青空に映える赤い電車

 【汐留鉄道俱楽部】静岡県にいると何かと「静岡VS浜松」のライバル関係を意識することが多い。静岡市も浜松市も政令指定都市。県庁は静岡市にあるが、人口は浜松市の方が多い。静岡は首都圏と、浜松は中京圏と結びつきが強いし、それぞれ昔の国でいえば駿河と遠江の中心的な町であり、気質も違うような気がする。
 鉄道の世界でも両者はライバルだ。静岡、浜松とも東海道新幹線の停車駅で、ともにのぞみは通過するので、その点は「おあいこ」。在来線の東海道線はどちらも近隣区間の輸送を中心としたダイヤが組まれている。
 私鉄もそれぞれに静岡鉄道、遠州鉄道という地方私鉄があり、駅間が短く通勤・通学や買い物に使われる身近な存在という点もよく似ている。というわけで、今日は遠鉄(えんてつ)の略称で親しまれる浜松の遠州鉄道を取り上げよう。
 遠鉄の始点、新浜松はJRから西へ少し離れた高架の駅で、新幹線からもちらっと見ることができる。線路はここからほぼ北へ直進、終点の西鹿島は天竜浜名湖鉄道(天浜線)との接続駅で、全長は17.8キロ。自治体の合併で大きくなったこともあるのだが、線区はすべて浜松市内だ。
 

青空の下を快走する遠州鉄道の「赤電」=浜北駅近く

 遠鉄の車両の特徴は、なんといっても車体を包む真っ赤な色。地元では「赤電」と呼ばれている2両編成(ラッシュ時には4両編成も)の電車が、日中も12分間隔で走っている。全線単線なのだが、ほとんどの駅が行き違いのできる構造になっているため、こうした密度の濃いダイヤを組むことができるのだろう。
 浜松中心部のビル街を抜け、赤電は高架線をまっすぐ進む。新浜松から6駅先の上島(かみじま、最初の「か」にアクセントがあるのが新鮮)まで高架は続き、びっしりと並ぶ家々の屋根を見下ろし、遠くの南アルプスの山々も望める。ご多分に漏れず静岡県も車社会なので、これだけ長い区間が立体化されている社会的メリットも大きいと思う。
 

赤くないラッピング電車も。これはエヴァンゲリオンとのコラボ=西鹿島駅

 高架線が終わって地表に下りた最初の駅が自動車学校前。随分即物的な名前だなあと思ったら、何のことはない、遠鉄グループの学校なのだった。
 だいぶ田畑が増えてきたなと思っているうちに、新東名高速道路の下をくぐって終点、西鹿島に到着。第三セクターの天浜線にも乗れるフリー切符が発売されているので、さらに鉄道の旅を楽しむこともできる。
 それにしても遠州の青い夏空に赤い電車の映えること! 冬は冬で「遠州の空っ風」で知られるくらい晴天が続くので、赤と青のコントラストを連日味わえる。延伸されることもないだろうし、複線化されることもないだろうが、いつまでも便利で親しまれる赤電でいてほしい。
 ☆共同通信・八代 到

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