「にくきゅうぷにぷに党」が圧勝!参院選の裏で注目を集めた「にゃん員選」 仕掛け人は本物の選挙管理委員会

 参議院議員選挙の投開票を翌日に控えた7月9日、宮城県では別の選挙の結果が発表された。選ばれた3匹の猫による「にゃん議員総選挙」。愛くるしい3候補が、コミカルなマニフェストをそれぞれ掲げるという、猫好きに“刺さる”イベントに3千人以上が一票を投じた。
 仕掛けたのは宮城県選挙管理委員会。参院選の投票率アップを目的に、特に若い人に選挙への関心を持ってもらおうと企画した。党名や争点を設定し、投票の手順も参院選とほぼ同様にしたこだわりっぷり。堅苦しいイメージを与えないよう「猫の手を借りた」。(共同通信=松本拓)

 ▽争点の一つは「人間が猫をなで過ぎ問題」

 3候補は「おひるねだいすき党」のみーちゃん(スコティッシュフォールド)、「おさかなぱくぱく党」のやんちゃん(ロシアンブルー)、「にくきゅうぷにぷに党」ぎんちゃん(マンチカン)。
 いずれも普段は仙台市内の猫カフェに所属。3候補の名前の頭文字をつなげると「みやぎ」となる。つまり、本名ではない。
 争点は次の三つ。(1)人間が猫を広告にいっぱい使い過ぎ問題(2)世界的に猫じゃらし不足問題(3)人間が猫をなで過ぎ問題―で、猫の世界で物議を醸している?とされる課題が並んだ。
 争点に対する各候補の意見は、投票会場やホームページ上で紹介された。

にゃん員選の投票会場の外観=仙台市

 例えば「広告に使い過ぎ問題」。みーちゃんの主張は「朝昼の撮影はきつい。猫の生活に合わせるよう人間を説得するニャ」。やんちゃんは「出演機会が少ない他の動物に譲って、全動物の所得向上を目指すニャ」、ぎんちゃんは「かわいいから仕方ないニャ。出演料を上げてもっと稼いでいくべきニャ」とされている。
 「なで過ぎ問題」では、みーちゃんは「(触る際は)申請書の提出を求めて制御するニャ」、やんちゃんは「ソーシャルディスタンスの徹底ニャ」、ぎんちゃんは「これまで通り、ふれあいが大切ニャ」と訴えたことになっている。

 ▽そのまま参院選に投票できる仕組み

 県選挙管理委員会は、投票期間を6月25日~7月3日に設定。JR仙台駅前の複合施設に投票会場を設置したほか、全国の猫好きの思いに応えるべく、ウェブサイトでの投票も可能にした。
 投票用紙は実際の選挙とほぼ同じ。この複合施設には参院選の期日前投票所もあり、「にゃん議員総選挙」に参加した人が、そのまま本物の選挙の投票に向かえるよう工夫されていた。

投票会場内にある記入場所

 7月2日午後、会場に立ち寄ったアルバイトの女性(53)は「おひるねだいすき党」という名前とコンセプトを気に入り、みーちゃんに投票。「国政選挙だけではなく、県議選や市長選でもやってもいいのでは」と評価した。さらに「動物園の中の選挙みたいに、いろいろな動物が登場しても面白いと思う」と提案した。
 通りがかりに参加したという男性会社員(54)は、ぎんちゃんを選んだ。「人間と協調してやっていこうという思いを感じ、ルックスも良かった」
 投票用紙や投票箱がほぼ本物だった点を挙げ「投票に行ったことがない人も、少しは流れが分かるようになっている」と評価。一方で「投票後にどうなるのかが分かると、より楽しめると思う」と注文も付けた。
 仙台市の女子高校生(16)もぎんちゃんに投票。理由は「主張が人間にこびを売っている感じでかわいいと思った」から。有権者になるのは2年後だが「投票の流れは分かりやすかった」と選挙への理解を深めた様子だった。

 ▽「実際の投票も簡単にできると感じてもらえたら」

 7月9日の結果発表で、投票総数は計3327票と明らかにされた。当選したのは「にくきゅうぷにぷに党」のぎんちゃん。約6割の1910票を占め、他の2候補を寄せ付けずに圧勝した。ちなみに、白票も6票あったという。会場では、ぎんちゃんのソロステッカーが配布された。

にゃん員選の投票箱

 選挙管理委員会の担当者は手応えを語った。「楽しみながら選挙にも関心を持ってもらえた」。猫を使うアイデアは、委託先の民間企業から「広告に猫を使うと好感度が高い」と教えてもらったという。
 投票会場が仙台駅前ということもあり「学生やカップルなど、予想より多くの若者が訪れて参加してくれた。実際の投票も簡単にできるんだと実感してもらえたらうれしい」と話した。 
 参院選の傍らでの“選挙戦”で、職員はさぞ多忙だったのではと心配したが「『にゃん議員』を担当したのは選挙啓発のチーム。投開票日などを除けばじっくり取り組めたので大丈夫」と明かした。
 次回以降も実施を求める声が上がっているが、「ご好評いただいたので、どのくらい若い人に刺さったのか分析しながら、この経験を生かしていきたい」という。

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