子どものインターネット利用は1日4時間半も!学力やうつ傾向との関係は? 専門家に聞くスマホとの適切な“距離感” アメリカのお母さんが考えついた「契約書」の工夫

スマートフォンを操作する小学生

 夏休みは子どもが家で過ごす時間が長くなり、インターネットやスマートフォンに接する機会も増えるのではないでしょうか。小学校入学前の子どもを育てている私も、子どもの注意を引きたい時や、聞かれたことへの答えを調べる際にスマホを頼ることがしばしばあります。
 ただ成長や視力、睡眠などへの悪影響を指摘する声も聞こえてきます。どんな科学的データがあるのか、子どもとスマホなどのデジタル機器との適切な“距離感”は―。改めて専門家に話を聞いてみました。(共同通信=村川実由紀)

 ▽「ネット依存が疑われる中高生は93万人」

 今、子どもはインターネットをどれだけ利用しているのでしょうか。内閣府は2009年度から毎年、子どもと保護者を対象に調査を続けています。2021年度の調査結果を紹介します。インターネット利用者の割合はここ数年増加していて、10~17歳の小中高の児童・生徒のほとんどと言える97・7%が「利用している」と回答しています。0~9歳を対象にすると74・3%になります。

 ネット接続に使う機器にはスマホ、パソコンやタブレット端末、ゲーム機、テレビなども含まれます。何を見ているかというと「動画」が、どの年齢層でも多い傾向がありました。
 1日の利用時間の平均も少しずつ増えており、10~17歳は前年度(2020年度)より約1時間多い約4時間24分、9歳以下でも約7分増で約1時間50分でした。
 2018年には「インターネット依存が疑われる中高生が93万人に上る」との推計が厚生労働省の研究班によって発表されました。ネット依存、ゲーム依存を巡っては、SNSやオンラインゲームのやり過ぎで朝起きられなくなった子どもの例のほか、家の物を壊す、家族に暴言を吐くなど攻撃的な行動を取るようになったケースも報告されています。
 世界中の医療従事者や政府が病気の分類に使う世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」にも新たにゲーム障害が加わりました。ゲーム、インターネットの長時間利用による依存症の発症は世界的な問題となっています。

 ▽うつ傾向、学力低下

 国内では山梨大の山縣然太朗教授(社会医学)の研究チームが、インターネット利用が子どもに及ぼす影響を調べています。山梨県甲州市と連携して30年以上続けている調査の中で、ネット利用もテーマの一つとして扱っています。

山梨大の山縣然太朗教授

 中学生を対象とした研究では「気がつくと、思ったより長い時間インターネットをしていることがある」に当てはまるなどネット依存の傾向がある子は、睡眠時間のほか勉強や運動の時間が短いことが多く、うつ傾向とも関係がありそうだということが見えてきました。さらに突っ込んで調べたところ、ネット依存の特徴が現れた後にうつ傾向に陥るパターンが多いことが判明。ネット依存を防ぐことが青少年のうつ予防につながる可能性が明らかになったということです。
 山縣教授らのチームはもう一つ、気になる研究結果を今年1月に発表しています。
 全国約8万4千組の母子に、子どもが1歳の時、テレビやDVD視聴などで画面を見せた1日当たりの時間(スクリーンタイム)を尋ねました。すると、スクリーンタイムが1時間以上だった男児は、3歳で自閉スペクトラム症と診断される確率が上がるという結果が出ました。
 そう聞くと、スクリーンタイムの長さが原因で自閉スペクトラム症という結果を招いた、と考えてしまいそうですが、山縣教授は「そうではない。この結果は誤解を招きやすいので解釈に注意が必要だ」と強調します。どういうことでしょうか?
 自閉スペクトラム症は、生まれつき脳の一部に障害があることが原因とされています。ただ、発症の時期や症状の重さなどに、周りの環境も影響する可能性があると考えられています。「スクリーンタイムもそうした環境要因の一つではないか」。山縣教授はそう話しています。

山梨大の久島萌特任助教

 チームの中心となって研究をまとめた久島萌特任助教は、スクリーンタイムが長いと親と関わる時間が減っている可能性があるとして、「目的や使い方を見直してはどうでしょうか」と提案しています。

【山縣教授らが今年1月に発表した研究結果】

https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2788488
 

 学力についてもデータがあります。文部科学省などが実施している全国学力・学習状況調査の2014年度の結果では、携帯やスマホを用いた通話やメール、インターネットの1日当たりの使用時間が長いほど、国語や算数、数学の正答率が低くなる傾向が出ています。最新の2021年度の調査ではゲームの時間が増えるほど正答率が低いという関係性も示されています。
 

日本医師会と日本小児科医会が制作した啓発ポスター(日本小児科医会提供)

 日本医師会と日本小児科医会が制作したポスターには睡眠、体力、視力、脳機能、コミュニケーション能力への影響が出る恐れがあることも紹介されています。

 ▽利点の一方、マイナス面示唆するデータも。どう付き合う?

 スマホなどのデジタル機器にはもちろん、多くの利点があります。無料で世界中とつながって知識を増やすことができます。新型コロナウイルス流行下では、離れていてもコミュニケーションを保つことができる重要なツールとなりました。
 それでも、これまで紹介してきたように利用に伴うマイナス面を示唆するデータが増えてきています。はっきりした結論、もしくは証明が出るまでには時間がかかるかもしれません。それまでの間、どう付き合えばいいでしょうか。
 

 山縣教授は「使ってはいけないというわけではない。ただ、睡眠、勉強、外遊び、家の手伝いなど、子どもにとって本来必要な時間が削られている恐れがある」と指摘し、これら必要な時間をまず優先し、余った時間をインターネットやゲームに使ってもいい、というルールにしてはどうかと話しています。 

 最後に、米国で話題になったある保護者の工夫を紹介します。東部マサチューセッツ州に住むお母さんが13歳の息子にスマホをプレゼントした際に手製の契約書を一緒に渡しました。10年ほど前のものですが、一部を抜粋します。この契約書を見て、私自身、ハッとさせられました。大人にとっても耳の痛い指摘があるのではないでしょうか。
 一、これはお母さんのスマホです。私が購入し、あなたに貸しています。
 一、学校のある日は午後7時半に、休日は午後9時に親に渡すこと。
 一、人と直接話すことを楽しみなさい。会話する力は生きる上で必要なスキルです。
 一、トイレに落としたりぶつけて壊したりしたら、修理費用は自己負担です。お手伝いや誕生祝いなどで賄うように。
 一、うそをつくとか、人をばかにするために使ってはいけません。いじめに関わるのも駄目です。
 一、人に面と向かって言えないことをやりとりしないで。
 一、公共の場では電源を切るか音を出さないこと。あなたは失礼な事をする人ではありません。スマホを手にしても変わらないで。
 一、裸の写真などの送受信はしない。人生を台無しにする恐れがあります。一度ネットで拡散した物を消し去るのは困難です。
 一、大量の写真やビデオを撮らない。経験を大切にしなさい。
 一、あなたの周囲をよく見て。鳥のさえずりを聴き、散歩をして人と話しなさい。ネット検索に頼らず自分で探し求めなさい。
 一、問題があるようなら没収します。そして一緒に話し合い、やり直しましょう。

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