セイジ(ギターウルフ)×曽我部恵一(サニーデイ・サービス)- ベクトルは違えど純度の高いロックンロールを体現し続けるサニー&ウルフの禅問答

ウルフが押してサニーデイの出番が遅れた初回の『ライジング・サン』

──お二人の接点らしきものがまるで見えないんですけど…(笑)。

セイジ:1回目の『ライジング・サン・ロックフェスティバル』(1999年8月)で共演したよね?

曽我部:はい。一緒に出たイベントはあれが初めてでした。

──サニーデイ・サービスが朝焼けのなか大トリを務めた初回ですね。その後も共演する機会はあったんですか。

セイジ:九州でやった『volcano06』(2006年1月)っていうイベント。

曽我部:サニーデイではなく、ぼくのソロバンドでギターウルフと3日間一緒に出ましたね。

セイジ:福岡、宮崎、鹿児島だったかな。あれは凄い楽しかったから、またやってくれないかなと思うんだけど。あのとき、曽我部くんと部屋飲みとかしたんだよ。

曽我部:飲みましたね、打ち上げがてら。今は全然飲まなくなりましたけど。

──意外と共演されていたんですね。それまでお互いにどんな印象を抱いていたんですか。

曽我部:ぼくは90年代、ギターウルフのライブをシェルターとかで見ていましたから。

セイジ:オレは曽我部くんと言えば、『笑っていいとも!』の“テレフォンショッキング”に出てるのをたまたま見て。あれは『ライジング〜』で会う前だよね。

曽我部:そうですね。1998年だったかな。[註:曽我部の出演は1998年4月10日]

セイジ:確かエンケン(遠藤賢司)さんを紹介してたよね。

曽我部:ムーンライダーズの鈴木慶一さんがぼくを紹介してくださって、ぼくはエンケンさんを紹介して。その週は井上陽水さんや高田渡さんといったミュージシャンばかりだったんです。前の週は小山田(圭吾)くんとかも出ていたし。

セイジ:その中で曽我部くんはいわゆる芸能人みたいな感じじゃなかったから、けっこう覚えてて。そのときにタモリさんが「そろそろヒット曲が欲しいね」と言ったら「いえ、別にヒット曲なんて必要ないです」って曽我部くんが答えたのを聞いて、かっちょいい兄ちゃんだなと思って(笑)。

曽我部:正確に言うと「食えないでしょ?」ってタモリさんに言われたんですよ。そのときはもうデビューしていたからバイトもそれほどしないで生活できていたんですけど、「ああ、はい」とだけ答えて。

──セイジさんは初回の『ライジング〜』でサニーデイのステージをご覧になったんですか。

セイジ:見なかった。あのときは楽屋で激しく飲んでいたから(笑)。『ライジング〜』はアーティストが集まるバックヤードが凄い楽しいじゃない? 雰囲気もいいし、あべ静江さんに似たお姉さんがずっと働いていて。数年前の『ライジング〜』に出たときもそのあべ静江さんに似たお姉さんが変わらずに働いていたけど(笑)。

曽我部:さっきセイジさんに聞いたら、初回の『ライジング〜』はギターウルフが押して、それ以降のバンド(SUPERCAR、bloodthirsty butchers、サニーデイ・サービス)の出る時間が遅れたそうです(笑)。

セイジ:当時はフェスと言ってもオレたちにとってはライブハウスの延長でしかなかったし、ライブハウスでは自分たちの気が済むまで思いっきりやるのが当たり前だったから。フェスというものが何たるかをまるで分かってなかったね(笑)。

曽我部:ぼくも初回の『ライジング〜』ではギターウルフを見れなかったんです。出番が最後だったので、一度会場に着いて出て、自分たちが出る前に戻ってきた感じだったと思います。サニーデイの前のブッチャーズはちょっと見ましたけど。

セイジ:ああいうフェスではよっぽどの人じゃないと自分たち以外のライブは見ないよね。『フジロック』でイギー・ポップが出るとかなら話は別だけど(笑)。

──曽我部さんは今や日本のポップ・ミュージックにおける最重要人物の一人ですし、ギターウルフのライブを見ていたことを意外に感じる若いリスナーもいるかもしれませんね。

曽我部:当時はガレージが好きでしたからね。ギターウルフとかMAD3とか。

セイジ:もともとパンクロックが好きだった?

曽我部:そうですね。昔はパンク一辺倒でした。最初はマドンナやブルース・スプリングスティーンといったヒットチャートの常連アーティストを入り口として聴いていましたけど。

セイジ:田舎は四国だよね?

