欧州では教えられた小手先の技術は通用しない。岡崎慎司が目指す、自分に矢印を向ける育成

岡崎慎司を始め、世界最高峰のサッカーを肌で感じた選手たちが“日本人が世界とどう戦うべきか?”のリアルな声をさまざまな形で発信している。岡崎はこうも話す。「今の子どもたちは『根性、根性』では全然響かない。時代は間違いなく変わってきている」。偉大な先人の声が届き、次世代の子どもたちは常に変化している。では、より多くの日本人選手が世界の舞台で活躍するために、この先、一番変わらなければいけないのは、育成年代の子どもたちを見守るわれわれ大人たちなのではないだろうか?

(インタビュー・構成=中野吉之伴、写真=Getty Images)

「自分に矢印を向けて育成年代から取り組めるか」

サッカーはチームスポーツだ。エゴイスティックなプレーの連続で仲間に迷惑をかけることは許されない。でもチームのために自分を犠牲にすることがチームプレーというわけでもない。

「やっぱり自分に矢印を向けて育成年代から取り組めるかが大事だと思う」

岡崎慎司はそう語気を強めていた。

自分だけになってしまうとサッカーにならないというこのスポーツの特性を理解した上で、ちゃんと自分に矢印を向けられるかどうか。

「自分のためにやること、つまりチームとして取り組む役割がある中で、プラスアルファ自分にはもっとこういうことができるという可能性に気づける環境が自然とできてくるといいなと思います。そうした点で指導者や現役選手がそういったヒントになる考えや取り組みを伝えていくことが大事だと思います」

やりたいプレーを我慢して抑え込むと窮屈になってしまう。いつ、どこで、どのように活用すれば、そうしたプレーがチームにとって生きるのか、プレーヤーとしての長所がチームにとっての武器になるのか。そこへ選手がチャレンジする機会こそが育成年代では重要なのだと岡崎も同意する。

「いかに(チームとして取り組む役割が)今できているとされる選手たちに、さらに上のレベルに行けるためのビジョンを見せてあげられるか。今やれていること、頑張っていること、チームのためにできていることはすごくいいのだけど、もっと上のレベルに行きたいのであれば、そこからさらに今できないことにチャレンジしていくことが大事。今できている役割でやりがいを感じて満足してしまう人も多いじゃないですか。言われたことをやってそれで上のレベルに行ける選手もいるけど、でもそういう選手はいずれ『自分で何かをしなきゃいけない』となった時にぶつかる壁がいっぱいある」

「体に自然と染み付いている技術」と「教えられた技術」

選手が現状に満足せず、より上のレベルを目指すために指導者の助言は必要だ。だからといって指導者が「しのごの言わずにこれをやれ!」となったらそれはまた違う。ここ数シーズン、スペインでプレーする中で岡崎は気付いたことがあるという。それが「体に自然と染み付いている技術」と「教えられた技術」の差だ。

「スペインの選手を見ていて一番思うのは、彼らには技術が自然と体に染み付いてる。だから相手からのプレッシャーを感じるような局面であっても、彼らの技術はブレない。あれは教えられた技術じゃない。

誰かに教えられて最低限できるようになるものには限界があって、そうしたものは大舞台であればあるほど如実に自然と体に染み付いたものとの差が浮かび上がってくると思うんです。試合中の局面でいうと、本当にミスをしてはいけない場面、例えばゴール前でのビッグチャンスでいかに自分の形でシュートまで持ち込めるのかであったり、ボールを自分たちで回している段階で相手から激しいプレッシャーを受けてもそれをいなして落ち着いた局面を作り出せるかであったり。

そういった場面で、『相手がプレスをかけてくるほうを予測して、スペースにボールを運んで、上半身をうまく作って相手選手をブロックしながら前に出る』みたいな知識を意識してプレーしようとしていたら試合ではやっぱりうまくいかない。

スペインの2部リーグでも、外から見たら多少雑かもしれないけど、そうした技術を自然と発揮できる選手がいっぱいいる。そういう選手たちを見て、肌で感じられたのはスペインに来れてよかったと思います。ドイツでは、規律がある中でフィジカル的な豪快さとかスピードがあって、そうした中で発揮される技術が備わっている。そういう部分を学びました」

