超アナログ方式!令和になっても続く数十年前と同じ高校生のシューカツ 企業の後押しでようやくデジタル化の動き

進路指導室に置かれた2021年度分の求人票ファイルと荻原教諭(右)=4月、埼玉県立三郷工業技術高校

 大学生では当たり前のインターネットを介した就職活動が、高校生ではほぼ行われていないと聞いて、記者は耳を疑った。取材すると、令和になった今も、生徒が学校に届いた紙の求人票のファイルを一枚一枚めくって応募先を探していた。数十年前と同じ「超アナログ方式」が続いていることに対し、新規事業を提案するスタートアップ企業が「どうにか解決してあげたい」とデジタル化に動き出した。生徒はスマートフォンで手軽に多くの企業の研究や比較が可能となる。就職先とのミスマッチによる離職を防ぐ効果も期待できそうだ。膨大な求人票の整理に追われる教員の働き方改革にもつながっている。(共同通信=米良治子)

 ▽各教室に求人票を50枚ずつとじたファイルが置かれていた

 試しに記者は、約30年前に工業系高校を卒業後就職した親戚(48)に、当時、どうやって就職先を検討したかを尋ねた。親戚によると、高校3年生だった1992年当時、各クラスに求人票のコピーをとじたファイルが置かれていて、それをめくって探したということだった。
 では、現代の高校ではどう行われているのか。卒業生の約6割が就職する埼玉県立三郷工業技術高校が取材に応じてくれた。昨年までは3年生の各教室に、求人票を50枚ずつに分けてとじたファイルが置かれ、生徒はそこから応募先を探していたという。30年前と変わらないやり方が本当に続いていた。

 しかも高校生の就活には独特な慣習が残っていた。応募は1人1社としている学校がいまだに多く、進路指導にあたる教員が実質的に生徒の応募先を差配することになる。企業側は「なんとか良い人材を自社に」とお願いするため、わざわざ求人票を届けに学校を訪問していた。高校生向けの求人票は7月1日に一斉に解禁になるため、1校でも多く、かつ早く訪問したい企業は人手も出張費もかさむ。こうした古い慣習は学校にも企業にも負担となっていた。
 三郷工業技術高校の進路指導を担当する荻原志郎教諭によると、例年、求人票を受け付ける7月1日から、期末試験後の7日に生徒向けに求人票を公開するまでに膨大な作業が発生していた。昨年度学校に届いた求人票は、訪問、郵送合わせて1149社分の1645枚に上る。1日50件ほどの企業による訪問に応対しながら、求人票を各クラスや進路指導室に置くため、15部ずつ計約2万5千枚をコピーし閲覧用ファイルを作成しなければならなかった。
 また同時並行で、学校独自のデータベースに、職員12人で求人票に書かれた事業者番号や企業名など20項目を手入力で打ち込む作業もあった。生徒の内定後に、ハローワークへの報告に必要な情報だという。授業がない時間帯などをフル活用しても、かつては作業が深夜にまで及ぶことがあった。
 だが、こうして苦心して作成したデータベースは、紙の一覧表としては打ち出せるものの、生徒自身が給与や勤務地といった条件で検索することはできなかった。求人票ファイルは学校外に持ち出せないので、保護者も面談の日などに学校で目を通すしかなく、家庭で親子一緒にファイルを見ながら検討することもかなわなかった。

 ▽スマホで多様な仕事を比較して納得感の高い就活に

 三郷工業技術高校は、こうした課題を解決するため、スタートアップ企業の「スタジアム」(東京)が開発した「Handy進路指導室」というシステムを新たに導入した。学校の複合機で求人票を読み込むと項目別のデータに自動変換し、学校はネット上で管理することができる。生徒は各自のスマホからログインして求人票を見ることができる。業種や給与などの条件で、就職したい企業を簡単に絞り込むことも可能だ。

