事前受付を開始したiDeCoと企業型DCとの併用加入、メリットとデメリットを解説

企業型確定拠出年金加入者の老後の資産形成を加速させる「iDeCoの併用加入」がいよいよ10月から始まります。運営管理機関は7月からこの申し込みの事前受付を開始しました。この記事ではiDeCo併用加入のメリット・デメリットを解説します。


ダブルでお得? iDeCoの併用加入で得する人

今回iDeCoへの加入要件が緩和されたのは、企業型確定拠出年金(企業型DC)加入者です。これまでは会社の規定に「iDeCoへの加入を認める」という定めがなければ併用加入ができなかったのですが、2022年10月からは、会社の定めにかかわらず個人が希望をすればiDeCoへ加入できるようになります。

通常iDeCoの新規加入には、手続きに数ヵ月を要するため、スムーズに手続きを進めるために各運営管理機関では7月1日(金)より事前受付を実施しています。申し込み締め切りも各社ばらつきがあったり、プレゼントがもらえるキャンペーンを開催しているところもあったりするので、加入を検討している方はぜひ各社ホームページをチェックしてみましょう。

iDeCoに併用加入すると、その掛金が全額所得控除となり税金を軽減させることができますから、有利な条件のもと老後の資産形成を拡大することができます。個人がiDeCoで拠出できる金額は、会社の掛金とiDeCoの掛金が合計55,000円以内でかつ20,000円が上限です。なお、確定給付型の他制度も会社にある場合は合計27,500円以内で、かつ12,000円が上限です。また、事業主掛金が毎月ではなく、年単位拠出の場合、iDeCoへの併用加入ができません。

企業型DCの事業主掛金は、勤続年数や役職などに紐付いて金額が決まっているところも多く、若年層では金額が少ない傾向にあります。従って今回のiDeCo併用加入は、より積極的に老後資金作りに取り組みたいという方には朗報です。また、企業型DCは会社によって商品が決められているので、より幅広い選択肢を持つこともできます。

iDeCoの最低掛金は5,000円なので、その金額を下回ることはできません。

マッチング拠出との選択ポイント

会社によっては、事業主掛金に個人が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」があるところもあるでしょう。マッチング拠出とiDeCo加入は両方できず、いずれかの選択になります。

マッチング拠出のメリットは、iDeCo同様に個人の掛金が全額所得控除になるところです。この点ではどちらを選んでも税のメリットは同じです。しかしマッチング拠出の掛金は「事業主掛金を上回ってはいけない」というルールがあるため、事業主掛金が少ない方はiDeCoで拠出した方が老後資金作りは拡大します。

拠出できる金額の他にも3つの検討項目があります。

1. マッチング拠出は企業型DCの制度の中で行うので、かかる手数料を会社が持ってくれます。一方iDeCoは、新規で加入する際の2,829円と月々の管理手数料最低171円を自己負担します。
2. マッチングの掛金で運用ができる商品は企業型DCの運用商品となります。一方iDeCoは運営管理機関によって運用商品ラインナップが異なるので、どこを利用するかご自身で決める必要があります。
3. マッチング拠出の掛金は事業主掛金と同じ口座で運用されますが、iDeCoの場合は別口座になります。従ってマッチングの方が管理はしやすいといえます。

上記はマッチング拠出制度がない方がiDeCo併用加入をする場合も同じく注意すべきポイントです。

iDeCoの魅力を最大限に活かすには

確定拠出年金は、原則60歳まで資金の引き出しができません。そのためライフステージに変化があった際にポータビリティといって、これまでの運用資金を企業型から個人型、個人型から企業型へと移し換えることが可能です。しかしこの時、すべての運用商品を売却し現金化しなければならないという点は、案外知られていません。

例えば会社を転職する際、企業型DCの加入資格を失いますから、会社の制度内に設けてあった口座を精算し次の口座に資金を移換しなければなりません。次の口座は、転職した先に企業型DCがあればそこに移換しても良いですし、iDeCoの口座を開設して移換しても良いです。あるいは、転職先に企業型DCがなければ、iDeCoに移換します。なお、これらの手続きは、会社を辞めてから6ヵ月以内に行わないと、国民年金基金連合会という国の機関に資金が自動的に移換されてしまい、移換の手続きが煩雑になります。

さて、移換の際にはすべて現金化という点ですが、これを知らずにいたらどういうことが起こるのでしょうか?

運用商品は会社を辞めるタイミングで売却されますから、場合によっては損失を被ることがあります。転職前にうまく利益を確定させ、低リスクのポートフォリオにスイッチングしておけば問題ないのですが、すべての人がうまくできるわけではありません。また移換後に運用を再開するまでに時間もかかります。

一方iDeCoは個人の口座ですから、「移換しなければならないケース」はまずありません。以前は、転職先に企業型DCがある場合、企業型DCに移換しなければならないというルールでしたが、現時点ではそのまま運用指図者で保有することができさらに10月からは加入者となり掛金の拠出も可能になります。

このように、iDeCoは最長75歳まで運用を中断させることなく継続できる点が魅力と言えるでしょう。

他にも、企業型DCの運用商品ラインナップがもはや競争力を失っているケースもあります。その点iDeCoは各社投資信託のコスト引き下げに注力し、魅力的な商品ラインナップにしようといった努力が散見されます。ただし、商品の違いや月々の手数料の違いは、リサーチが必要なので、iDeCo加入をお考えの方はぜひしっかりと時間をとって判断いただきたいところです。

他制度掛金が大きい方は併用加入NG

企業年金には企業型DCの他、DBと呼ばれる確定給付企業年金や厚生年金基金といった制度もあります。10月からは、このように企業型DC以外の企業年金制度がある方でもiDeCo併用加入が認められます。

金額は企業型DCの事業主掛金とiDeCo掛金の合計が27,500円以内でかつ12,000円が上限です。しかし2024年12月に更なる制度改正が予定されており、企業型DCの事業主掛金とiDeCo掛金と他制度掛金の合計が55,000円以内かつ20,000円が上限となります。

つまり他制度掛金が大きければせっかくiDeCoに加入しても、2024年以降継続拠出ができなくなることも考えられます。この他制度掛金については、会社から従業員にお知らせをするようになっているので、該当者はそれを確認の上iDeCo加入を検討してください。

万が一、他制度掛金が理由でiDeCoの加入資格を失ってしまうと、iDeCoは運用指図者として継続するか、DBなどに移換するかになります。現在企業年金があり12,000円枠でiDeCoに加入している方も2024年12月以降他制度の掛金とiDeCoの掛金の合計が55,000円以内で、かつ20,000円が上限になります。その際も他制度掛金の額によっては、iDeCoの加入継続ができなくなります。

いずれにしても、資産形成の裾野が拡大するのは非常に良いことだと考えます。しっかりご自身の状況を確認した上で、税制優遇の仕組みを最大限活用しましょう。

© 株式会社マネーフォワード