パリピ大学生、サメ地獄へ直行!『海上48hours ―悪夢のバカンス―』は精神をすり減らされるスリラー

『海上48hours ―悪夢のバカンス―』©Vitality Jetski Limited 2021

パリピ、海ではしゃいでサメと遭遇

正直びっくりした。どうしてくれるんだ! ただでさえ『JAWS/ジョーズ』(1975年)や『オープン・ウォーター』(2004年)のせいで沖の底が暗い海に恐怖感があるのに、この映画を見てさらに怖さが増してしまったじゃないか!『海上48hours ―悪夢のバカンス―』はサメが出てくるホラー映画ではなく、サメに精神をすり減らされるスリラー映画だ。

『ジョーズ』を意識したオープニングから始まり、この後サメに襲われるであろう若者たちの、そりゃもうすごいパリピ感。そしてパーティーで鳴っている音楽の受け付けないこと!(※個人の意見です)。10代からバンドしかしてこなかった僕は、男女混合で海に行ってお泊まりパーティーなんて経験したことない! 本音では羨ましい!! でも敢えて言わせてもらう。僕、こういう人たち苦手だぁ。

テキーラを浴びるほど飲んだ5人の若者は、かつてサメに両足を食べられたという老人に注意されるが、そんなことはお構いなしに盗んだ(水上)バイクで沖へ走り出す。調子に乗る若者たち、予期せぬ事故、海中には飢えたサメ。もう何も言うまい……。

しかし、このパリピたちが体験する悪夢は、ちょっと同情するくらい酷かった。まぁ自業自得なんだけど(そう考えると『オープン・ウォーター』の主人公たちは本当に気の毒だった)。

「人間を襲う」という“意志”を感じさせるサメ

本作の監督は『海底47m』(2017年)『海底47m 古代マヤの死の迷宮』(2019年)でセカンドユニット監督を務めたジェームズ・ナン。彼はたくさんのドキュメンタリー映画やサメ映画を見て研究したそうで、それは本作のサメの質感に表れている。というのも、本作に出てくるサメは口の横に傷がついていて、それは釣り針で人間によって傷をつけられたということらしい。他にも交尾による傷跡など細かい設定があるからこそ、無機質に襲ってくるサメではなく意志を持ったサメとして表現されている。

いちばん身近なホラーの対象は“人間”で、その次が“自然”だと思っている僕は、この意志を持ったサメがとてつもなく怖かった。それがホラー映画ではなくスリラー映画に仕上がっていると感じた理由だろう。主人公ナットはパリピ仲間の中で唯一マトモなのだが、彼女が困難に立ち向かい成長していく様子も“事実に基づいたパニック映画”ではなく“娯楽スリラー映画”として楽しめる要因になっている。ちなみにナットを演じるホリー・アールは水上スキーがめっちゃ上手いらしい(監督談)。

映画的なフィクションとリアリティもちょうどいい感じ。そんなことあるか!? ん~、あるかもしれん……。その“かもしれん”だけで十分怖い。本作を見終わった後、思わず「サメに遭遇したら」とググってしまった。すると、登場人物たちが「やってはいけないこと」をしっかりやっていたことに気づく。そんなところからも、本作が非常に練られていることがわかる。

思わず検索「サメ 撃退」

何度も引き合いに出して申し訳ないが、本作は『オープン・ウォーター』シリーズとは比べ物にならないくらい怖い。低予算なのに本当にうまくできている。サメが人間の背後をスッと通り過ぎるシーンも素晴らしいタイミングで、効率よく恐怖を演出している。

そして、個人的にサメ映画に絶対に入れてほしい演出が“エア・ジョーズ”(※ホオジロザメの大ジャンプ。海面近くを泳ぐアザラシやオットセイに急突進し、勢いよく喰らいついた勢いで海面に飛び出してしまう行為)なのだが、本作は(不謹慎だが)気持ちの良いくらいのエア・ジョーズが堪能できる。めっちゃ怖い。

もちろんアニマルパニック映画“ならでは”のドロッとした人間関係もありつつ、不和に陥る中でサメの恐怖からどう立ち向かうか? をヒヤヒヤしながらお楽しみいただきたい。『海上48hours ―悪夢のバカンス―』を見たら恐怖のあまり「サメ 撃退」で検索してしまうはずなので、今年の夏はサメ撃退法をしっかり予習・イメトレして海へ行こう。ただし、泥酔したり水上バイクを盗んだり調子こいて沖に行ったりしないこと! 約束だよ!!

文:ゾニー(KING BROTHERS)

『海上48hours ―悪夢のバカンス―』は2022年7月22日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

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