6時間続いたバトルと衝撃の結末。アクシデント頻発のモンツァ戦をアルピーヌが制す【WEC第4戦決勝レポート】

 7月10日、イタリアのモンツァ・サーキットでWEC世界耐久選手権第4戦『モンツァ6時間レース』の決勝レースが行われ、アルピーヌ・エルフ・チームの36号車アルピーヌA480・ギブソン(アンドレ・ネグラオ/ニコラ・ラピエール/マシュー・バキシビエール)が優勝。開幕戦セブリング1000マイルレースに続く、今季2勝目をマークした。

 トヨタGAZOO Racingの2台は、序盤8号車GR010ハイブリッドに電気系のトラブルが生じたほか、7号車が後半のトップ争いのなかでアルピーヌと接触、マシンを破損したうえにペナルティを科せられた結果、8号車が2位、7号車が3位でレースを終えた。

 ポールポジションからレース前半をリードしたグリッケンハウス・レーシングの708号車グリッケンハウス007 LMHは、レース後半に入ったところでトラブルからリタイア。また、このレースでデビューを飾ったプジョー9X8にもトラブルが度々発生し、93号車がリタイア、94号車は総合33位で初陣を終えている。

■プジョー、トヨタに序盤からトラブル発生

 現地時間11時56分、フォーメーションラップがスタート。天候は晴れ、路面はドライ。気温29度/路面温度45度という暑さのなか、6時間レースのスタートが切られた。

 ポールポジションのグリッケンハウス708号車は、ロマン・デュマがスタートを担当。オープニングラップはターン1で接近戦にはなったものの上位陣に目立った順位変動はなかった。

2022年WEC第4戦モンツァ6時間レースのスタートシーン

 
 3周目に入ったところでアルピーヌ36号車のマシュー・バキシビエールが2番手のトヨタ8号車へと襲い掛かる。1コーナーで前に出たものの、ターン4(第2シケイン)への加速では再び8号車セバスチャン・ブエミが前へ。そんな2番手争いが続いている間にも、トップのグリッケンハウスは別次元のラップタイムを刻み、マージンを築いていく展開となった。

 開始10分過ぎ、最終コーナーでLMGTEマシン同士の接触があり、早くもフルコースイエロー(FCY)が導入される。このFCYの間にトヨタ7号車のホセ・マリア・ロペス、次の周には8号車ブエミも最初のピット作業を行い、プジョー94号車のすぐ後ろで8号車が4番手、7号車が5番手でコースに戻る。

 このFCYは10分ほどで解除となるが、その直後、後方グリッドから追い上げていたプジョー93号車のミケル・イェンセンが、予選の再現かのようにコース上にストップしてしまう。ほどなくして動き出すが、ここで2回目のFCY導入となる。システムをリセットした93号車はなんとか再始動したが、ピット入口で再びマシンを止めてしまった。

レース序盤、トラブルに見舞われた93号車プジョー9X8

 この2度目のFCYの間に、グリッケンハウス708号車、アルピーヌ36号車、プジョー94号車がピットに向かうと、トヨタの2台が2&3番手に浮上する。FCYが解除されると、グリッケンハウスからトヨタ8号車までの差は20秒弱となった。

 50分過ぎ、トヨタ8号車をドライブするブエミは無線で何らかのアラーム(警告)が生じたことを報告、ピットからは走行を続けるよう指示が出されるなか、7号車、アルピーヌ36号車に次々とパスされ、順位を下げてしまう。

 1時間過ぎ、3番手のアルピーヌが7号車トヨタに襲いかかり、2番手を奪う。しかしその後、各チームが2回目のピット作業を終えると、ドライバー交代を行わなかったトヨタ7号車が2番手に復帰。ピポ・デラーニへと交代したグリッケンハウスとのギャップは16秒ほどとなり、そこからまたじりじりと広がっていく。

 トラブルを抱えた8号車も2度目のピットではブエミがコクピットに留まり、コースに戻るとプジョー94号車ジェームス・ロシターをパス、4番手をなんとか維持する。開始1時間30分を前に、長時間の修復を行っていたプジョー93号車もコースへと復帰し、周回を重ねていった。

