止まらない円安、物価高、金利上昇の不安…個人でできる資産運用の対策は

本稿を執筆している2022年7月11日に1ドル137円を突破しました。約24年ぶりの円安ドル高水準です。為替レートは、2021年9月後半から、原油をはじめとする原材料高騰、ウクライナ侵攻、ドル金利上昇による日米金利差拡大など様々な要因により、急激に円安に進んできました。

なかでも大きい要因は日本と米国の金利差拡大です。米国が金利を上げる一方で、日本は金利を上げないでいると、ドル金利と円金利の差が大きくなります。すると、投資家は「円で運用よりも高金利がもらえるドルで運用した方が有利なので、ドルが欲しい」と考えます。
1ドル137円が適正かどうかはさておき、日米の金利差から考えれば、円安ドル高が今後も続くとみて良さそうです。

今回は、円安、物価高、金利上昇の中で、個人でできる資産運用の対策を考えていましょう。


「円安だから外貨を持つ」は間違い

日本に住む私たちは、国内で買い物するときに日本円を使いますので日本円を持つことは必要不可欠です。ですが、米ドル通貨など外国通貨を持つ必要性は低いです。

海外旅行・出張に頻繁に行くような人であれば、海外で生活する時間が多いので、外国通貨を持っておけば為替レートの影響を受けにくくできるということはあるでしょう。

ですが、海外移住の予定がなく日本に住むのであれば、外貨を持つ必要はありません。

ただし、一方で海外資産を持つことは必要です。それは、円安による為替差益を狙うことではなく、海外資産の成長力に投資するということです。米国株であれば、米国の経済成長はもちろん、米国企業の成長力に資金を投じて、その成長の果実を得るということです。

もちろん、海外資産に投資をした時よりも、円安・外国通貨高になっていれば、為替差益による資産増も期待できます。

為替レートに関係なく海外資産への投資を続けよう

世界経済は為替レートに関係なく成長しています。IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し(World Economic Outlook)」では、ロシアのウクライナ侵攻や、燃料価格・食料価格の上昇の影響下で、2022年・23年の世界経済の成長率は3.6%と予想しています。

為替レートに関係なく全世界への投資を続けるべきと考えます。

もしも今後円高の局面がやってきたときにも、積立投資を続けていれば、海外資産を安く(多く)買い付けることが可能。そうすることで、平均購入単価が引き下げられますので、その後値上がりしたときに得られる利益も大きくなります。

また、「円安でもS&P500への積立投資を続けるべき?」の記事でも解説しましたが、米国株は今後も長期的には右肩上がりで成長していくと考えられます。

「QUICK資産運用研究所」の調べによれば、2022年6月末時点の資金流入額(1ヶ月)が一番多かったのは「eMAXIS Slim米国株(S&P500)」であり、583.18億円となっています。多くの人が、円安・株安の中でもS&P500への投資を継続しているのがわかります。

大事なことは、為替レートの変動とは関係なしに、長期的に右肩上がりになる資産への投資を続けることです。

つみたてNISAやiDeCoで国内資産にしか投資していない状況であれば、米国をはじめ海外資産にも投資することを検討してみてください。日本株に投資することでも、物価高(インフレ)ヘッジになりますが、より成長の果実が大きいところに投資する方が大きな資産増を期待できます。

既に海外資産へ投資をしているなら、淡々と続けましょう。今後、円高・株安のダブルパンチで資産を大きく下がる局面が来た時は、ドルコスト平均法の効果で多く買い付けできるチャンスだと考えることです。

長期間の積立投資を続けることで、複利効果の恩恵を受けながら大きな資産を築くことができるでしょう。つみたてNISAやiDeCoであれば、非課税の恩恵も受けてより効率良くお金を増やすことができます。

なお、「為替ヘッジあり」の商品を選ぶと、為替レートの変動による資産の増減リスクを抑えて資産運用ができます。為替ヘッジに多少のコストはかかりますが、為替レートの変動で大きく損をすることを防げますので、リスクをとりすぎるのが怖い方は、取り入れてみるのもいいでしょう。

「有事になったから金(ゴールド)を買う」は誤り

金(ゴールド)はそのものに価値があり、どの国でも通用する資産です。「有事の金」と言われるように、世界経済が不景気になったり、株式などの資産が暴落したりしたときに上昇する傾向が見られます。つまり、ポートフォリオの値下がりリスクを抑える効果が期待できるのです。

なお、金には、株式の配当や投資信託の分配金のようなインカムゲインはありません。安く買って、高く売るというキャピタルゲインでしか利益を生み出せないことに注意が必要です。