スマホで見たHandy進路指導室の画面イメージ(提供写真)

 厚生労働省の調べでは、新規高卒者は約4割が3年以内に離職している。1人1社制の慣習がある中、民間の調査では、高卒就職者の55%が「1社だけ調べ1社だけ応募して内定した」と回答している。事前に企業研究が不十分なまま入社し、現実との食い違いが生じているとの指摘がある。
 ファイルをめくって応募先を探すやり方の限界もある。三郷工業技術高校の場合、冒頭から400枚程度の求人票はしわが寄るなどよく読まれていることが一見して分かったという。一方、後半の求人票は手つかずできれいな状態で残ることが多かった。紙媒体では400枚程度に目を通すのが限界で、千枚目に最も良い条件の会社があっても、気付けていない可能性さえあったのだ。
 新たなシステムでは、自宅で保護者と一緒にスマホを見ながら、就職先について話し合える。検索によって自分が知らなかった職業や仕事と巡り合い、より多くの企業情報を比較した上で、決めることができる。
 企業が学校と連携し、訪問せずに求人票をアップロードすることも可能だ。学校訪問の出張費や時間を節約できる企業側がスポンサーとなることで、学校や生徒の利用料は無料。昨年12月のサービス開始以来、6月下旬までに42都道府県の約350校が導入した。
 スタジアムの前沢隆一郎執行役員は「危機感を抱いた先生方から相談を受け、一緒に試行錯誤しながら開発、改良を重ねた」と振り返る。訪問した学校の中には、手書きのリストで求人票を管理している高校もあった。費用負担が発生すれば、予算の承認など導入手続きに年単位で時間がかかることが分かり、学校は無料という仕組みも考案した。
 各地の公立高校と行った実証実験では、求人票の整理にかかる業務時間を90%削減した学校もあった。教員からは「負担軽減で、生徒と一緒に就職について考える時間を確保できる」「多様な仕事や会社を比較できるようになり、生徒の納得感が高い就活ができそうだ」といった声が寄せられた。

 ▽全国の情報も検索可能なサイトではSNSで個別相談も

 では、生徒は学校に届いた以外の求人情報を知ることはできないのか。実は、ハローワークに登録された高卒者向けの求人票は、高校の進路指導室や職員室にある端末から、高校ごとに与えられたIDで全国の情報を検索することができる。
 ただ、ほとんどの学校で、基本的に扱うのは教員だ。生徒が自由に検索することはほとんどない。家族の引っ越しで縁のない遠方の地域で就職を希望するなど、特殊な事情がある場合に限って、教員が検索に利用するという。
 そうした現実に風穴を空けようと、全国の求人情報を高校生自身が検索できるようにしたのが、人事・就職支援企業の「ジンジブ」(大阪市)が運営する高校生向け就活サイト「ジョブドラフトNavi」だ。「現状のままでは、高校生の選択肢が少な過ぎる」と感じた創業者の思いから、2015年にサービスを開始した。

埼玉県立三郷工業技術高校で開かれた、求人票をスマホで閲覧するシステムの説明会=4月

 高校生にも使いやすいよう、交流サイト(SNS)のLINEのIDで登録する方式。求人内容のほか、職場の雰囲気が分かるよう、動画や写真で企業を紹介している。SNS上で個別相談に応じ、オンライン面接も指導する。昨年は1800社を掲載した。
 少子化や外国人労働者の不足で、新たに高卒採用を始めたい企業は確実に増えている。ただ、求人票持参など、高卒就活の特殊な慣習が参入しにくくしているという。
 ジンジブの新田圭取締役は「掲載企業からは『求人票を配っていない地域から応募があった』との声も多い。ネット経由なら、高校の指導では結びつかなかった企業への就職が選択肢になる」と強調する。高校向けのキャリア教育講座や、就職後のフォローアッププログラムも実施しており、今後も高卒者の早期離職防止に力を入れる方針だ。

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