2021年は約3万7,000社が誕生 インボイスを控え、設立が簡易な合同会社が人気

 設立の手続きが簡単で、資本金1円でも設立できる合同会社が増えている。新たに設立された法人(以下、新設法人)数を2016年と2021年で比べると、株式会社が微増(4.8%増)の一方、合同会社は6割増(60.4%増)と人気を集めている。2023年10月のインボイス制度開始に向け、個人事業主が法人化に際し、設立が簡単で運用負担も少ない合同会社を選んでいることも背景にあるようだ。
 コロナ禍の2021年(1-12月)に全国で新設された法人は、14万4,622社(前年比10.1%増)と1割増えた。このうち、合同会社は3万6,934社(前年比10.9%増、構成比25.5%)で、株式会社の9万6,025社(前年比10.8%増)に次いで多かった。新設法人の4社に1社を占める合同会社の存在感が増している。
 政府は起業を5年で10倍に増やすことを打ち出し、2022年をスタートアップ創出元年と位置づける。時流に乗る合同会社だが、一方で無計画な起業による倒産も目立ち、投資勧誘トラブルなど出資を巡る想定外の問題も浮上している。
 2006年5月の会社法改正で合同会社が始まり、約15年が経過した。今後も合同会社の新設増が見込まれるが、問題点も浮かび上がり、制度見直しが必要な時期に差し掛かっている。

  • ※「合同会社」は、一般的に他の法人格と比べ設立の手続き期間が短く、費用も安い日本版のLLC。設立後も決算公告や株主総会が必要なく、利益分配の柔軟性も高い。創業ベンチャーなど、少人数による事業に適した法人格。

新設法人の4社に1社が合同会社

 2021年の新設法人数のうち、主な法人格別では伸び率トップの「合同会社」は2017年から5年連続で法人格のトップを持続する。2019年は前年比5.4%増に上げ幅は落ち込んだが、2020年、2021年は10%台の増加率で推移。2021年の構成比は25.5%で、新設法人の4社に1社まで増加した。
 新設法人の構成比は、株式会社が緩やかな減少、合同会社は逆に緩やかに増加傾向と対照的な推移を見せている。

合同会社

【産業別】建設業が急伸、金融・保険業は再び増加

 合同会社の産業別では、10産業のうち、不動産業を除く9産業が前年より増加した。唯一、減少した不動産業は金融緩和などで都市圏を中心に投資が流入し、不動産価格の高騰で新規参入が控えられたようだ。
 増加が目立つのは建設業(前年比42.5%増)で、コロナ禍の2020年に減少した反動もあり、2021年は個人企業の法人化や独立が活発だった。また、減少傾向にあった金融・保険業も一転して増加した。今後、合同会社への出資を巡る投資勧誘の規制強化の影響が、合同会社の新設に影響を及ぼすか注目される。

【業種別】学術研究,専門・技術サービス業が最多

 産業別をさらに細分化した業種別では、経営コンサルタントなどノウハウや技術を提供する学術研究,専門・技術サービス業が5,730社(構成比15.5%)で最多だった。コロナ禍でも個人の経験や知識を生かした創業が堅調だった。次いで、減少に転じた不動産業4,684社(同12.6%)、ソフトウェア開発やウェブサイト制作など情報サービス・制作業4,194社(同11.3%)、医療,福祉事業の2,674社(同7.2%)と続く。
 コロナ禍が直撃した飲食業は2,370社(同6.4%)と前年から13.2%増加した。アフターコロナを見据えた動きのほか、インボイス制度の開始前の法人化も相次いでいるとみられる。 

【都道府県別】増加率トップは長崎県、減少は8県で地域による濃淡が広がる

 都道府県別では、最多は東京都の1万1,624社(前年比8.2%増、構成比31.4%)と全国の3割を占めたが、増加率は全国32位で伸び悩んだ。次いで、大阪府が3,027社(同21.2%増、同8.2%)で全国10位の増加率だった。3位は神奈川県の2,760社(同11.5%増、同7.4%)と続く。
 増加率トップは、長崎県の前年比51.8%増。次いで、鳥取県の同42.8%増、鹿児島県の同40.3%増と続く。一方、減少率は、秋田県が唯一、2ケタ減の同12.0%減と最大の減少率だった。以下、山形県が同8.4%減、石川県が同7.0%減、熊本県が同5.3%減、岡山県が同5.1%減、岩手県が同4.6%減、岐阜県が同1.8%減、愛媛県が同0.5%減と8県が減少した。
 地区別では、全9地区で増加した。新設法人数の最多は東京都を含む関東が最多の1万9,614社(前年比10.3%増、構成比53.1%)。最少は北陸の499社(同8.4%増、同1.3%)だった。

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 インボイス制度の開始を控え、個人事業主の動きが慌ただしくなっている。個人事業から法人に移行すると最長2年間の消費税の納税義務を免除される場合があり、法人設立が容易な合同会社が注目を集めている。
 だが、安易に法人化し、甘い計画やノウハウ不足、脆弱な資金背景などで、設立すぐに破産するケースも少なくない。また、個人契約ではなく、個人に設立させた合同会社と契約することでクーリングオフが原則適用されなくなる金銭トラブルも発生している。
 2022年7月、証券取引等監視委員会(SESC)は、これまで金融商品取引業の規制対象外だった合同会社の従業員による出資を募る投資勧誘を、投資家保護の観点から登録の範囲を拡大する必要があると指摘。今後、金融庁により規制が強化される方針だ。
 大企業の外資系企業を中心に、株式会社から合同会社に組織変更するケースも多い。合同会社はスタートから約15年が経過するが、一定の規模や期間を経過した合同会社には経営の透明性を高める仕組み作りも必要かも知れない。
 新設法人の4社に1社が合同会社で、停滞が続く日本経済のけん引役になる可能性も秘めている。そのためにも合同会社はメリットの享受だけでなく、信頼される法人格になるための分岐点を迎えている。

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