シュガー「ウエディング・ベル」最大級の愛情表現 “くたばっちまえアーメン”  昭和の “ウェディングソング” の定番といえばこの曲!

歌うはポプコン出場の実力派、シュガー「ウエディング・ベル」

自分を振って別の女性と結婚式を挙げる元恋人に「くたばっちまえ!」と言い放ち、これでもかと悪態をつく合いの手が入る歌詞。対して楽曲は、三声の美しいア・カペラから繰り広げられるボサノバ調。そのギャップによって一躍注目されたグループ… それがシュガーである。

シュガーとは、メインボーカルでキーボードのミキ(笠松美樹)、ギターのクミ(長沢久美子)、そしてリーダーであるベースのモーリ(毛利公子)からなる女性三人組のバンドだ。

さて、今回取り上げる「ウエディング・ベル」という、シュガーのデビュー曲であって最大のヒット曲… 実にセンセーショナルであり、新人とは思えぬ歌唱力に世間はざわついたものである。それもそのはず、元々神奈川県出身の二人(モーリとクミ)は、第14回ヤマハポピュラーソングコンテスト、略称“ポプコン”に出場するほどの実力者であって、地元音楽仲間ではすでに有名な存在だったのだ(このときのグランプリは世良公則&ツイストの「あんたのバラード」… 後に第8回世界歌謡祭グランプリ受賞)。

ちなみに彼女らは、このポプコンの第19回つま恋本選会で入賞する “きゅうてぃぱんちょす”(後の杉山清貴&オメガトライブ)の初期メンバーでもある。そしてこの実力者二人にミキが合流して、ついにシュガーはデビューを飾ったのだ。

新人ながら、彼女たちシュガーは前述の通り、お洒落なボサノバ調の楽曲と皮肉たっぷりの歌詞で世間の注目を集め、「ウエディング・ベル」はとうとう70万枚のビッグセールスを記録する。そしてその絶大でチャーミングな人気はデビュー翌年の1982年、第33回NHK紅白歌合戦への出場を決めたことでハッキリと証明されたのだ。

軽妙、コミカル、ほのぼの… でも結構どぎつい歌詞

さて、今回は、この大ヒットした要因のひとつである独特な歌詞に注目してみたいと思う。

詞と曲を手掛けたのは音楽プロデューサーでもある古田喜昭さん。彼もまた、ポプコン出身である。どちらかというとアニメ主題歌を手掛けていたことで有名かもしれない(アニメ代表曲は「きてよパーマン」など多数)。

まず歌詞の冒頭から「からかわないでよ」「本気だったのよ」と、フラれた感をじわじわと滲ませつつ、美しいア・カペラからボサノバの前奏に入り、そのメロディに乗せた歌詞へ被せるように合いの手を入れてゆく。

そして「ドレスがきれい」「初めて見たわ」など正直な気持ちも含めつつ「私の方がちょっときれいみたい」と歌い、そこに絡む合いの手は「ずっとずっときれいみたい」である。

軽妙かつコミカルで、ほのぼのとしながら結構どぎつかったりするのだ。そしてサビからの最後、「ひと言 いってもいいかな くたばっちまえ アーメン」と歌うのだから堪らない。

「アーメン、ソーメン、冷そうめん」なんて言っていた僕ら世代に「アーメン」は、文脈に終止符を打つパワーワードだ。止めを刺された感満載で、つい笑ってしまう。

「くたばっちまえ」は江戸っ子特有の愛情表現?

それはさておき、ここで注目したのは「くたばっちまえ」の言葉である。紛れもなく江戸っ子口調… 通称べらんめぇ口調と呼ばれる江戸言葉である。

ちなみに僕のお義父さんはバリバリの下町出身だ(文京区根津神社あたり)。そしてこのべらんめぇ口調が行き交う親戚の集まりが正月にあって、僕は毎年仕方なく出席するのだけれど、まあ怖いこと怖いこと(笑)。 

「おぅ兄貴! 元気か馬鹿野郎! とっくにおっちんでんじゃねぇかと思ったら、まだ生きてやがんなこの野郎!」

みたいな挨拶を、ニコニコしながらするのである。北野武さんの喋りを想像してもらえばわかりやすいかもしれない。ただ僕は、横浜出身の父を持つお坊ちゃん育ちなので、こんな「あったりめえだ! べらぼうめえ!」みたいな状況が普通の状態なんて、恐縮しまくりなのである。ただこれ江戸っ子特有の愛情表現であって、その深さの証明でもあるんだよね。

そう考えると「くたばっちまえ!」とは、江戸っ子として特有の照れ隠しであって、標準語に意訳すれば「お幸せにね」というエールじゃないかな? と思ったのだ。

二人へ贈る最大級の賛辞

この歌の主人公である女性は、きっとバリバリの江戸っ子家庭で育ち、気風のいい女性なのだろう。フラれてしまったけれど、元カレからの招待状が届いたからには、

「ここで行かなきゃ女が廃る(すたる)!」

くらいな男気溢れる勢いを醸し出したに違いない。幸せそうな結婚式の最中、本当は私がこの式の花嫁さんだったのに… と、少ししょんぼりするけれど、そこは江戸っ子、やせ我慢こそが性分であり江戸っ子の本懐である。

「べらんめえ、この野郎、くたばっちまえ!(二人とも、ずっとずっと、お幸せにね!)」

という幸せな二人へ贈る最大級の賛辞が飛び出した… なんてストーリーを考えてしまうのだ。そして最後に「アーメン=神に誓います(意訳)」である。讃美歌は、どんな曲であっても最後に必ずこのアーメンという言葉で締め括ることが決まりである。

つまり「くたばっちまえ=お幸せにね」を「神に誓います」と彼女は宣言するわけで、この曲はそう、紛れもなく聖歌であり讃美歌だと僕は確信する。だからこそ、この楽曲の最初はア・カペラ=教会音楽の様式で始まるのだ。

最後に―― この幸せいっぱいの曲を歌ったリーダーのモーリこと毛利公子さん。1986年、シュガー解散後もTV、ラジオのリポーターや司会者として活躍を続け、1988年に結婚。その後妊娠。ただ、出産を10日後に控え幸せ絶頂であったはずの彼女は突然悲劇に襲われてしまう。腹部の痛みから病院に駆け込んだところ胎児の死亡を確認、その深夜、それを原因とした珍しい症例により彼女自身も帰らぬ人となってしまったのだ。享年29。

ここにあらためて哀悼の意を表します。

※2018年4月7日、2021年11月21日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: ミチュルル©︎たかはしみさお

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