資産1400万円を現金預金で持つ一家の家計。FPが指摘する円安とインフレリスク

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、公務員の妻と、2人の子どもと暮らす、36歳公務員の男性。家計の収支が適正か診断してほしいといいますが、FPは収支よりも資産のバランスが気になったようです。FPの秋山芳生氏がお答えします。


36歳、公務員。公務員の妻と、3歳・7歳の子どもたちと4人家族です。

ダブルインカムで、毎月の手取りは約57万円、ボーナスは約300万円あります。このなかから、毎月15万円、ボーナスから150万円を貯金に回しています。

(1)現在の家計は適正か、(2)固定費で下げられる取り組みはあるか、家計診断をお願いいたします。また、(3)2026年3月までに1,000万円貯蓄できるかについてもアドバイスいただければ幸いです。

・男性、36歳、公務員 ・妻、38歳、公務員 ・子ども2人: 3歳、7歳

・住居の形態:賃貸(東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:約57万円(夫27万円、妻30万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:約300万円(手取り)

・毎月の世帯の支出の目安:約35万

【毎月の支出の内訳】

・住居費:12万8,000円

・食費:6万5,000円

・水道光熱費:2万円

・教育費:6万円

・保険料:6万円(天引き)

・通信費:2万円

・お小遣い:3万円

・その他:5万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:15万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:150万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):1,400万円

・現在の投資総額:12万円

・現在の負債総額:0円

・老後資金…貯蓄型積立保険(養老)月額約4万円、外貨建て個人年金年額約50万円(給与から天引きされている、妻と二人分の合計)

ご相談ありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼 FP YouTuberの秋山芳生です。今回の相談者さまは、36歳の公務員の方で、3歳と7歳のお子さんがいらっしゃいます。妻も公務員のダブルインカムで安定した収入がありますね。一見、不安はない家計のように見えますが、以下の質問をいただいています。

(1)現在の家計は適正か?
(2)固定費で下げられる取り組みはあるか?
(3)2026年3月までに1,000万円貯蓄できるか?

一つひとつ一緒に考えていきましょう。

(1)現在の家計は適正か?

家計状態ですが、手取り収入が57万円(夫27万円+妻30万円)で、支出が35万円、15万円が貯蓄額で、7万円ほど使途不明です。使途不明金が多いので「何にいくら使っているか」を把握しましょう。資産形成の一番の基本になるので、家計簿を活用して把握する力を高めると良いと思います。特に家計簿アプリを使っている人に多いのが、自動で集計されるので「なんとなくわかった気」になって家計の見直しをしない方です。集計されたデータはあくまでデータでしかなく、それを活用しなければ意味がありません。把握したデータからご自身の使い過ぎポイントを見つけ、支出を改善していきましょう。

毎月の貯蓄額は15万円とのこと。57万円の収入の26%にあたり、大変頑張っておられますね。「公園の父」と呼ばる本多清六は、投資家でもあり、莫大な財産を築きました。彼の貯蓄法は「収入の4分の1を貯蓄すべし」というもの。この基準をクリアされているは素晴らしいと思います。

資産全体のバランスは?

資産全体をみると、1,400万円が現金貯蓄で、運用資産は12万円です。資産のほとんどが日本円なので、グローバルな視点で見るとバランスの悪い状況にあります。現金は安全資産であると思われがちですが、資産が現金に偏っていると、知らず知らずのうちに資産価値が少なくなることがあるからです。

インフレと円安対策も考えておこう

その原因の一つがインフレーションです。長期的に見ると平均的な世界の物価上昇率は2%ほどです。日本銀行も日本のインフレ目標を2%にしています。

特に今年は戦争や原油問題からインフレが進んでいますが、物価の価値が上がると相対的に現金の価値が小さくなります。100円で買えたものが110円出さなければ買えなくなれば、物価が上がったと同時に現金の価値が下がったことになるからです。株式や金、不動産など比較的インフレに強い資産をもつことで対策ができます。

また為替が円安に進むと円の価値が少なくなります。現在は日米の金利差が開く中で円からドルにお金が流れて、円安が進んでいます。この半年で20%以上も円安が進んでいますが、これは基軸通貨である米ドルからみた日本円の価値が20%以上少なくなったことを意味します。円安が進むと輸入品が高くなり、家計に直撃していきます。

