2022年10月に運賃を大幅値下げ 創立50周年迎えた北総鉄道 ニュータウンの足として、空港アクセス鉄道として【コラム】

最も手前が1991年3月の京成高砂―新鎌ヶ谷間開業時に導入された7300形電車。北総鉄道の自社車両で、京成3700形の基本部分を踏襲。車体の帯色など細部が異なるほかは同一設計です(写真:鉄道チャンネル編集部、2021年7月「北総車両大集合!北総・印旛車両基地見学ツアー」で撮影)

日々のニュースを見れば、「値上げ」の3文字があふれかえる昨今の日本。そんな風潮に逆らって、今秋に運賃値下げを予定する鉄道が千葉県にあります。京成高砂―印旛日本医大間32.3キロを結ぶ「北総鉄道」は2022年10月1日、全体平均で15.4%運賃を引き下げます。

高度成長期の1960~1970年代、日本最大規模で計画された千葉ニュータウンと東京都心を結ぶアクセス鉄道としてスタート。しかし開発は進まず、長く厳しい経営を強いられました。ところが、2010年の成田スカイアクセス線(京成成田空港線)開業で、空港鉄道の一部として利用が増え、2022年度に累積損失解消の見通しが立つなど北総鉄道は今、上昇気流に乗ります。

本コラム前半は紆余曲折に富む鉄道のプロフィール、後半は「若い世代の沿線人口を増やす」という明確な戦略が見て取れる、新しい運賃体系をご報告します。

千葉ニュータウン開発計画

千葉ニュータウンの中心駅・千葉ニュータウン中央。ホームは地上、駅舎は橋上ですが、線路が掘割に敷設されるため、実際は地上に駅があるように見えます。同じ場所には成田新幹線の駅も設置されるはずでした(筆者撮影)

時計を1960年代に巻き戻します。首都圏への人口集積を受けた新しい街づくりで計画された千葉ニュータウン。千葉県白井、印西、船橋の3市にまたがり、「計画人口34万人」という日本最大規模のニュータウンが誕生する――はずでした。

東京方面と結ぶアクセス鉄道は、2系統が必要とされました。一つは今回取り上げる北総鉄道北総線(2004年までの社名は「北総開発鉄道」)、もう一つは免許は受けたものの結局、列車が走ることのなかった千葉県営鉄道北千葉線です。

千葉ニュータウンより一足先に開発が始まった、東京都の多摩ニュータウンは、京王相模原線、小田急多摩線が走ります。千葉ニュータウンも同様に北総鉄道と千葉県営鉄道の2ルートが構想されました。ところが、開発は予定通りには進まず、千葉県は北千葉線の建設を断念。県は代わって、北総鉄道に出資することにしました。

※千葉ニュータウンの現在の事業規模は、計画面積約1930ヘクタール、計画人口143,300人、計画戸数45,600戸となっています。

京成グループの一員

話が後先になりましたが、北総鉄道(北総開発鉄道)の会社設立は1972年5月。2022年は創立50周年の節目です。主な出資者は京成電鉄、千葉県、都市再生機構(UR)。北総鉄道は京成グループの鉄道会社です。

北総鉄道のうち、特殊なのが東側の小室―印旛日本医大間。同区間は千葉ニュータウン鉄道という三セク鉄道が施設を持ち、北総鉄道が乗り入れます。ただし北総鉄道はそうした区分を意識せず、京成高砂―印旛日本医大間を自社路線としています

京王多摩センター発新宿、本八幡経由千葉ニュータウン中央行き!?

ここで途中下車、先述の千葉県営鉄道北千葉線とは。想定ルートは、本八幡―新鎌ヶ谷―印旛松虫(北総鉄道印旛日本医大として開業)間でした。起点が本八幡と聞いて、ピンときた方もいらっしゃるでしょう。そう、北千葉線は本八幡が終点の都営地下鉄新宿線を千葉県が延伸するはずでした。

もしも北千葉線が実現していれば、京王多摩センター発、新宿、本八幡、新鎌ヶ谷、千葉ニュータウン中央経由、印旛日本医大行きなんていう、ニュータウン直結列車が実現していたかも。〝東京圏の鉄道地図〟も、今とは違ったものになっていたでしょう。

ほぼ全列車が京成と直通運転

千葉ニュータウン中央駅を通過する「スカイライナー」。北総線の最高速度は時速130キロ、成田空港近くでは在来線最速の160キロで運転します(筆者撮影)

話を戻して、北総鉄道の営業路線は北総線一本。起点の京成高砂で京成本線と接続、ほぼ全列車が京成線と相互直通運転します。

京成も、京成高砂―成田空港間51.4キロを成田スカイアクセス線と称するため、空港特急「スカイライナー」で上野(または日暮里)から成田空港に向かう航空旅客に、北総鉄道を利用したという意識はないはずです。

