政策や研究に取り入れられて久しい「ジェンダー主流化」についてや、私の専門でもある性犯罪に関する「被害者の落ち度論」や「レイプ神話」の浸透にメディアが加担してしまっていること等、重要な内容が詰まっている。

 本書を読むと、誰もが「うちあたい」(自分の中に思い当たることがある)したり、自分が他人の言動に感じたモヤモヤの正体や理由を発見できたりするだろう。メディア関係者に限らず、多くの方にこの本を手に取ってもらいたい。

 メディアの中から声をあげるのは非常に勇気が必要だったと思う。筆者の皆さまには心からお礼を申し上げたい。

(矢野恵美・琉球大法科大学院教授)
 新聞労連ジェンダー表現ガイドブック編集チーム 加盟する全国紙や地方紙、通信社などの組合員約20人で構成。業界全体のジェンダー平等意識と表現の向上を目指して2020年から活動を始める。

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