<社説>原発事故株主訴訟 経営陣の責任は当然だ

 東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁は13日、勝俣恒久元会長や清水正孝元社長ら旧経営陣4人に計13兆円余りの支払いを命じた。安全対策を怠った当時の経営トップの責任を司法として初めて認めた。 未曽有の被害をもたらした原発事故で、責任の所在を明確にした判決の意義は大きい。原発は安全でも低コストでもない。経営者個人が負担するにはあまりに巨額な責任を負うことになる原発の経営は、事業として破綻していると言っていい。脱原発を進めなければならない。

 訴訟は、廃炉や汚染水処理の費用などで会社に巨額の損害を与えたとして、一部株主が旧経営陣5人に対して総額22兆円を東電へ賠償するよう求めた。2012年3月の提訴以来、巨大津波による事故を予見できたかどうかが焦点となってきた。

 予見可能性を巡り、政府の地震調査研究推進本部が02年に公表した地震予測「長期評価」に基づき、東電子会社は福島第1原発に最大15.7メートルの津波が到達する試算を出していた。13日の判決は、長期評価は科学的信頼性が認められるとし、大津波が来ることは予見できたと結論付けた。

 試算を得ながら対策を先送りした東電の対応について、朝倉佳秀裁判長は「いかにできるだけ現状維持できるか、有識者の意見のうち都合の悪い部分を無視ないし顕在化しないようにするかということに腐心してきた」と厳しく批判。試算に基づき建屋や重要機器室の浸水対策工事を実施していれば、事故を避けられた可能性があったと判断し「事故対策を速やかに指示すべきだったが、取締役としての注意義務を怠った」と旧経営陣の賠償責任を認めた。

 原発事故が起きるまで、国も電力会社も原発は「安全」だと強調して設置を推進してきた。その内側では、対策工事の費用がかさむことを嫌がり、現場任せの対応で適切な対策を先送りしていた。発電コストを抑えることが経営者の関心であり、原子力事業者としての徹底した安全意識は根本から欠けていた。

 今回の賠償額は国内の民事訴訟で最高とみられる。津波対策を放置した経営判断のつけは巨額の代償となった。だが、原発事故で住む土地を失い避難生活を続ける人がいる。廃炉の見通しは立たず、大量の汚染水が日々生じている。どんな金額を積んでも取り返せる被害ではない。

 旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判では、大津波の予見可能性はなかったとして一審は無罪となった。だが、今回の判決は東海第2原発(茨城県)を運営する日本原子力発電が浸水対策を取っていたことなどを挙げ、東電も「浸水対策を発想することは十分に可能だった」とした。経営陣が責任を負うのは当然だ。

 電力会社と共に「安全神話」を掲げて原発政策を進めてきた国の責任も問われる。

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