俯瞰してみると、日本円だけを持っているのは、日本円への集中投資に他なりません。このような単一通貨に集中投資するリスクに対して、円だけでなく米ドルをもつことや、現金だけでなく株式や金などを持つことで、インフレや為替変動による資産の毀損を小さくできます。通貨の分散や、アセットクラスの分散と言われますが、分散することがリスクヘッジになることを覚えておきましょう。

(2)固定費で下げられる取り組みはあるか? 住居費・保険料

続いて、家計の中から固定費を見ていきましょう。主に固定費と言われるのは、住居費、保険料、通信費です。また教育費などで月謝がある場合も固定費になります。

◆住居費
まず住居費ですが、賃貸で12万8,000円は手取り収入57万円の22.5%なので高すぎるということはないでしょう。目安として30%以内は無理がないラインです。25%以内であれば節制していると言えるでしょう。

◆保険料
保険料は6万円が給与天引きになっていますが、高すぎると思います。

医療保険は大きな病気になったときの医療費に備えるものですが、日本では高額療養費制度があり医療費負担の上限は限定されています。公務員であれば傷病手当もある上、休職しても復帰しやすい環境にあります。また現金で1,000万円以上の資産があるので、大きな病気になっても十分対応できるでしょう。以上をふまえると医療保険は解約して良いかもしれません。

学資保険や貯蓄型の保険に入っている場合は、資産拘束される期間が長いわりには利回りが低いことが多いので、インフレ負けをする可能性があります。直近で使うことを前提にするなら現金で備え、10年以上の長期で運用できるなら投資信託などで増やすことを検討すると良いでしょう。

最後に死亡保障ですが、お子さんが社会人になるまではしっかりと保険に入ることをお勧めします。ご夫婦に万が一のことがあったら生活費が毎月補填される収入保障保険が効率的だと思いますので、遺族年金制度をしっかりと理解した上で、足りない分を補うとよいでしょう。

保険料が給与天引きになっていることから、会社が契約している保険会社の団体保険に加入している可能性もあります。団体保険は、その保険会社の一般的な販売価格より安く加入ができますが、全ての保険を比較してベストな選択になるかはわかりません。広く保険を見渡してベストな保険を選ぶと良いでしょう。

上記を実行すると、ご夫婦合わせて6,000円前後に保険料が圧縮できます。残りの5万4,000円は投資にまわしたり、貯蓄を増やすなど有効活用すると良いと思います。

(2)固定費で下げられる取り組みはあるか? 通信費・教育費

◆通信費
通信費には、携帯代、ネット回線費用、NHK費用、ケーブルテレビ、ネットサービス利用料などが含まれます。特に携帯代とネット回線代は見直すことで費用を圧縮できる可能性があります。格安SIMなどを検討すると良いでしょう。

◆教育費
最後に教育費です。毎月6万円となっており、他の費目と比べてこの費用が突出して高額になっています。共働きなので延長保育料などがかかっている可能性もありますが、習い事などが多すぎる可能性もあります。教育費は「子どものためだから削らない」「将来への投資だから削らない」などと聖域化しがちです。特に幼少期の習い事は「自主性」を伸ばせるかが重要になります。本当に子どもが主体的にやりたいと思っているかを考えて取捨選択すると良いでしょう。

(3)2026年3月までに1000万円貯蓄できるか?

このご質問は、すでに1,400万円の貯蓄を持っているので、今からさらに1,000万円の貯蓄を2026年3月までにできるかという質問だと受け取っています。2022年7月から2026年3月までを考えると44カ月になるので、月あたり約22.73万円ずつ貯蓄することになります。現在15万円の貯蓄に加えて、保険の改善額5万円を貯蓄に回せば月あたり20万円の貯蓄が可能です。不足分120万円をボーナスから捻出すれば、1,000万円を貯められる可能性は十分にあります。

お子さんの中学受験や、小学校入学、住宅購入の頭金など用途は不明ですが、2026年3月までと期間が決まっているので、値動きのある投資ではなく現金貯蓄で対応する方がよいでしょう。

お金は目的によって最適な貯め方やバランスがあります。短期で利用予定のあるお金は現金で、老後資金など、すぐに使う予定のないお金は長期運用で作った方が合理的になります。円だけでなくドルや金で資産を持つことも含めて、世の中の変化に対応できる資産配分を意識してみてください。

以上、参考になれば幸いです。

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