「社会の底辺だ」と言い放ち、キャバクラ女性店員を襲った弁護士 法廷で明かされた人権感覚の〝麻痺〟疑う数々の言動

男が男性店員に対する傷害事件を起こした千葉市中央区富士見2丁目の現場付近

 キャバクラの女性店員を自宅に連れ込んで暴行するなどし、2件の強制性交致傷と1件の傷害の罪に問われた千葉県弁護士会所属の38歳弁護士の男に、懲役13年の判決が下された。「おまえらは社会の底辺」「俺は弁護士だから逮捕されない」。千葉地裁の法廷で明かされたのは、人権感覚の麻痺をうかがわせる犯行時の言動の数々だった。被告側は判決を不服として控訴し、審理の場は東京高裁に移る。(共同通信=広根結樹)

 ▽〝黒服〟殴り暴言

 検察側の冒頭陳述や被告人質問などによると、起訴されたのはいずれもキャバクラの関係者が被害者の事件だった。
 1件目は2019年11月に、千葉市中央区富士見2丁目で起こした男性店員に対する傷害事件。男は女性店員をバーに誘い、アルコール度数の高い酒を無理やり勧めていた。飲食後、腕をつかんで「ホテルに行くぞ、タクシーに乗れ」と強引に誘ったが、女性は拒否。女性の電話で駆け付けた男性店員らと口論になり、もみ合いになった末に顔や胸を殴り転倒させた。
 「警察を呼ぶ」と告げられた男は「呼べば。おまえらみたいな仕事をしてる人間は信用されない。社会の底辺だ。くず。警察は弁護士とつながってるから逮捕されない」と言い捨てた。

 ▽ひょう変し乱暴

 2件目は2021年3月7日にあった、別の店の女性に対する強制性交致傷事件だ。女性とは店で連絡先を交換し、2日後に外で食事をした。「ゲームをしよう」「(女性の)好物をプレゼントする」。弁護士という肩書もあって信用を深めた女性は、一緒にタクシーで千葉市中央区中央にある男のマンションに向かった。

女性乱暴事件のあった、男が住んでいたマンション

 だが、部屋に入ると男はひょう変する。急に襲いかかってきて服を脱がそうとし、抵抗されると顔を3回殴り、無理やり乱暴した。犯行後はタクシーを呼んで1万円を手渡したという。
 3件目はその1カ月後の4月8日。また別のキャバクラの女性と店外で食事をした。女性はアルコール度数の高い酒を飲むよう促され、次第に危機感を抱いて断ったが「店の人に失礼だ」と男に言われ、飲み続けるしかなかった。食事後、カラオケかバーの2択を迫られ、カラオケを選択。だが、実際に連れて行かれたのは男のマンションだった。
 部屋に入ると、男は女性の髪をわしづかみにして顔を数回殴ってすごんだ。「やらせてくれたら帰してやるって言ってんだろ」「さっさとやらせろ」。抵抗すると何度も殴られたが、女性は必死の思いで逃げ、通行人に助けを求めた。
 追いかけてきた男は「酔ってるから気にしないで」とごまかそうとしたが、通行人の男性が110番しようとすると一変。「俺は弁護士だから警察でも何でも呼べ」。ほどなくして駆け付けた警察官に緊急逮捕された。

 ▽弁護「する」側から「される」側に

 逮捕から1年余り過ぎた2022年5月、男は千葉地裁の裁判員裁判初公判に、被告人として法廷に立った。刑務官に伴われて入廷した男の髪は短く刈りそろえ、上下黒のスーツに紺色のネクタイ。罪状認否では「間違いございません」と整然と述べた。その後の法廷での振る舞いは、〝弁護団の一員〟さながらで、弁護人の間に座ってモニターをのぞき込み、卓上にノートを広げて細かくメモを取ったり、弁護人と小声で相談したりしていた。

弁護士バッジ

 被告人質問では、犯行の原因を「病的な気質」と自己分析した。自分の思い通りに相手が行動しないと激高し、相手の気持ちが理解できないと説明。背景には「飲酒による判断力の低下とストレスがあった」と吐露した。

 ▽別のキャバクラでも

 法廷では、3つの事件の前に起こしていた、さらにまた別のキャバクラでのトラブルも明かされた。
 最初の傷害事件の約7カ月前。女性店員と食事の約束をしていたのに断られた。「約束してキャンセルするのは詐欺。夜の女はクソばっかだな。裁判所で会いましょう」。LINE(ライン)でメッセージを送ると、所属する弁護士事務所に女性側から連絡があり、内部処分を受けた。
 その後はエリート街道を転げ落ちていった。傷害事件も事務所の知るところとなり、2019年12月に約10年所属した勤務先を追い出され、個人事務所を構えることを余儀なくされた。

事件で所属事務所を追い出され男が新たに構えた個人事務所が入っていたビル(画像の一部を修正しています)

 検察官から、おごりがあったのではと尋ねられ「とてつもない売り上げを上げていて、他の弁護士と比べものにならないくらい仕事をしていた。プライドを持っていたが、おごりかは分からない」と強気に反論した。

 ▽反省は読書

 被害女性に対しては「痛く、怖い気持ちにさせた」とし、被害者の気持ちを理解するために数十冊の本を読んだと明かした。裁判官から「刑務所の中では何をするか」と質問されると「できるだけたくさんの本を読むこと」。「反省や償いは」と問われても「接触してはいけないので、積極的にできることはない。再犯をしないことを求められており、それに向けて本を読むのが大事」と答えるのみだった。
 検察側は懲役15年を求刑した論告で、被害者らは「弁護士の被告」を信頼しており、家に行って襲われる考えはなく、被害者の落ち度と言うのは酷だと言及。「高い倫理性を求められる立場を理解せず、弁護士としての優越感から相手をさげすみ、犯行をエスカレートさせた」と指摘した。
 弁護人は、被害者3人に計1130万円を支払って損害を補塡し、民事上は解決していると主張。多数の文献を読み、謝罪文を書くなど反省しているとして、懲役3年が相当だと主張した。

公判が開かれた千葉地裁

 判決は懲役13年。起訴内容を全て認定し、上岡哲生裁判長は量刑理由を述べた。「飲食店従業員を見下すという偏った考えを持ち、問題行動を改める努力も不足していた」と指摘。「被害者の心情や被害の実情に思いを致す部分が少なく、自らの犯した罪に向き合い、十分に反省しているとは評価できない」と述べた。
 その上で「法律家として犯罪の悪質性を理解しているはずの被告人が故意による犯罪を複数行っており、非難されるべき」と断じた。同じ法律家から告げられた厳しい言葉の数々。被告は前を見据えたまま聞いていた。

 ▽涙も…

 今年6月7日まで5回開かれた公判で、被告が涙を見せたのは、別居していた妻が証言した時だった。その後の被告人質問では「一番大事なものは、これまで資格や売り上げだと思っていた。失ってみれば大したものではなかった。一番大事なものは家族ですね」と語った。判決が確定すれば弁護士資格は剥奪される。誇っていた肩書を失い、自らが犯した罪にどこまで真摯に向き合うことができるのか。

© 一般社団法人共同通信社