セカンドチャンス人材の採用から学んだ5つの教訓

米カリフォルニアで、廃棄タイヤのゴムを再利用してフィットネス用の床材や防音下地材などを製造するUSラバー・リサイクルは、元受刑者であるセカンドチャンス人材を積極的に採用している。2022年現在、工場労働者の66%が元受刑者だという。トリプル・ボトム・ライン経営を指針に掲げる同社CEOのジェフ・バルダザーリ氏が、セカンドチャンス人材の採用から同社がこれまでに学んだ5つの教訓を紹介する。(翻訳=井上美羽)

私は、約半数の社員が犯罪歴のある職場で働き、彼らとの仕事から貴重な教訓を得た。もしあなたの会社が元受刑者の雇用を検討しているのであれば、以下の教訓を読んでいただきたい。前向きな職場環境を構築する上で直面する壁を乗り越え、前科のある社員とあなたの会社の両方が成功するためのヒントを導いてくれるだろう。

あなたがカルロス・アルセオ氏に会ったら、彼がかつて刑務所にいたことは想像できないだろう。彼はカリフォルニア州コルトンにあるUSラバー・リサイクル(US Rubber Recycling)でセカンド・シフト・マネージャーとして生き生きと働いている。出所して2年余り、カルロス氏は会社に大きく貢献し、直属の上司から尊敬され、明るい未来への道を歩み始めている。

しかしながら、彼のようにうまくいく人は少ない。こうした機会を得られない人があまりにも多いのだ。犯罪歴のあるアメリカ人は7000万人近くおり、社会への負債を払い、罪を償ったとしても、多くの人が疎外されたままだ。

収監された人々は、失業と貧困の悪循環に陥り、再犯につながる可能性もある。セカンド・チャンス・ビジネス連合などの団体は、セカンドチャンス人材の採用の利点を宣伝し、犯罪歴のある人の雇用を後押しする情報を提供しており、こうした活動を支持する動きが社会の中で高まってきている。

しかし、成功するには善意だけでは足りない。セカンドチャンス人材に寛容なだけでは不十分なのだ。成功とは、元受刑者を雇用し、彼らが活躍できる職場環境を構築することだ。

当社の社員の約半数は前科がある。私が2019年4月にチームを率いるようになってから、私自身彼らとの仕事の中で貴重な学びを得た。この学びを通して、自社のセカンドチャンス人材採用プログラムを刷新し、新たに「バウンス・バック!(立ち直る!)」というプログラム名を付けた。もしあなたの会社が元受刑者の雇用に踏み出す準備をしているなら、以下の教訓は、前向きな職場環境を構築する上で発生するよくある障害を回避し、前科のある社員の成長を手助けし、その結果としてあなたのビジネスの成長につながるかもしれない。

①自分自身のバイアス(偏見)を認識する

私は早くから、雇用主側が組織として従業員に対する期待を再調整する必要があると気づいており、先入観を排除する努力をしていた。実際カルロス氏の採用の際に送られてきた書類は無意味だった。彼は37歳で応募してきたが、それまで一度も仕事をしたことがなかったのだ。しかし彼は順応性があり、勤勉で、頭がよく、意欲的なチームメンバーであることを証明してきた。

刑務所で過ごした後、立ち直るのがどれほど難しいか想像してみてほしい。出所後、ほとんどの人はお金も原資もない。家族からも疎外され、昔のような破滅を招く習慣に戻らないよう、かつての友人とも距離を置かなければならず、サポート体制が全くない状態なのだ。何度も断られながらも、ゼロから新しい生活を始め、仕事に応募する彼らの精神・気持ちの強さは底知れない。

このような人々は、新たなスタートを切ろうとしているのであって、過去の過ちを裁くようなことがあってはならない。むしろ、今の彼らをありのままに見て、その可能性を認めてあげることが大切だ。「バウンス・バック!」のプログラムで採用し、1年以上働いている社員の多くは、私自身も驚くほど、期待以上の活躍をしてくれている。