 1時間50分、LMP2とLMGTEアマの接触により3度目のFCYが導入されると、ハイパーカークラスのトップ5台は相次ぎピットへ。トヨタは8号車がブレンドン・ハートレーへ、7号車はマイク・コンウェイへと交代する。これでアンドレ・ネグラオがコクピットに留まったアルピーヌ36号車が、再び2番手を奪い返す形となった。

 マシンを降りたトヨタ8号車のブエミは、テレビのインタビューに次のように答えている。

「電気系の問題があった。基本的にブレーキが効かず、トラクション・コントロールも効かず、クルマは運転しにくかった。ピットストップまでは何とかしたが、その後、ピットでパワーサイクル(再起動)を行ったんだ。いまは正常に戻っているようなので、このまま走り続け、回復できることを期待している」

 2時間02分経過時点で、FCYは解除に。首位グリッケンハウスからトヨタ7号車への差は48秒ほどとなる。

 2時間30分が経過する頃、FCYの手順違反により、首位のグリッケンハウス708号車にドライブスルーペナルティが発出される。その直後の2時間33分すぎ、33号車がターン4進入で姿勢を乱し、縁石に乗り上げたエンリック・シャベスが横転する大クラッシュが発生。これでセーフティカーが導入され、各車のギャップがリセットされた。

宙を舞い、逆さまになって着地したあと、さらに横転したTFスポーツの33号車アストンマーティン

 3時間経過を前に、SC中にトップ4台はピットへ。ここで左側2輪交換を行った7号車がグリッケンハウスから首位を奪う。708号車はまだドライブスルーペナルティを消化できていない状況のなか、2番手へと転落。さらに3番手には4輪交換したトヨタ8号車が続き、アルピーヌが4番手というオーダーに変わった。

■グリッケンハウスが白煙を吹く

 3時間ちょうど、レースは7号車を先頭にリスタートとなる。2番手をいく708号車は、再開翌周にドライブスルーペナルティを消化し、アルピーヌ36号車のうしろ、4番手でコースへ復帰する。

 この直後、グリッケンハウスが突如右エキゾーストから白煙を吹上げ、ピットへと向かう。さらに、コースへと復帰していたプジョーの93号車がまたしてもスローダウンする様子も映し出された。

 トップ7号車の数秒後方を走る2番手の8号車ハートレーには、アルピーヌ36号車のニコラ・ラピエールが襲い掛かるが、ラピエールはターン4をオーバーシュートするなど、なかなか攻略に至らない。

 3時間40分過ぎ、8号車がピットインし左側2輪を交換。ハートレーはコクピットにとどまる。次の周、首位7号車と3番手アルピーヌが同時にピットへ。ここで7号車は4輪交換と小林可夢偉へのドライバー交代を行ったことにより、ラピエールがドライブを継続したアルピーヌがトップに立ち、トヨタ8号車、トヨタ7号車という順位に入れ替わることとなった。

■アルピーヌとトヨタ7号車がストレートで接触

 4時間経過時点の首位は36号車で、そこから約2秒後方に8号車、さらに6秒後方に7号車とトップ3は10秒以内の息詰まる戦いに。4時間30分経過時点で、首位アルピーヌと2番手トヨタ8号車が同時ピットイン。アルピーヌはバキシビエール、8号車にはいよいよ平川亮が乗り込んだ。

 このアウトラップ、平川がターン2〜4でバキシビエールを攻略し、トップを奪う。しかし翌周にピット作業を行った7号車可夢偉が、この2台の鼻先でコースに復帰し、またしても首位が交代。3台1パックの総合優勝争いが展開されることとなった。

 2番手8号車の平川は再三バキシビエールに迫られ何度もしのぐが、最終的には最終コーナーで先行を許してしまう。

 さらにこの直後、残り1時間13分となったところでバキシビエールは首位可夢偉の7号車に迫っていくが、ホームストレート後半部分で36号車の左フロントと7号車の右リヤが接触。7号車は右リヤのカウルとタイヤを大きく破損し、スロー走行でピットで戻ることとなった。

