ハイブリッドは「使わなくてもタイムは変わらない」と小林可夢偉。トヨタが置かれたBoPの厳しい現状/第4戦モンツァ

 7月10日、WEC第4戦モンツァ6時間レースは、決勝日を迎えた。気温の上昇が予想されるなか、現地時間正午のスタートを前に、トヨタGAZOO Racingのチーム代表兼7号車ドライバーを務める小林可夢偉と、8号車の平川亮が、現地からリモート形式の取材に対応。新たに登場したライバルであるプジョー9X8への印象や、現在のBoP(性能調整)の状況などを交えつつ、決勝への展望を語った。

 9日に行われた予選では、708号車グリッケンハウス007 LMHがポールポジションを獲得。トヨタの2台は8号車GR010ハイブリッドが2番手、7号車が4番手となっていた。

 可夢偉は「予選自体は、グリッケンハウスが想像以上に速かったというところですね。このモンツァでは、僕らのクルマはBoP上、厳しい戦いにはなっていますが、レースペースの方が予選よりも(ライバルに対して)いいというデータも取れているので、レースではしっかりと戦って、ミスなくレースをしたい」と現状と決勝への意気込みを語った。

 プジョーの参加もあり、今回のグリッドは38台という台数に膨れ上がっており、「おそらくこのWECシリーズでも、ル・マンを除けば一番台数が多いと思うので、FCYやクラッシュの可能性も踏まえて、しっかりとうまくマネージメントしていきたい」と、チームを統率する立場でもある可夢偉は、波乱も予想される決勝に備えている。

 一方、今年最高峰カテゴリーにデビューした平川は、モンツァについて「走行は5年ぶりとかだったのですが、一昨日・昨日とフリー走行を走ってすぐにサーキットは思い出すことできました」と語った。

 セバスチャン・ブエミ、前戦ル・マンでは優勝を遂げたが、そこで“走り込んだ”ことでGR010ハイブリッドへの習熟が進んだ面もあったとようだ。

「ル・マンでは目が回るくらい(たくさん)走ったので、クルマにもル・マンで慣れた感じはあって、(モンツァでは)練習での感触もすごく良かったです」

「ただ、レースは長いですし、プジョーが入ってきて、より厳しい戦いになると思うんですけど、ル・マンでやってきたことを引き続きやるだけだと思ってますし、ル・マンで勝って今度はチャンピオンシップかかってますし、次の富士の前の大事なレースになってくるのでル・マンで走ったように……というかそれ以上を自分なりに目指していければなと思います」

「速さ的にはBoPで絞られていますけど、安定性だったりチーム力では僕ら全然勝っていると思うので、そこでしっかりと発揮できればなと思ってます」

8号車トヨタGR010ハイブリッドをドライブする平川亮

 続いて、今回から参戦のプジョーについて平川は「コース上ではまだ出会っていない」としながらも、「正直、完成度は高いと思っています」と評している。

 ただ、予選では93号車がストップして赤旗の原因となったように、その信頼性にはまだ疑問符がつく状態のようだ。

 可夢偉も「しっかり走り込んでパフォーマンスはしっかりやってきたのかなとは感じるものの、信頼性の方の不安というのは噂でも聞いていまして、そういう意味では僕らがまずは信頼性高く、クルマの性能を引き出すことに集中できれば、いいレースはできるのかなと思っています」と述べている。

 続いて、プジョーは150km/hからフロントアクスルのハイブリッド・モーターが使え、トヨタは190km/h以上とされている現在のBoPについて問われた可夢偉は、GR010ハイブリッドが置かれている現状を以下のように説明した。

■BoPは「かなりディスアドバンテージなのは間違いない」

「僕ら、コーナリング中に使えるところはゼロですね。最終コーナー出口のあまり意味のないところと、ターン10(アスカリシケイン)の出口くらいで。実際、使わなくてもタイム変わらないという状態ですが、バッテリーを積んでいてリカバリーもあるので、出さないと(放出しないと)ブレーキばかり熱くなる状態になってしまうので、正直、あまり効率よくは使えていないのが現実です」

 プジョーとの40km/hの差について可夢偉は、「かなりディスアドバンテージなのは間違いない。正直、この状態でよく戦えているなというのが本音です」と語るが、不満ではなく前向きに戦う姿勢を強調する。

「もともとこのクルマを作り始めたとき、僕らは190km/hのBoPを課せられるということすら想定もしていなかった。それがいまは普通になってしまっていますが、僕らのなかではもう想定したレンジから外れちゃっているところで、頑張ってやっている。いまはこの状態でどうやってチーム一丸となって、パフォーマンスを引き出すのか。こういうなかでもしっかり戦い切る、というところでの勝負かなと思っています」

7号車トヨタGR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉。今季からチーム代表を兼任する

 現状では、『速いクルマを遅くする』のがシリーズのBoPに対する考え方だ。これは、例えばトヨタのハイブリッド使用開始速度を低くするなどして、『速い方に合わせよう』とすると、「他のところがそれに合わせきれない」(可夢偉)という問題が生じるためだという。

「僕らとしてはBoPが緩和されたところで勝負できれば理想的ではあるものの、例えば今回のレースでもなんとか戦って、(ライバルの)トラブルで(自分たちが)前に行ってしまったりすると、それはそれでまたBoP(の調整)は難しいのかなと思います。僕らとしては(シリーズ側に緩和を)働きかけてはいるものの、厳しい状態なのかなと思います」と、チーム代表として交渉する立場にもある可夢偉は、複雑な状況を説明した。

「来年、他のマニュファクチャラーが入ってきたときに、どこに合わせるんだというのは、おそらく誰もまだわからない状態だと思う」と可夢偉。

 平川も言うように、この先の後半戦はチャンピオンシップも見据えた重要な戦いとなる。トヨタとしては、引き続きこの状況下でもオペレーション上のミスなく戦い、得られる最大限のリザルトを積み重ねていくしかなさそうだ。

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