曽我部:はい、香川県です。

セイジ:オレも島根の田舎だから、海外のマニアックな音楽なんて知りようがなかった。『ベストヒットUSA』で情報を得るしかなかったね。

曽我部:ぼくも最初の情報源は『ベストヒットUSA』でしたよ。中学生になってパンクの存在を知ってからはパンクしか聴かなくなっちゃって。

セイジ:香川かあ…。高松に堀地(浩)さんって人がいたでしょ?

曽我部:はい。去年、事故でお亡くなりになったんですよね。

セイジ:うん。オレは堀地さんのお葬式にも参加させてもらったんだけど。堀地さんはジョニー・サンダースを四国に呼んだ人でね。凄い人だった。

曽我部:高松でバンドをやっていて、地元のパンク/ハードコア・シーンの重鎮っていうか。ぼくよりちょっと上の宇川(直宏)くんは堀地さんから多大な影響を受けていましたね。

セイジ:堀地さんが個人で呼んだジョニー・サンダースを連れて、当時まだ中学生だった宇川くんが高松の街を案内したっていうんだから凄いよね(笑)。

納豆はコロナにも打ち勝つ地上最強の菌だ!

──今回の『サニー&ウルフ青春狂騒ナイト!』ですが、ギターウルフのスタッフからの提案でサニーデイ・サービスに対バンを打診したと伺いました。

セイジ:ウチのスタッフの長州(ちから)から聞いたんだよ。サニーデイ・サービスも実はメンバーが代わって間もないって。

曽我部:4年前にドラマーが亡くなってしまって、新たなドラマーが入ってまた3人になったのが2年前のことなんです。

セイジ:オレたちも同じで、ドラマーがもう海外ツアーへは行けないってことで新しいメンバーを入れることにして。状況が似てるから対バンしてみるのも面白いんじゃないかと長州に言われてね。

──まあしかし、思いきった組み合わせですよね。お客さんの被りようがないというか(笑)。

曽我部:でもどうなんでしょうね? 「ギターウルフとサニーデイだったら行く!」って人が意外とけっこういるみたいですよ。

セイジ:うん。純粋に面白い組み合わせだもんね。

曽我部:ジャンルで分けたらちょっと違うのかもしれないけど、音楽が好きな人ならそういうのはあまり関係ないと思うし、ギターウルフも好きでサニーデイも好きって人はいっぱいいるんじゃないかな。

セイジ:オレ、「バカばっかり」って曲が好きでさ。あのPVを見て、最初は曽我部くんがアコギを抱えてるからフォークソングなのかな? と思ったら普通にバンドの音でね。しかも音が凄いぶっといんだよ。あれは完全にパンクの音でびっくりしたな。歌詞もいいし。

曽我部:ありがとうございます。「バカばっかり」は9年前に出したソロの曲なんですけど(『超越的漫画』収録)。

──曽我部さんの音楽は、ポップ・ミュージックの文脈でもパンクを通過した轍をどこかしらに感じますね。

曽我部:音楽に関しては雑食で、ジャンルに関係なく何でも好きなので「こういう音楽をやろう」と自分たちで決め込んでやっているわけでもないんです。

──聴く音楽も体現する音楽も実に多彩な曽我部さんからすると、一貫して金太郎飴のような音楽を頑なにやり続けているギターウルフの存在や音楽性に憧れを抱くことがありますか。

曽我部:憧れもあるし、ずっと変わらないことの凄さや奇跡を感じますよね。

セイジ:いやいや、オレだってホントはいろんなことをもっとやりたいんだけど、できないだけなんだよ(笑)。たまには物語風の長い歌詞でも書いてみるか、よし、そういうのもやってみよう! 革命を起こすんだ! とか思っても、結局はできない。いつものようにスカーン! と行くしかなくてね。

──でも、目下最新作である『LOVE & JETT』を始め『チラノザウルス四畳半』や『火星ツイスト』、『UFOロマンティクス』や『ジェットジェネレーション』といったアルバムタイトルの秀逸さ、セイジさん独自の感覚語彙は天才だと思うんです。それこそいつもスカーン! とブレがなく、的を射るような強い言葉はまるで発明品というか。

曽我部:そういう発せられる言葉も格好いいし、ライブを見ていて感じるのはギターとボーカルの尋常じゃない迫力ですよね。コンプが掛かって出音が潰れてるんだけど、それが凄まじく格好いい。

セイジ:いやあ…そうなのかなあ?(笑)

曽我部:このあいだのヨーロッパ・ツアーで、リハ前にケースから出したギターが折れてましたよね?