 この接触によりデブリが散乱し、また同じタイミングでプジョーの94号車もコース上にストップしていたため、FCYが導入された。この時点で首位を走り続けるバキシビエールと、2番手平川とのギャップはほぼゼロ、テール・トゥ・ノーズの状態だ。

 ピットへと戻った7号車はリヤエンドとエンジンフード、そしてタイヤを交換すると、最小限のロスでコースへと戻る。ラップダウンにはなりつつも総合3番手はキープしたが、その後接触の原因となったとして、7号車には90秒ストップというペナルティが科せられることとなった。

 残り1時間2分の時点でレースはリスタート。バキシビエールは平川との差をじりじりと広げていく。残り34分、トップ2台は同時に最後の燃料補給へ。その差は7秒程度から3秒程度へと縮まった。

 最終盤も2台のギャップは変わらず、現地時間18時過ぎにレースはチェッカーを迎えた。アルピーヌが今季2勝目を手にしてランキングリードを拡大し、トヨタ8号車が2位、総合3位は2周おくれのトヨタ7号車となった。

優勝を喜ぶアルピーヌ・エルフ・チーム36号車のクルー
トヨタは8号車が2位、7号車が3位フィニッシュ

■LMGTEの大バトルと、残り2分でのまさかの決着

■LMP2:ハプスブルク組リアルチーム41号車が激戦制す

 オープニングラップではクラスPPのユナイテッド・オートスポーツ22号車オレカ07・ギブソンのウィル・オーウェンがトップをキープ、リアルチーム・バイ・WRTの41号車が2番手へ浮上する。さらに3番手にはプレマ・オーレン・チーム9号車、4番手にはベクター・スポーツ10号車が上がってくる展開に。9号車のルイ・デレトラズは41号車をパスし、2番手へとポジションアップを果たす。

 1時間目に導入された2度のFCYの後、3番手にはシャルル・ミレッシのリシャール・ミル・レーシングチーム1号車が浮上してくる。

 開始1時間を前に、プレマ9号車は首位へと浮上する。その後も上位勢は僅差のバトルを続け、2時間経過時点では、再びユナイテッド22号車がトップに。41号車、9号車が1秒以内の差で続く形で中盤戦へと突入すると、41号車のフェルディナンド・ハプスブルクが22号車アルバカーキをパスし、首位に立つ。

 その後3時間経過時点では22号車がトップに立つが、その後はトラブルからスローダウンする場面も。JOTA28号車が首位に立ち、34号車、1号車と続く展開となる。

 この3番手争いのなかで、1号車のポール・ループ・シャタンに9号車のロバート・クビサが追突。9号車にはドライブスルー・ペナルティが科され、1号車もトラブルからかスローダウンを喫した。

 後半戦はタイヤをトリプルスティントさせる作戦を成功させたJOTA38号車が首位に立ち、ベクター・スポーツ10号車、インターユーロポル・コンペティション34号車、リアルチーム41号車ら数台が10秒以内のトップ争いを繰り広げる緊迫の展開に。

 残り30分、2番手にポジションを上げた41号車のハプスブルクは、38号車ウィル・スティーブンスに迫ると、2台は同時に最終ピットへ。ここでハプスブルクが首位でピットアウトを果たし、そのままトップチェッカー。ハプスブルク/ルイ・アンドラーデ/ノルマン・ナトが表彰台の頂点に立った。2位にJOTA38号車、3位にベクター・スポーツ10号車が続いている。

LMP2クラスを制したリアルチーム・バイ・WRT41号車

■LMGTEプロ:激戦のポルシェvsフェラーリと、まさかのスプラッシュ

 オープニングラップではポールスタートのAFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evoが首位をキープ、その背後ではチームメイトの52号車フェラーリがコルベット・レーシングの64号車シボレー・コルベットC8.Rをパスし、AFコルセのワン・ツーとなる。

