第22回〈特別編〉 認知症患者ががんなどの重い病気になったら

女性のがん患者に寄り添うジャパニーズ・シェアがお届けする連載。アメリカで暮らす女性に役立つ最新医療情報を発信する。


今回は、特別編として婦人科腫瘍専門の鈴木幸雄医師と老年医学専門の山田悠史医師に、お話を伺いました。

認知症患者への治療は
どのように進めますか?

山田:鈴木先生のような、がん治療医にかかる前の段階が、私たち老年医学科の役割と言えます。認知症患者では、本人に治療を選択する意思決定能力があるかどうかで状況が大きく変わってきますので、まずはその判断をします。もし、意思決定能力に欠けているということであれば、本人だけでなく家族など本人を理解する意思決定代行人と共に、治療の方向性を決めていかなければなりませんので、認知症でない患者さんよりもひと手間かける必要がありますが、治療を始めるに当たって重要なプロセスです。

本人が全く意思表示できないと、何事においても家族に意思決定をゆだねることになりますが、実際にはそうでないケースがほとんどで、本人、家族での共同作業により意思決定がなされます。その際、必ず注意したいのが、家族は「自分だったらこうしたい」という視点で語りがちだということ。「本人だったらどうだろうか?」と、想像しながら治療を決められるように意識することが大事だと伝えるようにしています。

鈴木:私も基本的なスタンスは同じです。認知症患者のがん治療における大きなポイントは2つ。まずは山田先生の話す通り、治療前の段階ですね。患者さんが治療に耐えられるかどうかに加え、本人の意思決定能力が十分でない場合には本人の意思をそのままダイレクトにくみ取って治療していくことが困難なため、代理決定のプロセスについて確認していきます。代理決定を行う上で、もし本人だったらどこまでの治療を求め、どういった目的で治療し、何を希望するかという話し合いを丁寧に進め、チームみんなで想像しながら治療方針を決めます。どうしても、家族の中で強い意見を持つ方に引っ張られがちなので、本人の代わりに決定していくということを、全員の共通認識として持つことが大切です。

そして2点目は、治療のゴール設定についてです。がん治療医としてはこちらも重視することになります。一般的には「がんの治癒」が目標かと思いますが、認知症患者や高齢者では、体力やADL(日常生活動作)が下がっている場合にゴール設定を変えることがあります。たとえば、寝たきりにならないようにする、出血などのある場合には止血をする、という具合に、体力の向上と日常生活のクオリティーを最低限保てるような目標を立てます。

特に気を付けて
いることは?

山田:そもそも認知症を発症しているという時点で、そうでない人と比べて寿命が限られる可能性があります。たとえば、それまで特に健康状態に問題がなくて40歳でがんが見つかった患者さんの場合、「この抗がん剤治療を」「この手術を」などとストレートに話をしますが、認知症の患者さんではそうはいきません。意思決定能力に問題ないかはもちろん、残された時間がどのくらいあって、その時間の中で何を優先したいのかということを明らかにしていきます。つまり、必ずしもがん治療が優先とは限らないのです。

準備段階にかなり時間がかかりますし、40歳の患者さんと比べるとプロセスがより複雑になることが多いかと思います。そこが、大きな違いだと感じます。

鈴木:そうですね、具体的な治療に関しても、がんを取り去るとか、再発させないとかではなく、制限のある中でゴール設定を考えていかなければなりません。がん治療医と家族は、どうしても病変を治すことにばかりに集中してしまうので、たとえ本人の体力から考えて行き過ぎた治療でもやめられなくなることがあります。きちんとゴールを設定して、本人の望む方向、生活の質が保たれるようにすることが何より大切だと考えています。

お話を聞いた先生

鈴木 幸雄
婦人科腫瘍専門医

医学博士、産婦人科専門医・指導医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医。
これまで多くの婦人科がん患者の手術や化学療法を担当し、現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究中。
在米日本人の健康と医療を支える「FLAT」の代表メンバー。
Twitter: @yetii18

山田悠史
米国老年医学専門医

マウントサイナイ医科大学、老年医学・緩和医療科所属。
臨床医として活躍する傍ら、ニュースメディアや音声コンテンツなど多岐にわたって活動中。
著書は「健康の大疑問」(マガジンハウス新書)他多数。在米日本人の健康と医療を支える「FLAT」の代表メンバー。
Twitter: @YujiY0402

●セミナー●

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Japanese SHAREの活動は、在米日本人の健康と医療を支える「FLAT・ふらっと」に移行しました。FLAT・ふらっとは、乳がんと婦人科がんの患者さんの他、がん患者さん全般、高齢者、特別支援が必要な子供を持つ保護者など、在米日本人の健康を、広い範囲でサポートする団体です。

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