女性落語家たちの快進撃、伝統芸能に吹く新風 全国各地の落語会も活況

真打ち昇進披露公演に臨む蝶花亭桃花さん=東京都内(本人提供)

 伝統芸能である落語に今、爽やかな新風が吹き込んでいる。女性の落語家たちが相次いで活躍し、女子高校生を主人公に据えた落語漫画の雑誌連載が話題に。全国各地の落語会「まち落語」も活況で、落語愛好者の層を広げている。(共同通信=小池真一)

 ▽2人の女性真打ちが誕生

 皇居に程近い国立演芸場(東京)で5月、格付け最高位の「真打ち」になったばかりの若手落語家の披露公演があり、大入り満員になった。駆けつけた観客のお目当ては、蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)さんだ。
 3月、落語協会に4人の真打ちが誕生したが、うち2人が桃花さんら女性。真打ちの一つ格下の「二つ目」時代から人気を博してきた桃花さんは、話芸に打ち込む姿勢も高い評価を受けていた。入門後15年余りでの真打ち昇進を、師匠の春風亭小朝さんは涙で祝福した。
 祝いの舞台には異例にも、かわいらしい少女の大きな絵が飾られた。軽快な出ばやしで小躍りするように桃花さんが登場すると、会場はにわかに華やいだ雰囲気に一変。演目は「浮かれの屑(くず)より」。のんきな居候男と紙屑屋が戯れるさまを生き生きと描きだし、民謡「おてもやん」を三味線で弾き歌ったり、人形振りで小粋に踊ったりと、観客を終始楽しませた。

 ▽女性の時代到来を象徴する落語漫画

 近年、女性の落語家たちがさまざまなコンクールで快進撃を続けている。昨年11月の「NHK新人落語大賞」では、並み居る男性落語家を退けて桂二葉(によう)さんが大賞に輝いた。

NHK新人落語大賞を制し笑顔の桂二葉さん=2021年11月1日、大阪市

 この年の「さがみはら若手落語家選手権」も林家つる子さん、前年は春風亭一花(いちはな)さんがそれぞれ優勝した。寄席の関係者は「男のまねではない、女性噺家(はなしか)ならではの落語が面白い」「女性視点の新しい落語で愛好者を増やしている」などと歓迎ムードだ。

 そんな女性の時代到来を象徴する落語漫画「あかね噺」が今年2月から「週刊少年ジャンプ」で始まった。主人公の女子高校生、朱音が父親の志を継ぎ、落語家を目指す物語。心優しい師匠をはじめ面倒見のいいきょうだい弟子、イケメンの好敵手、絶大な影響力を持つ大物噺家らとのやりとりの中で、落語家の階段を一歩一歩上っていく。ひたむきな姿が読者の共感を呼んでいる。
 「あかね噺」は読者にとっても“成長譚(たん)”になり得る内容となる。「寿限無」「まんじゅうこわい」など古典落語の解説はもちろん、寄席や落語会の紹介も充実している。

漫画「あかね噺」のイメージ画像(C)末永裕樹・馬上鷹将/集英社

 読み進めるごとに落語に詳しくなる仕掛けだ。読者に加えて本職の落語家の支持も集め、6月に単行本第1巻が発売され、版を重ねている。
 落語漫画は初挑戦の原作者、末永裕樹さんは「落語を聞く体験を漫画でどう見せるか」が工夫のしどころだと言う。「大人がたしなむイメージの強い落語を少年漫画にするというミスマッチの先に、まだ見た事のない面白さがあるはず」と期待を込める。作画の馬上鷹将さんは「寄席の落語家さんを通して見えるイメージのようなものを絵にしたい。『落語に少し興味があるけれど、詳しくない』という方にオススメです!」と呼びかける。

 ▽全国津々浦々で「まち落語」

 落語家が入門して真打ちになるまでに、通常は15年程度の修業が必要とされる。寄席に出演する機会がごく限られた「二つ目」などの落語家は、観客を前に日頃の稽古の成果を披露する場を自ら探さないといけない。そんな若手に手を差し伸べるのが、各地の落語会だ。熱心な愛好家をはじめ町のイベント会社、飲食店などが若手落語家を招き、全国津々浦々で小規模の落語会を開いている。こうした「まち落語」は全国で計100を下らないともいわれる。
 まち落語はとにかく個性的だ。地元ゆかりの落語家の独演会、女性落語家がそろい踏みの会、ご当地の名所・名物をお題にした会、子ども連れでも見られる会…。男女を問わず若手落語家たちはここで話芸を磨き、得意な演目を増やし、仕事にもなる。未来の落語文化の担い手を支えるという大切な役目もあるのだ。
 まち落語は、愛好者の拡大にも一役買っている。以前は東京や大阪などの寄席に行かないと触れられなかった生の落語が、住まいの近くで見聞きできるようになった。落語家と観客の交流の場も設けられており、落語家好きを増やしている。

長崎もってこい寄席」に出演する若手の三遊亭わん丈さん

 「長崎もってこい寄席」(長崎市)の主催者、前田克昭さんは「『いい噺家になるぞ!』という二つ目の落語を、長崎のお客さんは大いに楽しみ、熱烈に歓迎してくださる。落語文化に少しでも貢献できるのならうれしい」と話す。
 月刊誌「東京かわら版」には、全国の落語会情報がてんこ盛りだ。近年のまち落語の盛り上がりについて、編集長の佐藤友美さんは「インターネットの普及も後押ししている。落語会の主催者がメールや交流サイト(SNS)を通じて直接落語家に連絡し、仕事の依頼もできるようになりました」。落語会のPRもやりやすい。
 まち落語などで鍛えられた若手が集い、話芸を競い、交流する「公推協杯全国若手落語家選手権」が今年8月にスタートする。異才、逸材など“未来の名人”の登場に、落語界は期待を寄せている。

公推協杯全国若手落語家選手権についての詳しい情報はこちら

https://bunp.47news.jp/wakaterakugoka/2022/

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