Vol.57 日本版ドローンオープンプラットフォームプロジェクトが目指すもの[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

6月20日にドローンオープンプラットフォームプロジェクトの開始のニュースリリースを出した。

参考:

「ドローン・ジャパン、イームズロボティクスと協働プロジェクト始動。ドローン関連企業の技術連携可能なプラットフォーム形成へ」

日本版ドローンオープンプラットフォームプロジェクトの背景

このプロジェクトの背景は、過去以下のコラムでも指摘してきたが、中国DJIに対抗する形で北米において、そのプラットフォームが固まり始め、ドローンビジネスの社会実用が本格的に動き始めている中で、日本はどういうプラットフォーム戦略を築くのかということに対するドローンビジネスを営む民間企業におけるカウンターという側面がある。

これから日本で目指すべきプラットフォーム戦略は、単なるフライトコントローラーのOSだけでなく、ドローンやロボットが自在に動く全体環境におけるプラットフォーム戦略だろう。 現在はそれをあまりにドローン単体で処理させようとしすぎている。

日本において、特にGPSが届かない屋内点検といった領域での「ドローン(ロボット)バリアフリー」といったものをきちんと構築していくことが重要だ。 これは屋内などにおいて、ドローンやロボットが自己位置を把握できる環境を構築するためのシステム(カメラやセンサー、通信などを活用したもの)のプラットフォーム戦略である。

この戦略により実環境を動く移動体としての最適化に向けたベースが出来、それはそういった環境構築にもビジネスが広がっていくため、実現した場合の波及効果も大きく、また、海外にもそのソリューションとしての展開が可能になっていくことだろう。

引用:

Vol.53 ドローンのプラットフォームとその戦略[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

日本企業の中にはドローンに関連する個々の技術やアプリケーションの使い方などに長けた企業は少なくない中で、そういった企業がきちんと水平分業型でドローンを活用するユーザー企業向けにソリューションを提供していこうということだ。

ドローンオープンプラットフォームのフレームワーク

今回のプロジェクトは機体制御および機体管理、ペイロード制御、通信制御の連携を図ることを目的にしている。 そういった目的のため、ドローンの技術をオープンプラットフォームは以下の技術ブロックに分解し構成されている。

各技術ブロックの内容は大きく分けて、ドローン本体に積載されているものとドローン本体の外側のものと二つになっている。

ドローン本体

  • Flight Controller
    基本機体制御、高可用性、二重化など、安定性や安全性を高める技術を提供
  • センサー(IMU、コンパス、GPS/GNSS、気圧計など)
    自己診断など、安全性や安定性を高める技術を提供
  • バッテリー
    二重化、自己診断など、安全性を高め、扱いやすい技術を提供
  • Flight Code
    基本機体制御の中で、セキュリティ(セキュアフライトモード)、フェイルセーフなど、他の技術ブロックと連携し、安全性や安定性を高める技術を提供
  • モーター(ESC、プロペラを含む)
    熱や回転むらなどの異常検知といった安全性を高める技術を提供
  • Companion Computer
    業務に合わせた飛行が可能な高度な機体制御、ドローンに搭載するペイロードの機体と連動した制御、通信の優先順位などを制御する通信制御、ユーザーがより使いやすい機体管理が可能な技術の提供
  • ペイロード
    搬送物、散布機、カメラ、ロボットアーム、パラシュートなどのペイロードを遠隔で操作、機体と連動する技術を提供

ドローン外部

  • 通信
    通常の無線、LTE、5Gなどの通信に対応し、通信の安定性や安全性を高めるため、二重化やフェイルセーフ、セキュリティなどの技術を提供
  • アプリ(スマートフォン、タブレット、PCなどで使用)
    使用環境に応じて使いやすいアプリケーションを提供するとともに、安定性・安全性を考慮し、リスク回避やセキュリティを強化したアプリケーションの提供
  • プロポ
    二重化、セキュリティなど、安定性や安全性を高める技術を提供
  • クラウド
    実運用に向けて機体やパイロットの管理、搭載しているフライトコード管理などを容易に行うことが出来るソリューションを提供するとともに、安定性や安全性を向上させるためのログ自動解析ソリューションの提供
  • ドローンポート
    各社の機体が共通で使用可能な形での規格の統一化

これ以外の技術要素もドローンにはある(例えば、エンジンなど)が、まずはこういった技術ブロックをきちんとつなぐためのルールや規格作りが重要となってくる。 特に、実証実験(ドローンで何が出来るのかという目線)を超えて、実用化してきた場合には、より安定的な運用やセーフティやセキュリティの適正化というものに対してもきちんと実装していかねばならない。

また、各ドローンを活用し業務に生かすためには、こういったドローンの動作だけでなく、ドローンで取得したデータや情報を取り扱うためのソリューションも必要であるが、今回のドローンオープンプラットフォームプロジェクトには含んではいない。しかし、その情報分析や解析ソリューションのために必要な機体情報はAPI等により連携可能な仕組みを考えている。

そして、このプロジェクトに直接的にはUTM(航空管制)技術も含んではいないが、これは今後、政府や行政がそのルールを明確化していくことになっていくと思われるので今後協議をし、必要な情報は連携可能な形にしていく予定だ。