セイジ:ああ、ありがとう、SNSをチェックしてくれて(笑)。

曽我部:すぐ売りに出してましたよね? おお、これ欲しいなと思ったんですよ(笑)。

セイジ:捨てようと思ったら、スタッフが売ったほうがいいって言うから。

曽我部:売れました?

セイジ:うん。ルイスレザーズの社長が引き取ってくれた。ヨーロッパは日本よりもコロナの感染者数が多いのに、普通の日常生活を取り戻してたね。そんな世界に身を置いていたので、日本へ帰ってきてからはずっとマスクを着けてない。そもそもオレはコロナに罹りようがないんだよ。なぜならずっと乾燥納豆を食べてるから。

曽我部:乾燥納豆がコロナに効くんですか?

セイジ:納豆はね、宇宙から来た菌と言われていて、地上最強の菌なんだよ。インフルエンザ菌にもコロナ菌にも打ち勝つことが証明されてて、長崎大学の教授がそれを去年実証したんだよね。そんなニュースを『news zero』とかでもやってたはずなんだけど、それから一切そんなニュースが報じられなくなってさ。しばらくして大金持ちの人たちと話す機会があって…。

曽我部:それは凄い機会ですね(笑)。

セイジ:その人たちがコロナの裏事情のこともよく分かってて、要するに政府がワクチンを大量に買ってるから、それを国民に消費させるために納豆菌がコロナに効果があるって話を封じ込めたらしいんだよ。

曽我部:へえ…。乾燥納豆っていうのはどんなものなんですか?

セイジ:海外へ納豆をそのまま持っていくことはできないから、天日干ししたり、乾燥させたりするわけ。

曽我部:甘納豆みたいなものですか。

セイジ:あれよりもっと乾燥させたやつ。しかも乾燥させたほうが納豆菌が多くくっ付いてるみたいでね。それを海外へ持っていくようになってからは風邪を引くこともないし、お腹をくだすこともない。いつも絶好調だね。乾燥納豆さえ朝晩食べておけば絶好調。

曽我部:いいですね。試してみよう。

新メンバーと馴染むには海外ツアーの荒治療!

──曽我部さんはツアーに必ず持参するものがありますか?

曽我部:ないですね。というのも、ぼくはある時期からセイジさんたちのようにツアーに出っぱなしというのができなくなってしまったんです。それはぼくが離婚をして、子育てをしなければならなくなったから。当時は子どもたちも小さかったので。だからたとえば九州へ行ってもぼくだけ一足先に帰ってくるとか、そんな形でしかツアーに参加できなくなってしまった。ギターウルフと『volcano06』で共演した頃がツアーらしいツアーをやっていた最後のほうで、当時は2週間ずっと旅に出たりとかしていたけど、最近は2泊もしたらすぐに帰ってきますね。子どもたちももうだいぶ大きくなったので、そろそろ長いツアーを解禁してもいいかなとは思っているんですけど。

セイジ:子どもは大丈夫だよ。逆に父ちゃんなんていないほうがいいくらいになるから(笑)。

──今も頻繁に海外ツアーを行なうギターウルフを羨ましく感じますか。

曽我部:ツアーに出る行為自体、凄くいいなと思いますね。ツアーを回ることでバンドがまとまっていくじゃないですか。

──シンゴさんが新たに加入したギターウルフは、ヨーロッパ・ツアーを敢行したことでバンドがまとまりましたか?

セイジ:もちろん。新しいメンバーが入ったら、まず海外ツアーに行かせるからね。スパルタというか荒治療というか(笑)。でもそこで這い上がってきた兄ちゃんは強いよ。

曽我部:今回のツアー日程はどれくらいだったんですか?

