赤テントに懸ける(1)柳川陸さん 最多7演目出演 たゆまぬ努力

一丁梯子を練習する柳川さん。舞台での華々しい活躍の陰には普段からの惜しまない努力がある

 夢と感動を届けるために木下サーカスの出演者やスタッフたちは、どんな思いで舞台に臨んでいるのか。Part1では若手5人にスポットを当てる。

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 舞台に立つ男性が肩に載せた竹の長さは約6メートル。その先端に地面と平行になるよう取り付けられた梯子(はしご)の上で柳川陸さん(25)が立って笑顔で両手を広げる。小刻みに揺れても絶妙なバランス感覚でポーズを決める。

 柳川さんは、この羽根出し梯子を含め空中ブランコ、鉄棒の上に立ったまま前後に大車輪のように回るパイプレットなど七つの演目に出演。入団7年目にして約50人いる出演者の中で最も多い。

 幼少から運動が得意で、小学1年で鉄棒の懸垂逆上がりが同級生の中で唯一できた。高い所が好きで、木や建物によじ登っては、友達に自慢していたという。

 「将来はサーカス団員か大道芸人になりたい」。いつしかそう思うようになり、体操部がある高校に進学。大学にも進んで体操を続けるつもりだったが、高校3年で木下サーカスの公演を見て、「体操とサーカスは別物。早く経験を積んだ方が良い」と思い、卒業後、すぐに入団した。

 3年目でサーカスの花形と呼ばれる空中ブランコに出演。翌年からは空中ブランコの技の中で最も難しい「目隠し飛行」を任されるようになった。その後も次々と新たな演目でデビューを飾り「体を動かして注目を浴びるのがとにかく楽しい」と声を弾ませる。

 センスの塊に見えるが、その陰にはたゆまぬ努力がある。週3回の合同練習だけでなく、公演先ではいつも体操教室を探して通う。トレーニングを怠る日はなく、両方の手のひらには、つぶれて固くなったまめが並ぶ。

 デビューまでに最も苦労したのは、古典芸の一丁梯子だ。寝転んだ男性が両足の裏で支える高さ約6メートルのはしごに、もう1人が登ってポーズを決める。柳川さんは、はしごの頂上で倒立するオリジナル芸に挑んだ。

 不安定なはしごの上で逆立ちの体勢を保ち続けるのは難しい。自らの演技を動画撮影などして少しずつ改善。感覚を研ぎ澄ませるためにあえて目を閉じて練習したこともある。2年の特訓を経てデビュー。岡山公演では腕を痛め、この演目を一時休止中だが、7月中には再開する予定だ。

 「演技ができて満足するのではなく、見せ方を含めて、いかに感動してもらえるかを考えている」。さらなる技の向上を目指し努力を怠らない。

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