そんな金投資ですが、「有事になってから買う」は誤りです。

有事になることで、金価格は上昇しますが、有事が収まれば金価格は下落するからです。よって、金投資のスタンスは、タイミングをみて買い儲けを狙うのではなく、有事が起こる前に、資産の値下がりリスクを抑えるために行うのが正しいといえます。

補足しておくと、物価高(インフレ)に応じて、金価格も一般的に上がりますので、インフレヘッジの資産としての役割もあります。

なお、そんな金ですが、金融ジャーナリスト鈴木雅光さんの記事「「金」ってそもそも買った方がいいの?最近、金価格が上昇している理由」でも解説されている通り、長期的には金価格が上昇する可能性があります。

年金基金をはじめとする機関投資家は、ポートフォリオのリターンアップとリスク分散を図るため、株式や債券だけでなく、金ETFなどオルタナティブ資産にも投資しています。

世界中の機関投資家がリスク分散を目的に金ETFへの投資を進めるほど、金価格は今後も上昇傾向になるといえるわけです。

今が有事だから金を買うというのではなく、長期的に値上がりしていく傾向があることを見据えつつ、リスク分散の観点から金を買うのは良い戦略といえます。

金利が上昇して買うのを検討する資産は「米国債」

金利が上昇すると、企業の借り入れが減るため、景気の過熱を抑えることになります。それを見越して、株価は下落していくことになります。

また、資産への需給面でも、金利が高いなら株よりもリスクの低い債券で運用したいというニーズが増えますので、株から債券に資金が移動することで株価下落が起きます。

既に米国債などの債券に投資をしている場合、今後の金利上昇により保有している債券価格は下落してしまいますが、満期まで保有するのであれば金利上昇による債券価格の下落は気にする必要はありません。

まだ米国債を保有していないのであれば、米国債への投資を検討してはいかがでしょうか。米国債は格付機関による格付が高い(S&P:AA+、ムーディーズ:Aaa)にもかかわらず、2〜3%程度の高い金利が受け取れるとあって、世界中で活発に取引されています。

一般的に株価と債券価格は逆の値動きになります。仮に株価が下落したときには、債券価格は上昇する、というわけです。金と同様、米国債も株価下落時のヘッジに役立つことがわかります。

株よりも低リスクで高い利回りが得られるのではあれば、リスク分散の観点も含めて米国債を購入するのは良い戦略といえます。

株式投資を続けるなら長期で保有するための銘柄選びが大切

暴落や下落相場でも株式投資を続ける場合は、暴落に負けない好業績銘柄に投資しておくことが大切です。

暴落や下落相場では、市場全体が一時的に下落します。しかし、業績のよい「好業績銘柄」ならば、立ち直りも早く、その後の成長も見込めます。

好業績銘柄は「長期的な潮流の業界」から探しましょう。たとえば「健康」「ヘルスケア」「美容」「医療」「農業」「セキュリティ」などは今後も伸びていく分野です。

肝心の業績ですが、過去3〜5期分・予測2期分の売上高・営業利益が両方とも右肩上がりになっているかが重要。売上高・営業利益が両方とも増えているということは、本業でしっかりと稼げ、事業を拡大できていることを表します。

また、配当目的で投資されている場合は、「連続増配」かどうかにも注目です。基本的に増配は、会社が成長して利益を出していないとできません。

米国株では50年を超えて連続増配を続けている企業が多く、Procter&Gamble(P&G)、ジョンソン・エンド・ジョンソン、3M、コカコーラなどがあります。

日本株では20年以上増配を続けている銘柄は、本稿執筆時点で、花王、SPK、三菱HCキャピタル、小林製薬、ユー・エス・エス、リコーリース、トランコム、ユニチャーム、沖縄セルラー電話、リンナイ、KDDI、サンドラッグの12銘柄となっています。30年を超えて連続増配を続けているのは花王のみで、33年連続の増配です。

もちろん、これらの銘柄も、暴落や下落相場では株価が下落するでしょう。

しかし、リーマンショックやコロナショックといった大きなショックを乗り越えて会社が成長し、配当金を増やしてきたのですから、業績の安定した、強い銘柄だといえるでしょう。


以上、円安、物価高、金利上昇の中で、個人でできる資産運用の対策を考えてきました。

資産運用は、何も「リスク資産」に投資するだけが正解ではありません。預貯金や個人向け国債など「無リスク資産」で運用することも重要です。

生活費の6ヶ月〜1年分の金額は預貯金で用意しておき、毎月の積立投資は家計に無理のない金額で行うことです。そして、リスク許容度にあった運用になっているかを確認し、リスクを取りすぎているならば、低リスク資産の比重を上げていくのを忘れずに。

目先の値動きにとらわれず、長期的な視点をもって、資産形成に取り組んでいきましょう。

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