バカラグラス✖️茶の湯。真夏のNY、和の隠れ家の特別茶会で涼む

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

(c) Kasumi Abe

気温30度近く、湿度70度越え。5分歩くと額に汗がにじみ出る。夏真っ盛りのニューヨーク、日曜日の午後。

フラットアイアン地区にある知る人ぞ知る隠れ家的なリトル日本、グローバス和室で特別な茶会が開かれた。

表千家流茶道講師の北澤恵子さんによる「バカラ茶会」。毎月趣向を変え開催されており、今回は北澤さんのコレクションである、バカラ社の涼しげなガラス製品を茶会の「見立て」にしたもの。温かいお茶に加え、冷たいお茶やスパークリング酒、ちらし寿司やお出汁香るソーメン、お菓子などを出していただいた。

見立てという言葉を聞いた時、なんとなく意味のイメージはできたものの、改めて教えてもらうと、千利休が本来茶の湯の道具でなかった品々を茶道具として取り込んできたもの、それが「見立て」。見立てを取り入れることで、茶の湯の世界に新鮮さや趣が加わる。バカラはフランス発なので、今回は日本とフランスのコラボ!

香合に見立てたバカラ製の小物入れ物を「拝見」するゲスト。(c) Kasumi Abe
バカラの器に入れられた、冷たい茶。(c) Kasumi Abe
まずは飲むゼリー?でリフレッシュ。(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

茶はNY発のティーブランド、Sorate(ソラテ)から提供された宇治茶。

ソラテ(イタリア語で落ち着く、クールダウンする、日本語の「空」の意も)とは、イタリア出身のSilvia Mella(シルヴィア・メラ)さんが日本でその美味しさと出合い健康にも良い抹茶をアメリカの人々にもっと広めたいと、2020年に当地で創業したスタートアップ。現在は米国内の飲食店などに、抹茶を卸している。

茶会に参加したSorateのファウンダー、シルヴィアさん。(c) Kasumi Abe
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北澤さんによると、普段はもっと多いが、夏の時期はバカンスなどでゲストが少なめだと言う。それでもこの日は12人がゲストとして参加。日本人はもちろん、アメリカ、イタリア、香港、中国出身者が茶の世界を楽しんだ。

着物を着て参加した日本人女性は、昨年駐在でニューヨークに来たばかり。海外で日本人としてのアイデンティティが芽生えたようで、「まさか自分が、ニューヨークで着物やお茶の世界に目覚めるとは思わなかった」と語る。

筆者も当地に住んで20年。最近その傾向が強いので、この気持ちは非常にわかる。

床の間に飾られた花と花瓶。これもバカラ。(c) Kasumi Abe
親子で参加した人も。(c) Kasumi Abe

「日本文化が大好きな娘が参加しようと誘ってくれた。こんな経験、生まれて初めて。お茶も食事も美味しく、日本を旅したような気持ちになり、素晴らしい体験だった」

ニュージャージーから初参加したヴィクトリア親子は、帰り際このように感想を語った。イベントに母を誘った娘は特に緑茶と和菓子が好きだといい、着物も2枚持っているそう。「和室と聞いて1室をリノベしたのかと思ったら、ストリートからこのビルに入って、最上階のアパート全体がまさかこんな和の空間になっていたとは!細部まで抜かりがないのもすごい」と会場への驚きも隠せない。東日本大震災と新型コロナでいまだタイミングが合わない日本旅行を早く実現させたいと、まだ見ぬはるか彼方の国へ思いを馳せた。

ゲストで招いたニューヨークの裏千家流講師に茶でもてなす北澤さん。(c) Kasumi Abe

普段は2歳児の子育て中だと言う別の日本人女性は、この日着物を着てこのような会に参加できたことに感謝の意を述べた。

外の世界や普段の生活が「動」だとしたら、この茶会はまさに「静」。この非日常空間での茶会体験は、筆者にとっても多忙な日々のスパイスとして映った。日々忙しないニューヨークをサバイヴする私たちには、時々こんな「贅沢な時間」が必要なのだ。

(c) Kasumi Abe

Text and photos by Kasumi Abe

© 安部かすみ