 開始10分過ぎのFCYの際に、首位の51号車はピット作業を行い、他のライバルとシーケンスがずれることになる。ライバル勢も2度目のFCYでピットを終えると、首位51号車の背後にはコルベット64号車、ポルシェ92号車が僅差で続く展開となった。

LMGTEプロ&アマクラスのスタートシーン

 各車、4輪交換や左側2輪交換などの戦略が分かれるなか、2時間経過時点では52号車が2番手に復帰し、再びフェラーリがワン・ツー体勢を築く。

 中盤のセーフティカー導入を挟んでもフェラーリのワン・ツーは崩れなかったが、4時間30分経過を前に首位51号車にはピットイン後にデータの提出がなかったとして、5秒ストップのペナルティが下る。これで51号車は4番手にまで転落してしまった。

 残り1時間を切って、3番手を争うポルシェ92号車とフェラーリ51号車が1コーナーへの進入で接触。92号車が3番手を守るが、その後も1コーナー、最終コーナーと何度もバトルが続き、ターン4で接触した2台はそろってエスケープゾーンに逃れる場面も。

 残り20分を切り、ケビン・エストーレの92号車にはLMP2車両および51号車との接触における非があるとして、ドライブスルーペナルティが科せられた。

 フェラーリ52号車の優勝は確実かと思われたが、なんと残り2分になって燃料スプラッシュのためのピットへ。これにより、コルベット64号車(トミー・ミルナー/ニック・タンディ)がクラス首位を手にする形となり、52号車はまさかの2位。3番手フェラーリ51号車も同時にピットへと向かうが、こちらは3位をキープしている。

■LMGTEアマ:ポールスタートのアイアン・デイムスは2位

 LMGTEアマクラスでは、シリーズで女性初のポールポジションを獲得したアイアン・デイムス85号車フェラーリのサラ・ボビーが序盤戦首位をキープ。Dステーション・レーシング777号車アストンマーティン・バンテージAMRの藤井誠暢は、開始30分時点までに3番手へ浮上する、得意のスタートダッシュを見せた。しかし777号車はその後、ピットレーンでのスピード違反によりペナルティを受けている。

 さらにDステーション777号車は1時間30分が経過する頃、星野敏のドライブ中にスロー走行でピットへと戻り、修復を行った。

 2度目のピットストップを引っ張りトップに立っていたTFスポーツ33号車は、2時間経過を前にしたFCYのタイミングでピット作業を済ませ、周囲のマシンが3回目のピットを行うなか、トップをキープしてコースへと復帰。2番手にアイアン・デイムス85号車、3番手にデンプシー・プロトン・レーシングの77号車ポルシェが続く展開となる。

 圧倒的優位を築きつつあった33号車だったが、ピットレーンでのスピード違反により、50秒ストップのペナルティが発出されてしまう。そのペナルティ消化直後、ターン4進入で姿勢を乱したエンリック・シャベスが、マシンが裏返るほどの大クラッシュ。シャベスは自力でマシンから降りている。

 4時間30分が経過する頃には、首位の85号車ラヘル・フレイに、77号車のハリー・ティンクネルが迫っていく。残り1時間でFCYが解除されると、ティンクネルが首位を奪った。

 残り6分、首位のティンクネルは燃料スプラッシュのためピットへと向かう。30秒ほど後方の85号車とのギャップが注目されたが、ティンクネルはなんとか首位を守り、クリスチャン・リード/セバスチャン・プリオールとともに、クラス優勝を遂げた。

 2位にオール女性ドライバーラインアップのアイアン・デイムス85号車、3位にはチーム・プロジェクト1の46号車ポルシェが入った。FCY時の速度違反やトラックリミット違反などで複数回のペナルティを受けたDステーション・レーシングの777号車は、クラス11位に終わっている。

LMGTEアマクラスを制した、デンプシー・プロトン・レーシングの77号車ポルシェ
LMGTEアマクラス2位に入ったアイアン・デイムスの85号車フェラーリ
Dステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMR

 WECの次戦、第5戦は9月9〜11日、日本の富士スピードウェイで行われる。

© 株式会社三栄