32歳男性が仕事を辞めて弟子入り…おぼろ昆布がつないだ“おっちゃん”との強い絆 福井県伝統の手すき技

「現代の名工」に選ばれたこんぶ加工工、別所昭男さん(右)に弟子入りした河瀬滉平さん=7月19日、福井県敦賀市木崎

 福井県の敦賀伝統のおぼろ昆布の手すきの技を継承しようと、河瀬滉平さん(32)=敦賀市=が2020年度の「現代の名工」に選ばれたこんぶ加工工、別所昭男さん(79)に弟子入りし、日々鍛錬を積んでいる。「少しでも早く一人前になり、いろんな所に実演販売に行って敦賀のおぼろ昆布をもっと広めたい」と意気込む。

 河瀬さんは別所さんの作業場の隣の家に暮らしており、幼い頃から手すき昆布職人の別所さんを知っていた。市内の鉄工所に勤めていたが「このまま働き続けても自分の成長につながらない」と考え21年末に退職。「今まで経験のないことに挑戦したい」と別所さんに直談判し、年明けから名工の下で技術を磨いている。

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 最初の約2週間は細い昆布を用い、すくときの力の入れ具合や刃の角度を徹底的に練習した。5月末までは新品の昆布の表面だけをすく作業に取り組み「最初の頃は1日4、5時間しただけで腕がぱんぱんになった」と振り返る。

 6月に入ってからは昆布が芯だけになるまですく「むき込み」をしていて、1日4、5キロのおぼろ昆布を生産している。「一人前は1日で約10キロをすく」(別所さん)といい、河瀬さんは「まだまだ力不足。毎日おっちゃんから教わりながら、いいすき方を模索している」と話す。

 敦賀は古くから、おぼろ昆布の手すき職人が集まる一大産地だが、別所さんによると、現在は市内の職人は年々少なくなっており、ほとんどが60代以上で高齢化も進んでいるという。生まれたときから知っている河瀬さんが弟子になり「大歓迎でうれしかった。これまで弟子からは『師匠』と呼ばれてきたので『おっちゃん』も新鮮」と笑う別所さん。「言ったことをマスターするのが早く、筋が良い」と認め、3年以内に薄さ0.01ミリの「極」と同0.1ミリの「竹紙昆布」の別所さんだけが持つ加工技術を習得させたいという。

 弟子入りから半年以上たち「未熟な部分が多くはがゆい毎日だが、自分のすいたものが売れて収入になると喜びを感じる」と河瀬さん。薄さにばらつきが出ないように、無意識でも息を止めてすけるようになりたいといい「おっちゃんから言われたことをとにかく実践していくだけ」と力強く語った。

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