セイジ:35日で9カ国、30本。怒涛のスケジュールだったね。

──1本のステージでどれくらいやるんですか。

セイジ:1時間15分、20分くらいかな。ウチらは海外のほうがウケるんだよ、大雑把だから。バン! ババン! って感じでね(笑)。

曽我部:ライブが終わると、すぐ次の街へ移動するんですか。

セイジ:いや、ちゃんとホテルに泊まらせてもらう。海外は現地のプロモーターがホテルを押さえてくれるんだけど、その日に泊まるホテルが上等ならチケットが売れてるってこと。

曽我部:なるほど、分かりやすい。

セイジ:ヨーロッパのライブは、会場に着くと必ずオードブルみたいなものが並べてある。リハが終わるとディナーを用意してくれる。来てくれたバンドをちゃんともてなそうっていう気持ちが凄いあるわけ。アメリカもそうだけど、海外は荒野にライブをやる場所があるんだよ。客が来ないような場所におっさんが飲み屋を作って、そうだ、バンドを呼べば客がいっぱい来るかもしれない、そうすれば酒もバンバン出るだろう! って考えたんじゃないかな。だからバンドに対して「来てくれてありがとな! もっと飲んでけよ!」ってとにかくもてなしてくれる。海外ではそうやってクラブが始まっていったんだと思うけど、日本は「ライブをやらせてやるぜ」みたいな感じがちょっとあるよね。日本はおもてなしの国だなんて言うけど、オレからすると日本のライブハウスはおもてなしがなってないよ。

曽我部:なんだろう、ライブハウス文化の違いなのかな。ぼくは弾き語りで地方へ呼ばれることも多いんです。いわゆるライブハウスではなく、ファンの人がやってるような店…カフェや居酒屋、本屋みたいな所でギター一本で唄うんです。そういう場所でライブをやるときのほうがもてなしはされますね。地元の名物を食べさせてくれたり、地元の人しか知らない名所へ連れて行ってくれたり。その感じが海外のライブハウスにはあるんでしょうね。

セイジ:そうだと思う。「来てくれてありがとう!」という感謝の気持ちがまずあるから。

──海外ツアーの荒治療でバンドを馴染ませるギターウルフに対して、サニーデイ・サービスはどんなふうに馴染ませていくんですか。

曽我部:ライブの本数を増やすのが理想なんですが、このコロナ禍でなかなかそうもいかなくて。新しいドラマーが入ってすぐにアジア・ツアーも予定していたんですけど、コロナで全部なくなってしまって。今ようやく、ちょっとずつだけどライブができるようになってきたので、キャパの大きさは関係なく、ライブの本数を増やしていきたいと考えているところです。そうやって試行錯誤した先に見えてくるものがあるんじゃないかと思って。

セイジ:アジア・ツアーっていうのは?

曽我部:中国、香港、台湾、韓国を回るツアーを計画していたんです。それまでもたまにやっていたんですけどね。

セイジ:香港は行ったことないなあ…。オレの師匠であるブルース・リーの生誕地だからぜひライブをやってみたいんだけど。でも、今の香港はちょっとヤバいんじゃない?

曽我部:民主化をめぐる市民と政府の対立が依然激化しているし、心配ですね。ぼくらもブルース・リーは好きだし、あとウォン・カーウァイという映画監督の作品が好きなのもあって香港へ行くようになったんです。香港のファンの人たちと仲良くなって、家に遊びに行くようにもなって、向こうが日本へ来たときは家に泊まってもらったりしていたんですけど、今の香港の状況を見ると凄く心配になりますね。

『サニー&ウルフ青春狂騒ナイト!』というタイトルの由来

──『サニー&ウルフ青春狂騒ナイト!』のオープニングアクトに起用されたピーランダー・イエローさんについて聞かせていただけますか。

セイジ:それもスタッフの長州の提案でね。テキサスを拠点に活動するPeelander-Zという日本人バンドのリーダー、イエローが弾き語りをしてくれる。

曽我部:Peelander-Z、知ってますよ。

セイジ:彼らは何というか…アメリカでしか通用しない(笑)。

曽我部:とにかく凄いライブをやっているんですよね。

セイジ:オレたちも実はそういう部分がちょっとあるんだけど、ライブしながら鼻くそを投げたりするんだよ。別にオレたちは鼻くそを投げたりしないけど(笑)。それがアメリカではウワーッとウケるけど、日本じゃ通用しない。でも日本じゃ通用しないくらい偉大。

曽我部:向こうで一緒になったりするんですか?

