<社説>自衛官募集で名簿提供 県民の理解は得られない

 防衛省が自衛官募集業務に用いる住民名簿の提供に県内6自治体が応じている。住民への説明はないままだ。 個人情報保護の観点から違法性が指摘されている。今のやり方で県民の理解は得られまい。直ちに改めるべきだ。実施している6自治体では、まずは住民に経緯を説明することが急務だ。

 自治体からの名簿提供については、2019年に当時の安倍晋三首相が自衛官の募集業務に非協力的な自治体があることを問題視し、自民国会議員らを通じて地元自治体に提供を促すなど、党を挙げて取り組んだ経緯がある。極めて政治的な動きである。

 20年度に当事者の防衛省、地方自治法を所管する総務省は名簿提供を適法だとする通知を自治体向けに出した。

 しかし専門家は、個人情報の利用には本人の同意が必要として疑問視している。名簿提供の制度自体を慎重に検討し、説明を尽くすべきである。

 名簿提供している県外の自治体の中には、名簿からの除外の希望を事前に受け付け、提供名簿に登載しないところもある。県内ではこうした制度は採用されていない。

 県内の多くの自治体では、募集業務を担う地方協力本部などの担当者が名簿を閲覧している。名簿提供がなくともリクルート活動はできている。

 住民名簿を得ることに何か別の狙いがあるのではないかと感じさせもする。

 自衛官の募集事務は県や市町村への法定受託事務だが、沖縄では自衛隊に対する厳しい感情から、復帰後、多くの自治体が事務を拒否してきた経緯がある。

 法定受託事務としているのは、自治体などの協力を得なければ人材の確保ができないからだ。近年の人手不足には、再任用や女性登用などでも対応しているが、厳しい状況は変わらないはずだ。ただ、人材難はどの世界でも同じことでもある。なぜ自衛隊だけが特別扱いをされるのか。議論は尽くされてきただろうか。

 仮に「だから名簿を提供し、より勧誘しやすい状況を」という論理であるならば、特に沖縄では理解を得ることはできない。

 沖縄戦直前の1945年3月、軍は防衛召集の対象ではなかった14~16歳の中学生を動員した。県と軍の間で覚書が結ばれ、当時の島田叡知事が生徒名簿を提出したことで学生が戦場に駆り出された。

 鉄血勤皇隊には千数百人が動員され、半数以上が戦死した。沖縄戦での日本軍、行政の協力の結果であり、「軍隊は住民を守らない」の教訓にもつながる事実である。

 日本復帰後、急患輸送や不発弾処理など任務の継続もあって県民の自衛隊に対する意識が徐々に変わった。県民理解の大切さは自衛官らがよく分かっているはずだ。

 であれば、理解を得ることを第一に募集業務にも当たる必要がある。

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