「あの日を忘れてほしくない」被災地に“まちの薬局”誕生 7月3日開店に込めた思い【熱海再生へ】

静岡県熱海市で起きた土石流災害から1年を迎えた今月3日、被災した伊豆山地区に一軒の薬局がオープンしました。「地元の力になりたい」。この街で生まれ育った男性の強い思いがありました。

薬剤師の千葉久義さん49歳。地元の伊豆山で、自分の店をもちました。地区唯一の薬局です。名前は、1、2、3で「いずさん」と読みます。

<千葉久義さん>

「痛いとかあります?」

<客>

「痛くはない。ただ、声が枯れているだけ」

<千葉久義さん>

「医薬品じゃない飴でいいのかな。それか粉タイプのやつとか」

<客>

「そういうのがいいかもしれない」

<千葉久義さん>

「きょう、お客さん来なかったらどうしようかと思ったので助かりました」

1年前の災害では、土石流が流れ下った場所から少し離れたこの建物も被害を受けました。

<千葉久義さん>

「天井がないですね。ボコって剥がれ落ちてしまって」

水道管が破裂し、一面水浸しに。全面改修が必要になりました。

<被災当時を知る鈴木まり子さん>

「外から見てもわからないし、場所も離れているから、皆さんわからなかったと思うんですけど、中は本当に結構ひどかったので、きれいになっただけではなくて、次のスタートがあるというのは良かったなと思っている。みんなが顔を合わせて困りごとを話すとか、お年寄り同士が話せるとか、そういうところは期待している」

この人も千葉さんの応援団のひとりです。

<被害者の会 会長 瀬下雄史さん>

「なかなか罹災証明の対象にならず、非常に悔しい思いをされていると当初から相談を受けていて、一緒になって歩んできたので、そんな千葉さんが新しく地元で薬局をオープンされて地域の方々のためにやられていくことに対して素晴らしいことだなと思っているし、心から応援しています」

街のほとんどが坂道の伊豆山地区。人口の57%が65歳以上と高齢化も進んでいます。千葉さんは遠くに買い物に行けないお年寄りのことを考え、品ぞろえを充実させました。

<千葉久義さん>

「例えば、こういう虫よけスプレーや洗剤もそうですね」

<記者>

「ご飯とかも?」

<千葉久義さん>

「高齢者は1人暮らしが多いので、案外ちょっとしたものが必要だと聞いたことがあるので、そういう人のために揃えました。例えば、薬局を通じてお医者さんに相談したりとか、福祉関係、介護関係につないだりだとかできるので、どこか“最初のきっかけの場”を作るのが薬局が一番適していると思ったので、伊豆山になかったのでこの機会に薬局を作りました」

薬局を開くまでの準備期間はわずか3か月。建物の修繕費の一部は義援金や保険で賄いましたが、自己負担で650万円ほどかかりました。それでも7月3日にオープンさせたい。千葉さんの強い思いがありました。

<千葉久義さん>

「自分自身にも地域にも他の地域の人にも、7月3日は忘れてほしくないという想いで今回オープンしたので、それが私自身にも、色んな方にも広がっていってもらえればと思います。(災害から)1年間ですが、過ぎたら早い1年間ですが、長くて重い1年間でもあったので、また新しいスタートだと思ってきょうから頑張りたい」

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