セイジ:2回くらいやったかな。あいつらはとにかく反則ばっかりするんだよ(笑)。でもそれが素晴らしくてグレイトなんだよね。イエローは絵も上手くて、今度下北のカフェでやるライブペインティングを見に行こうと思ってる。

曽我部:(スケジュールに掲載された写真を見ながら)このアー写からして只者ではないのが分かりますよね。

セイジ:『デビルマン』のシレーヌみたいだよね。この見た目だけですでに反則だよ(笑)。

──当日は両者ともに特別なセットリストで臨む予定ですか。

セイジ:まだ分からないけど、オレたちはヨーロッパ・ツアーでグワーッと固まったものをバーンとブッ飛ばしてみようと思ってます。

曽我部:ぼくらは特別な感じはあまり考えてなくて、いつも通りの感じでやるつもりです。

──ギターウルフとサニーデイ・サービスが並び立つだけで充分特別な一夜になりますよね。

セイジ:それは間違いない。あとね、まだ言えないけど何かが起こるよ。それは当日までのお楽しみだね。

──『サニー&ウルフ青春狂騒ナイト!』という公演タイトルですが、これはサニーデイ・サービスの「青春狂走曲」を意識して命名されたものですよね?

セイジ:タイトルはオレが付けたんだけど、もちろんサニーデイの曲から取った。あれはだいぶ初期の曲?

曽我部:はい、そうです。

セイジ:ホントの初期? 大学生の頃?

曽我部:大学に在学していた頃かもしれません。20代の前半ですね。

セイジ:歌詞をしっかり読んだわけじゃないけど、その頃特有の勢いがあるよね。

曽我部:ああいう曲は今やなかなか作れなくなりましたね。自分にとっても凄く特別な曲です。祖師ヶ谷大蔵の駅前を散歩していたときに、ふっと思い浮かんだ曲なんです。当時の彼女が祖師ヶ谷に住んでて、ぼく一人だけ夜中に眠れなくて、夜が明けた頃に駅前を散歩していたんですよ。明るくなってすぐくらいだったかな。

セイジ:ヘンな奴らに絡まれなかった?

曽我部:ああ、祖師ビリーとか? そういうのは大丈夫でした(笑)。

セイジ:オレが原宿を根城に遊んでいた頃、祖師ヶ谷軍団っていう悪い連中と対立しててさ(笑)。その隣の千歳船橋軍団っていうのもいたけど(笑)。当時、ツバキハウスで暴れてるとそういう連中とよく揉み合いになってね。

曽我部:上京直後は原宿やツバキハウスでよく遊んでいたんですか?

セイジ:そうだね。18歳で島根から東京に出てきて、街に繰り出すとカラスみたいな連中がいるわけだよ。それが黒い革ジャンを着たパンクスで、凄いド不良だなと思ってびっくりした。そういう奴らがどこに集まるんだろうと思って調べたら、それが新宿にあったツバキハウスでね。こんな奇抜な服を着た人たち、昼間はどこにいるんだろう?! と思って凄い衝撃を受けた。それがパンクとの出会いだった。

曽我部:80年代の話ですよね?

セイジ:1981年だね。すぐにスーパージャンクという原宿のフィフティーズ専門店で働き始めて。そこでいろんな不良たちと出会って楽しかったな。

純度の高いロックンロールの一番濃い部分を体感できるはず

──まさに青春ですね。“青春”と聞いて思い浮かべる音楽や映画、小説はありますか。

曽我部:ぼくは今もずっと人生の青春期だと思ってるから、自分が今好きなものが全部青春だと思う。若い頃に聴いてた音楽や見ていた映画だけが青春だとはあまり思わない。ただ、昔から自分の好きなものや趣味が大きく変わらないんですよ。新しいカルチャーは何でも受け入れようとは思ってますけどね。

セイジ:青春かあ…オレはまだまだ青春みたいなものだから。今はまだ人生の1/3だからね。青春と聞いてパッと連想するのは『あしたのジョー』とか。あと、『飛び出せ!青春』や『われら青春!』みたいな学園ドラマかな。ああいうのにかなり影響を受けたから。ラグビー部とかサッカー部の話で、先生と生徒が殴り合いの喧嘩もするけど最後は何とか一緒に困難を乗り越えていくっていう…ギターウルフをまた新たに始動させるときにはそういう気持ちがいつもあるね。今回のヨーロッパ・ツアーもそういう感じだったし。

曽我部:メンバー間でぶつかり合うことがいまだにけっこうありますか?

セイジ:もちろん。ぶつかり合うときはグッと堪えて、学園ドラマで先生を演じた村野武範や中村雅俊のことを思い出す。一応、オレがリーダーで年上だから(笑)。

曽我部:そうなんですね。ギターウルフって互いに「ああしよう、こうしよう」と言い合うこともなく、もっと淡々とやっているイメージだったので意外です。バンドだから当たり前なのかもしれないけど、ギターウルフもギターウルフなりに試行錯誤している部分があるんですね。

セイジ:いつもオレが一人でブッ飛ばしてるし、あまりブッ飛ばしすぎると他のメンバーがついて来れなくなるし、同じ方向へ突き進むためのディスカッションもあれば意見の違いもあるよ。でもそれも一つのドラマで面白い。

曽我部:罰則のない体育会系って言うのかな。行けるところまでみんなで行こうぜ! って目指す先を一緒に探すのがロックでありバンドなのかなと思うんです。

セイジ:だからバンドを続けるのって凄くスリリングだし、エキサイティングなんだよね。

曽我部:反省会とかします?

