【参院選2022×「Z世代」】有権者の半分は投票に行かず…もっと「エモい」政治を

 若者の政治離れ。低調な投票率でその印象が定着したが、数字の背後にある実情に迫りたい─。Z世代に近い若手記者有志が展開した本企画『Z世代×未来』。政治意識の濃淡が異なる10代~25歳前後のZ世代と、少し上の30代までの本音を追いかけてきた。

 安倍晋三元首相が銃撃されたのは、そのさなかだった。平成と令和をまたいで最長政権を築いた安倍氏は、Z世代にとってもなじみ深い存在だった。奈良市内の事件現場に設けられた献花台に10代の参列者も目立つ。京都市の女子高校生(17)は「言論を暴力で止めてはいけない」と思い立ち、駆け付けた。涙を流しながら花を手向け、「投票に行きます」と誓う若者もいた。

 ありふれていた自由が不意の凶弾によって脅かされ、図らずも民主政治の尊さを際立たせる選挙になった。世代にかかわらず、私たちを行動に駆り立てるのは、胸の奥からこみ上げる感情だ。よりよい未来を求めて1票を投じるのも、突き詰めると同じことだろう。

◆衝動に突き動かされ

 大統領選で20~30代の7割前後が投票する韓国。「投票の原動力は怒りや不満」と留学生イ・ソクミンさん(25)は教えてくれた。「不満を解決する手段は政治しかない」と言う。

 日本の若者はどうだろう。この参院選で初めて与えられた選挙権を行使した専門学生マオさん(18)。政治意識を芽生えさせたのは、幼少に抱いた違和感だった。夏祭りで女子だけ踊りを披露する伝統は「納得できない!」。ジェンダー平等を求めるようになったという。

 「投票所入場券も見たことなかった」と明かすほど、もともと無縁だった政治を生業にまでしたのは町田市議の矢口まゆさん(32)だ。転機はミニトマト。子どもが生まれて保育園の給食を調べると、細断せずに丸ごと提供している実例に驚いた。窒息の恐れがあると国も注意喚起しているのに「どういうこと!?」。幼児の安全管理に専念する政治家は見当たらず、28歳で市政に飛び込んだ。

 唯一の20代の国会議員、馬場雄基さん(29)=福島県=の原点も、生徒会長として理不尽な校則を正した高校時代の成功体験だった。「おかしいじゃないか!」と携帯電話の「校内持ち込み禁止」に抗議した当時を振り返ると、「今やっていることと何ら変わらない」と言う。

◆「いいね」を押すように

 同世代の多くにとって「意識高い」系に一括されるであろう4人。でも、どうか。「納得いかない!」「どういうこと!?」「おかしいじゃないか!」という衝動は、誰しもに常日頃湧き上がるはずだ。高尚な使命感や正義感というより、差し迫った課題を解決したいという切実さに裏打ちされている。

 デジタルネーティブのZ世代は「共感」でつながる。23万5千人の登録者を引きつけるカップルユーチューバーともかほが好例だ。交流サイト(SNS)の「いいね」ボタンを押すのは、心の機微に触れたとき。つまり、衝動だ。共感がモチベーションを生む。それは選挙の投票だって、変わらない。

 今回の投票率(選挙区)は52.05%。前回をやや上回ったとはいえ、有権者のほぼ半分は投票に行かなかった。既存の政治はやはり大きな共感を呼び起こさず、心に刺さらないまま、すれ違い続けるのだろうか。

 Z世代が心のどこかで求めているのは、感情を揺さぶる政治ではないか。この世代の言葉を借りれば、もっと「エモく」。

 そして若者は、もっとカジュアルに感情を表していい。投票だって「いいね」を押すように─。そのとき、両者の距離はさして遠くない。

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