「高校サッカーは組織的で、大学サッカーは主体的」への違和感

人は「ゆっくり意識して思考するパターン」と「素早く無意識化で思考するパターン」を持っている。意識して考えると脳内エネルギーは多く消費されるし、実践への移行スピードは遅くなる。でも無意識化の思考は整理されていないと精度が低くミスの要因ともなる。だからこそ、育成年代から意識して取り組むことを無意識下で自然と発揮できるようになるために、自分に矢印を向けて自身のプレーと常に向き合い、多くの試合経験を通してチャレンジと失敗を積んでいくことがとても大切なのではないだろうか。

「僕もYouTubeで那須大亮さんの動画とかよく見るんです。この前、早稲田大学(ア式蹴球部)監督の外池大亮さんが出ている回があったんですね。その中で大学生と高校生の違いというテーマで、例えば高校生が大学生と試合すると、高校生のほうがチームとして組織が出来上がっているけど、大学生チームのほうが主体性があるという話をされていて……。

でもやっぱりこれは逆じゃないといけないと思うんですよ。高校生のほうがまず主体性があって、大学生だと主体性がありながら、組織がしっかりしているという流れになるべきではないかなと思うんです」

これはスポーツの世界に限った話ではない。筆者も以前日本のとある大学生にグループインタビューをさせてもらったことがある。その時は参加者みんなが「何回ミスをしてもいいから、自分たちで考えて、自分たちでアイデアを練って取り組んでみなさい」という趣旨のゼミに参加することで、初めて「自分たちで考えてチャレンジして、失敗して、そこからまた考えて挑戦することの大切さがわかりました」と話していた。そのことに気付けたことはもちろん素晴らしいが、一度身に付いた習慣を変更することは簡単なことではない。「大切さがわかった」からすぐに実践できるわけでもないのだ。

「伸びしろを残して成長する」ことの重要性

「やっぱり海外だと自分に矢印が向く。もちろんチームのためにやっているけど、でも自分のためにもプレーしている。自分の成長のために取り組みを探し続けている。だからこういう思考をもっと日本の子どもたちも理解したほうがいいんじゃないかって思うんです。『チームのため』とか『自分のため』とか、どちらか極端に頑張るのではなくて、サッカーというスポーツを理解した上で、自分のためにも頑張る。そうしたことをサポートして、そうした機会を作ってあげられる育成の進め方をしたほうがいい。そうじゃないと結局どこかで選手自身が壁にぶつかって苦しくなってしまう」

主体性というのは、小さいころから持っておくべき大事な要素であるはずなのだから、「主体的にサッカーに関わる」「矢印を自分に向ける」という考え方は幼稚園、小学校のときから少しずつ習慣化していくことが望ましい。

その時々で持っている子どもたちのキャパシティーがやらなきゃいけないことでいっぱいになったら、あるいはキャパシティーでは抱えきれないほどの負荷やストレスをかけられ続けてしまったら、どこかで限界に達してしまう。キャパシティーを埋めることが育成ではなく、キャパシティーの枠組みを広げていくことが本当の意味での育成なのだ。「伸びしろを残して成長することが大切」という言葉はドイツの指導現場でよく聞く。岡崎もうなずきながら、自分の思いを明かしてくれた。

「次世代とされる今の子どもたちは僕らの世代と違って、もしかしたらもっと楽観的に物事を捉えているような気もします。自分の子どもを見ていても思いますね、『根性、根性』では全然響かない。時代は間違いなく変わってきている。だから日本人らしさを正しく教わりながらも、スポーツとしてはより世界に近づくような、ヨーロッパに近づいていけるようなアプローチを見つけられるんじゃないかなって思っています」

<了>

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PROFILE
岡崎慎司(おかざき・しんじ)
1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。スペインリーグ2部・カルタヘナ所属。ポジションはフォワード。滝川第二高校を経て2005年にJリーグ・清水エスパルスに加入。2011年にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍。2013年から同じくブンデスリーガのマインツでプレーし、2年連続2桁得点を挙げる。2015年にイングランド・プレミアリーグ、レスターに加入。加入初年度の2015-16シーズン、クラブ創設132年で初のプレミアリーグ優勝に貢献。2019年に活躍の地をスペインに移し、ラリーガ2部のウエスカに移籍。リーグ戦12得点を挙げてチーム得点王として優勝(1部昇格)に貢献。2021年8月より同じくラリーガ2部のカルタヘナでプレーする。日本代表としても、歴代3位の通算50得点を記録し、3度のワールドカップ出場を経験。2016年にはアジア国際最優秀選手賞を受賞している。

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