②ポジティブな職場環境をつくる

多くの社員は、前科の有無にかかわらず、新しい仕事を始めるときに「金魚鉢の中のようだ(人目にさらされている)」と感じるものだが、元受刑者の場合、この感覚はさらに増幅する。もし、セカンドチャンスに恵まれた社員が、自分の過去を周囲から批判されているように感じたら、その社員の在職期間は短いものになってしまうだろう。初日から「今の自分が歓迎されている」と感じられるような職場づくりをしてあげることが大切だ。

彼らがポジティブな感情を持てるようになるまでには長い道のりがあるかもしれない。「バウンス・バック!」の社員が以前、多くの元犯罪者が生涯にわたって、周囲からのネガティブな言葉と向き合ってきたのだと告白してくれた。そのため、自分の能力に自信を持てないことが多く、それを取り戻すには時間がかかるのだ。まずは新しい職場で、積極的に行動してくれたことに感謝し、徐々に新しい仕事を任せていくことで、ネガティブな自己認識を改め、自分への自信と職場への信頼感を高めていくことができる。

同様に重要なのは、すべての社員がチームの一員であることを実感できるようにすることだ。団結することは難しいかもしれないが、少なくとも私たちは、可能性に焦点をおき、一つの文化を築き上げる努力をしている。社員一人ひとりが、経歴に関係なく、ベストを尽くしたいと思っており、私たちは会社として、何か素晴らしいものを作りたいと考えている。こうしたポジティブな職場環境を築くのに過去は関係ないと考えることで、私たちは共に未来を築き上げることができるのだ。

③チームワークを教える

「バウンス・バック!」の社員は、刑務所は利己主義が消えない環境だと言う。一方ほとんどの仕事では、利己主義とは真逆の相互支援と協力が必要になってくる。

インクルーシブなチームリーダーであること、そして積極的に貢献を求めることが、その不協和音の解消につながる。クラウドソーシングでセカンドチャンス社員からアイデアを募ることで、有益なフィードバックを得ることができ、社員は「見られている」「聞かれている」「認められている」と感じることができるようになった。

成果主義を奨励することも、有力な戦略だ。私たちは、チームがいつ、どのように成功したのか、また、どのような失敗から何を学んだのかを、データに基づき、全社員に示している。こうすることで、社員は自分の貢献がチームや会社の成長という大きな文脈にどう影響するかを理解できるようになる。

④プロの力を借りる

精神科リハビリテーションカウンセラーのナンシー・ランバート氏と雇用契約を結んだ日から、多くの従業員の人生が良い方向に変わった。彼女は、人事部長として採用される以前は、週に一度、工場に来て、職場内外の問題解決を望む従業員と内密に面談していた。また、日中や勤務時間外に電話をかけることもあった。

「バウンス・バック!」の社員の多くは、若年期に服役していたため、私たちが当たり前のように身につけているライフスキルを学ぶ機会がなかった。出所後は感情も未熟で、セカンドチャンス社員の多くは日常生活の要求に応えるのに苦労している。ナンシー氏は、過去に収監された人々と働いた経験を持っている。彼女の経験からくる専門知識は、セカンドチャンス・チームのメンバーが全体的に成功し、ビジネスの成長に貢献する上で大きく役立っている。

⑤いつもうまくいくとは限らないことを受け入れる

私は、耳心地の良いことだけを伝えるつもりはない。すべての元受刑者が成功するわけではなく、特に最初の90日間は多くの人が失敗する。元受刑者が自信をつけ、自滅的なパターンに陥らないよう新しい習慣を身につけるには、しばらく時間がかかるのだ。また、セカンドチャンスを得た社員の離職率は平均より高く、心を痛めることもある。うまくいかない社員の多くは、最初は好調でもそれを維持することができないのだ。

しかし、うまくいかない人を嘆いてばかりもいられない。新しい人生を歩むことに成功した人たちを見ながら、一緒に働くことは非常にやりがいがあり、逆境を克服する人間の精神力を証明するものでもある。

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