ボクシング最強ランキング1位!「モンスター」井上尚弥を支持したキーマンが語るPFPの判断基準

ボクシングのバンタム級世界3団体統一戦でノニト・ドネア(右)を攻める井上尚弥=6月7日、さいたまスーパーアリーナ

 日本ボクシング界にバンタム級世界3団体王者の井上尚弥(大橋)が新たな歴史を刻んだ。6月10日、米国の老舗専門誌「ザ・リング」の全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」で日本初の1位に上り詰めた。意見が二分した選考で最後に井上尚を支持したキーマン、ダグラス・フィッシャー編集長(52)は「井上を選ぶのが自分の中で正しい決断と感じた」と判断に自信をにじませた。(共同通信=木村督士)

 ▽並ぶレジェンドの名

 

井上尚弥が表紙を飾った米国の老舗専門誌「ザ・リング」(同誌提供)

 PFPという言葉は早くから使われており、1940~60年代にミドル級などで活躍したシュガー・レイ・ロビンソン(米国)の存在で広く知られるようになったとされる。同誌によると、89年にPFPランクを導入。記者で構成される選考委員の協議を同誌がまとめている。過去の1位にはマイク・タイソン、フロイド・メイウェザーの米国勢、マニー・パッキャオ(フィリピン)らレジェンドの名前が並ぶ。5月に来日した際、パッキャオ氏が「アジア人として誇りに思う」と振り返った栄誉に井上尚も浴したことに、フィッシャー氏は「歴史的だと思う」とたたえた。井上尚もツイッターに「日本人がこれまで誰もたどり着けなかった場所まで来た」と喜びを記している。

 ▽ウシクとの差

 

 公式サイトでは選考経緯を詳述。1位だったヘビー級の世界3団体統一王者、オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)と井上尚の評価で4―4と割れた。最後の選択を託されたフィッシャー氏は電子メールによる取材に、この時の心境を「誰に1票を投じようと、反対する者はいる。PFPの議論はファンを夢中にさせるもの」と説明した。

米国の老舗専門誌「ザ・リング」のダグラス・フィッシャー編集長(本人提供・共同)

 フィッシャー氏は、直近で勝った相手に差があったと論じた。昨年のヘビー級世界戦でウシクに屈したアンソニー・ジョシュア(英国)を「グッド」としつつ、井上尚に敗れたノニト・ドネア(フィリピン)を「グレート」と表現。井上尚を「天性の才能とスキル、テクニック、そして身体能力が絶妙にブレンドされている。これまでで最も手ごわい相手をダイナミックに爆発力を発揮して破った」と絶賛した。
 ウシクは18年にクルーザー級で主要4団体の王座を統一。「アンディスピューテッド(議論の余地のない)」王者の称号を手にした後、最重量級でも王座に就いた。
 フィッシャー氏は「私は両者を『PFPが意味するところを具現化する存在』と見ている」と井上尚とウシクを称賛。一方で「ボクシング界は欲深い。格闘技ファンは常に偉大なパフォーマンスを求めて飢えている。私たちは『あなたは最近私に何をしてくれたのか』という社会に生きている」と背景を解説した。ウシクが判定勝ちしたジョシュア戦が昨年9月だったのに対し、井上尚が2回TKOで制したドネア戦が今年6月で「より興奮を生んだ」と分析した。
 その上で「時に大事なのは勝ったかどうかではなく、どうやって勝ったか。井上はドネアをこれまでほかのバンタム級ではなかったような形で破った」としながら、ジョシュア戦でのウシクを「井上ほど超圧倒的というわけではなかった」とした。

 ▽スーパーバンタム級でもモンスター

2022年6月7日撮影、さいたまスーパーアリーナ

 向かうところ敵なしにも見える井上尚の勢いはどこまで続くのか。将来的にフェザー級まで上げて5階級制覇を達成する可能性には「いずれフェザー級で闘うことになるとは思うが、どれだけ圧倒的な存在になれるかは分からない。その時までにフェザー級に誰がいるかにもよる」と未来を予想した。
 1位の座を守るためにはバンタム級主要4団体統一が求められるとし「議論の余地のない存在となり、圧倒的な形で勝ち続ける必要がある。『調子の悪い夜』というのは許されなくなる」と高いハードルを掲げた。一つ上の階級変更にも言及し「スーパーバンタム級でも、まだ『モンスター』になれると思う」と井上尚の愛称を引用しながら太鼓判を押した。

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