F1技術解説:第11戦(2)FIAが取り締まろうとしているスキッドブロックのトリック

 2022年F1第11戦オーストリアGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。第1回「アップデート導入のレッドブルに勝利したフェラーリ。リヤリミテッドサーキットで示した優位性」 に続く今回は、スキッドブロックに関して一部チームが行っているといわれるトリックに注目する。

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 FIA(国際自動車連盟)はこれまで、マシンのバウンシング(高速走行時の激しい縦揺れ現象)問題に関して、チームにいくつかの技術指令書を送ってきた。

 その間、カナダとイギリスの週末に二度の協議が行われ、加速度センサーで測定されたGフォースの閾値を超えないようにする点では、チームも満場一致で同意した。問題はフロアやスキッドプレートの過度な変形を防ぎたいというFIAの意向で、これには強い反発が出ている。

 その急先鋒がレッドブルとフェラーリで、どうやら技術規則のグレーゾーンを突いて、スキッドプレートの一部、あるいはフロアを撓むようにした可能性がある。では具体的に、どうやったのか? 2015年からF1のスキッドプレートは、チタン製の金具でフロアに取り付けられている。これを利用してスキッドプレートの剛性を下げ、空力効率のいい変形ができるようにしているようだ。

 技術規則第3.15.8条では、プレートの前2カ所、後1カ所の計3箇所の最大変形量を2ミリと定めている。ここで重要なのが、FIAの技術委員が変形量を測定するのはプレート自体ではなく、この金具の摩耗ということだ。

メルセデスW13のプランク

 金具には深さ10ミリの大きな穴が開けられ、この深さが1ミリ以上減っていたら、合法的な摩耗量を超えていると判断される。一部のチームは、この金属プレートに二段階の細工を施し、路面と接触した際に収縮するような仕組みを作ったようだ。これなら路面との接触を気にすることなく低い車高での走行を維持でき、セッション後の車検の際にはプレートに摩耗は見られない。

レッドブルRB18のプランク

 彼らが本当に上述のような行為をしているのか、現時点ではFIAも含め誰も立証できていない。あくまで仮説であり、真実を知っているのは該当チームの開発エンジニアだけだ。だがFIAはグレーゾーンでのトリックを取り締まるべく、ベルギーGPから従うことが求められる技術指令書を発行、2023年のレギュレーションも変更することを決めている。

 レッドブルは技術指令書によりマシンに変更を加える必要はないと主張する一方で、フェラーリはスキッドプレートの調整が必要であることを認めている。同時にマッティア・ビノット代表は、もはやバウンシング問題はそれほど重要なものではないとも言う。

フェラーリF1-75とアルファタウリAT03のプランク

「今後、いくつかの変更が必要になるだろう。(FIAからの)新しい要求に対応するためには、新しい仕様が必要になるからね。ベルギーGPまで技術指令書の発効を延期したのは良いことだった。バウンシングは、もう緊急事態ではないからね。その証拠にイギリスでもオーストリアでも、ほとんど見かけなかった。最優先で解決すべき問題ではないと、言っていいと思うね」

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