セイジ:反省会はないけど、たとえば新しく入ってきたメンバーが自分たちのやろうとしてることをあまり分かってないかな? とか感じたときにはタイミングを見計らって「どうした?」って話を聞いてみる。「まあ飲めよ」って飲みに連れ出してみたり。

──そういう心遣いみたいなものは、曽我部さんもやっていますか。

曽我部:あまりやりませんね。昔はメンバーと喧嘩もしたけど、ドラムが亡くなったことで接し方が変わったというか。お互いに過度なストレスを抱えるのは良くないし、「今日のライブのあの部分はどうだった?」みたいな確認もあまりやらなくなりました。みんながステージで思いきりやれるのが一番だし、思いきりできていないのを感じたら「今日は思いきりできてた?」と軽く訊く程度ですね。

セイジ:ライブが終わった直後に「どうした?」とは絶対に訊かないね。もし気になるところがあるのであれば、次に会うリハのときとかかな。

曽我部:バンドを一生懸命やっているのはみんな同じじゃないですか。でもそれぞれの一生懸命はちょっとずつ違うから、こっちの一生懸命に合わせてよとか昔は思っていたけど、今はみんなの一生懸命がステージ上のどの場面で出会うのかを考えています。みんな100%、120%の力をステージで出しきっているはずで、それをどうぶつけ合って化学反応を起こせるかってことに気を留めていますね。コロナ禍で思うようにライブをやれなかったのもあるけど、ライブはやっぱり楽しいし、ステージで音を出すと自分の還る場所はここだなと実感します。

セイジ:ステージがオレたちの生きる道だからね。

曽我部:ライブで必ずやる曲ってあるじゃないですか。もはや何千回とやってる曲だけど、不思議と飽きないものですよね?

セイジ:うん、もちろん飽きない。

曽我部:(ローリング・)ストーンズを見に行ったとき、キース(・リチャーズ)が「(I Can't Get No) Satisfaction」のフレーズを弾く前にメンバーに向けてニヤッとしていたんですよ。「行くぞ!」みたいな感じで。そのやり取りを見て、この人たちには飽きるという感覚が全然ないんだろうなと思ったんです。もちろん飽きた時期もあったのかもしれないけど、それも過ぎて今なお「Satisfaction」を演奏することに喜びを見出しているのが最高だなと感じて。自分たちもそうありたいですね。ギターウルフはどうですか、何千回もやる曲に飽きたりすることは?

セイジ:飽きることは全くないし、曲はやるためにあるし。「ジェット ジェネレーション」もやるたびに自分で来た来た来た来た! って感じだからね。

曽我部:ぼくも同じ曲を何度やっても飽きないんですけど、エンターテイナーなのでお客さんが飽きないかな? とちょっと心配になるんです。でもやっぱり自分のやりたい曲をやるしかないと思って、結局は同じ曲になっちゃうんですよ。もちろんアルバムが出たときは新曲を必ず織り交ぜるし、ストーンズも何曲目かのいいタイミングで最新アルバムの曲をやるんですよね。そうやって絶えず新曲を出し続けるのもストーンズのいいところだと思うんです。

セイジ:最初は曽我部くんたちと対バンをやれるのが不思議な感じだったけど、こうして話していて距離が近づいてくると、この取り合わせが凄く絶妙なんだと思えてきたね。だから余計に楽しみになってきた。「青春狂走曲」はやるんだろうか?

曽我部:やります。

セイジ:おお! それは楽しみだ! 「バカばっかり」は?

曽我部:あれはソロの曲なので(笑)。ぼくもギターウルフとの対バンは楽しみです。凄く純度の高いロックンロールを体感できると思うので。ギターウルフとぼくらのやり方や方向性は違うと思うけど、どっちもロックンロールであることに違いはないし、2組ともロックンロールの一番濃い部分を聴かせられるはずだし、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

セイジ:ホントに楽しみだね。サニーもウルフもロッケンロー! それに尽きるよ。

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