ドローン オープンプラットフォーム プロジェクトの内容

「各ドローン関連企業の技術連携が可能なプラットフォーム」の形成を目的に、先ほど示したドローンを各技術ブロックに分解して

  • ブロック間の接続やデータ交換のルールの策定
  • 各機能におけるドローンソリューションの整理
  • 各業務分野におけるドローン技術の整理
  • 当プロジェクト推進のための人材育成
  • 共通したサポート体制の構築

を行う形になっている。

このプロジェクトの参画にあたっては、ドローン技術提供企業に関しては、MAVLINKでのコミュニケーションプロトコルを採用していること、ドローン機体メーカーに関しては、ドローン オープンプラットフォーム プロジェクトが策定する各技術ブロック間接続やデータ交換のルールに基づき機体提供を計画することとなっている。 6月20日時点におけるドローン技術提供企業およびドローン機体メーカーのパートナーマップは以下になっている。(7月18日現在でパートナー企業はもっと増えている)

プロジェクト参加のメリット

ドローン技術提供企業にとってのメリットは以下となっている。

  • 自社の開発した技術が様々な機体メーカー、ドローンサービス提供企業、ドローン活用企業に展開可能
  • 将来的には、日本だけでなく、諸外国、東南アジア、アフリカ、欧州などといったエリアにも展開可能
  • 今後同様なプラットフォームを、マルチコプターだけでなく、固定翼やVTOL、陸上走行車、ボート、潜水艇にも展開可能

機体メーカーにとってのメリットは以下となっている。

  • 開発コストを抑えて、新たな機体制御、ペイロード、アプリケーション、クラウドサービスを自社の強みと組み合わせて、採用が可能
  • 共通な技術人材におけるサポート網の確立

日本版ドローンオープンプラットフォームプロジェクトが目指すもの

ここまではドローンの機体および機体に付随した技術やソリューションを提供する側が水平分業することで、いかにお互いのメリットを出していくかといった内容であった。

しかし、重要なのは、ドローンを活用する企業におけるメリット、特に今回はドローンの実用化に伴うことによる課題に対するメリットということになる。 いわば、そのコンセンサスがなければ、プロダクトアウトの議論になってしまい、今までの実証実験(ドローンで何が出来るか)の域を出ない形になってしまう。

このプロジェクトをジャパン・ドローン展の前日に発表したこともあり、このプロジェクトに関して、多くの人と話をした。 当然、各レイヤー(機体メーカー、ドローン技術提供企業、ドローンサービス提供企業、ドローン活用のエンドユーザー)によって、その見地は異なってくる。 機体メーカーにとって、多く聞かれたことは、現状まだ売上が伴わない中での各業務に適正化するための機体および使いやすいアプリケーションの開発コストと技術リソースの確保という課題だ。 また、実用化が徐々に動く中で広域に拡がるサポートの課題を挙げるメーカーも多かった。

ドローン技術提供企業においては、提供する技術をどうやって実装していくかという課題を挙げる企業が多い。 それは機体ごとに技術上どうやって実装していくのかといったこともあるし、また、どうやってアプローチしていけばいいのかということ、そして、特に大企業の開発部門での開発案件に関しては、今後どういうビジネスプランを描いていけばいいのかということを悩んでいる企業も多い。

ドローンサービス提供企業においては、機体の扱いやすさや採用機体メーカーが複数になっていくことに関しての管理の課題を挙げる企業が多い。 特にドローンサービス提供企業の多くはドローンで取得したデータを使ってのユーザーに対するソリューションビジネスを行っているため、その情報やデータを安定的に、目的に応じた形でなるべく短時間に低コストで取得することが重要となってくるので、そういったデメリットが少ないドローンシステムを選択したいという要望が強い。

ドローンの活用のエンドユーザーとも多く会話をした。 ドローン活用のエンドユーザーにおいては、まだ実証実験の段階で、ソリューションが定まっていないケースもあるが、これまで投資をしてきた企業においては、既に開発や企画のチームから運用のチームにシフトしてきているケースが出てきている。

その運用のチームが抱えている課題は、運用人員の技術レベル、運用の安定性、セーフティやセキュリティ、技術サポート体制といったことになっている。 こういった課題のクリアが行えていないため、運用計画を立てることが出来ず、場合によっては、開発や企画のチームに差し戻されるケースも出てきている。 簡単にいえば、ドローンのシステムは使いやすく、安定的で安全性の高いものになっていないということだ。

今回の日本版オープンプラットフォームプロジェクトは機体開発や機体ソリューション開発側での連携の取組みにみえるが、実は本質的にはこのドローン活用のエンドユーザーの、特に運用チームの課題を解決するためのプロジェクトである。 要は、ドローンのシステムを使いやすくして、安定性や安全性に関して、ユーザー企業が納得できる水準にまで引き上げ、きちんとしたサポート体制を築くというところに目指すものがある。 そして、そのことがドローンの社会実装を加速させ、また、そこで培ったノウハウが日本以外の海外へも展開可能であるということを信じている。

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