スカイライナーは京成、北総、千葉ニュータウン鉄道、成田高速鉄道アクセス、成田空港高速鉄道という5つもの鉄道にまたがって運行されます。こうした複雑怪奇(別に怪奇ではありませんが)な理由、それは千葉県営鉄道、成田新幹線、空港開港後の京成とJRの乗り入れといろいろあるわけですが、紹介はまたの機会に。

車窓に続くメガソーラー

メガソーラーと北総線。京成や京急など様々な会社の車両が走る北総線は、いろいろな車両が見られる点で鉄道ファン注目の路線かもしれません(写真:Bantam / PIXTA)

北総線沿線で一種独特な光景が広がるのが、西白井―印旛日本医大間。幅10~20メートルの広大な掘割の真ん中を複線の北総線が一直線に走ります。

広大な用地は本来、成田新幹線が走るはずでした。かつての新幹線用地は現在、延長約10キロものメガソーラー発電所になっています。

私は北総線の車窓に延々続く太陽光発電パネルを見ているうち、半ばジョークですが、「100年後には日本遺産」なんて思ってしまいました。

運賃値下げで事業基盤強化

後半は、各方面で話題の運賃値下げを詳報します。北総鉄道は2021年11月19日、国土交通省に平均15.4%の運賃値下げを届け出ました。

現在は初乗り210円、利用の多い新鎌ヶ谷―千葉ニュータウン中央間の片道運賃は580円ですが、2022年10月1日予定の値下げ後は、それぞれ190円、480円(きっぷ利用の場合)になります。

北総鉄道は、「ポストコロナの輸送動向や沿線の将来を展望するとともに、お客さまの声や沿線自治体の街づくり施策との整合性などを総合的に考察。地域インフラを担う鉄道の利便性向上や、事業基盤の維持・向上につながる、運賃値下げを決断しました」と説明します。

通学定期の大幅根酒で子育て・若い世代の沿線住民増やす

北総鉄道は、すべての運賃を一律に15.4%下げるわけではありません。もっとも値下げ幅の大きいのが通学定期運賃。

印西牧の原―京成高砂間を通学する場合、

現行→ 改定後
1ヵ月定期 1万4990円→ 4990円
6ヵ月定期 8万 950円→2万6950円

になります。値下げ額は1ヵ月が1万円、6ヵ月が5万4000円。運賃は3分の1以下になります。なぜ、通学定期をこれだけ大きく下げるのか。理由は、「子育て世帯や若い世代の千葉ニュータウンへの入居を促進したい」に尽きます。

首都圏は長く人口の都心回帰が進みましたが、コロナでテレワークが普及。通勤には便利でも住環境が良好といえない、都心に住む必然性はなくなりました。

「北総線は運賃が高い」と思い込んでいた利用客にとって、値下げは大きなインパクトを与えるはず。「環境がよく、成田空港にも近い北総線沿線で家を探そう」と考える、子育てファミリーも少なくないでしょう。

〝げんこつ電車〟がよみがえる

ラストは、北総鉄道の小ネタ3題。2021年12月に発行したのが沿線小冊子「もっと 北総 Smile 2022」。現在も同社ホームページで読めます。沿線住民の街の感想は「電車、バスも利便性が高く、車を持たずとも住みやすい街」「梨農家がたくさん!!」などなど。ぜひネットでご覧ください。

沿線自治体との協業では、白井市と2021年3月に「白井駅・西白井駅周辺地域の活性化に関する協定」を締結。両駅の副駅名を一般公募で決定し、2022年3月に駅名板を設置しました。もう一駅の白井駅の副駅名は「ときめき 梨の里」です。

副駅名が表示された西白井駅の駅名板。「騎手も育つ街」は、白井市に日本中央競馬会(JRA)の競馬学校があることに由来します(筆者撮影)

最後に鉄道ファン要注目、創業時に投入された7000形車両の保存車(先頭車)が西白井駅に展示されています。鉄道友の会のローレル賞を受賞した7000形のニックネームは「げんこつ電車」。その理由――、説明不要でしょう。

白井市はクラウドファンディング型ふるさと納税の返礼品として、2022年4月に保存車両の公開イベントを実施。北総鉄道は、西白井駅ホームからげんこつ電車を見るよう案内しますが、若干の距離があり、電車が柵に囲まれるので、機会があれば見学会などを開いてほしいと思います。

西白井駅構内に展示される7000形電車。1979年の北初富―小室間開業にあわせて新製。北初富は、かつて北総線にあった新京成との接続駅で、1991年の京成高砂延伸を機に、翌1992年に北総線の駅は廃止。新京成北初富駅は現存します。げんこつ電車の正面はΣ(シグマ)形。正面からの直射日光を受けてもまぶしくなりにくいメリットがあります(筆者撮影)

北総鉄道沿線には「矢切の渡し」「ふなばしアンデルセン公園」「BIG HOPガーデンモール印西」などのスポットも。いつもはスカイライナーでスルーの皆さん、一度北総線の駅に降り立ってみてはいかがですか。

記事:上里夏生

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