イケメン俳優同士の恋愛にキュンキュン!タイのBLドラマ、世界で大人気 ルーツは日本 タイ政府は「観光の起爆剤に」

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大阪・難波で開かれた「ミニタイフェスティバル」のBLブースに集まるファン=6月5日(共同)

 男性同士の恋愛を描くボーイズラブ(BL)のドラマ制作がタイで盛んだ。イケメン俳優カップルが演じる熱き恋物語に女性ファンがくぎ付けになっている。「ほほ笑みの国」のタイ人らしい爽やかな笑顔や率直な感情表現が「キュンキュンする」と特に日本で好評で、「韓流ブーム」の次なる波を予感させる。人気は中国やフィリピンなどアジア各国、そして南米にも波及。新型コロナウイルス禍で世界中の「巣ごもり消費」の需要が発生したこの2年が、ドラマ視聴者を増やす好機となった。
 かつてはBLに偏見もあったタイだが、今やソフトパワーとしての潜在力に大きな期待を寄せる。タイの入国制限はほぼ撤廃され、コロナ禍が収まりつつある中、「ロケ地観光」客を呼び込もうと、タイ政府も日本のファンに照準を合わせ始めた。(共同通信=伊藤元輝)

 ▽人だかり

 6月上旬、大阪の繁華街・難波で開かれた「ミニタイフェスティバル」。食欲をそそるパッタイ(タイ風焼きそば)やガパオライスの香りが匂い立つ屋台が並び、特設ステージでは豪快なムエタイのショーが披露される中、異彩を放つ一角があった。「タイBL」コーナーだ。映像配給会社などが2ブースを設けて作品をアピールする。フェスティバルでのBL専門ブース設置は初めてという。たびたび人だかりができ、ファン同士の交流も自然発生する。タイ観光庁大阪事務所ブースのスタッフは人気作の紹介パンフレットを配って盛り上げた。

大阪・難波で開かれた「ミニタイフェスティバル」=6月5日(共同)

 「イケメン俳優同士が愛し合う姿にキュンとする」。そう語るのは1年ほど前からファンという大阪市都島区の会社員小林桂子さん(58)。会場で仲間と落ち合い、タイビールを片手に盛り上がっていた。「タイには全然興味がなかったけど、両手のひらを胸の前に合わせてあいさつしたり、大学生も制服を着たりするタイ文化を知るのも面白かった」と楽しそうだ。
 小林さんがはまったのは男子大学生によるラブコメディー「2gether」という人気作。ユーチューブや有料放送で他のBLドラマや映画も10作品以上鑑賞した。インスタグラムやフェイスブックで俳優の動向をチェックするようになり、交流サイト(SNS)でファン同士のつながりもできた。「タイは暑いイメージぐらいしかなかったのに、今は早く旅行してみたいと思うようになった。現地のファンミーティングにも参加してみたい」と前のめりだ。

 ▽コロナ禍で加速

 日本でのタイBLブーム到来は約2年前にさかのぼる。あるファンがツイッターで代表的な作品の内容を紹介した投稿が広く拡散し「バズった」。新型コロナ禍の外出制限で、自宅で過ごす人が急増した時期に重なり、ユーチューブやテレビで見られる映像作品に関心が高まっていたのだ。
 タイ観光庁大阪事務所の村井茉耶さん(30)はこの動きに注目し、BL情報を専門に発信する事務所公式ツイッターアカウントを開設。その名も「タイBLに恋したい!」―。ストレートなアカウント名がヒットし、フォロワーは2万人を超えた。村井さんは大阪事務所のチャーンユット所長(52)もPR動画に登場させた。もともと明るい性格のチャーンユット所長はダンスを披露するなど次第にノリノリになり、楽しげな姿がアカウントの人気をさらに高めた。ミニタイフェスティバルではチャーンユット所長との記念撮影に列ができるほどのフィーバーぶりだ。

大阪・難波で開かれた「ミニタイフェスティバル」のBLブースで、関連グッズを紹介するスタッフ=6月5日(共同)

 村井さんはオンラインイベントでのファンとの交流の中で、あることに気付いた。「BLファンの8割はタイ旅行に行ったことがない」と判明したのだ。タイは従来、有名観光スポットの他、ゴルフやナイトクラブを楽しむ観光需要があるが、人気は男性に偏っていた。BLファンは大半が女性だ。「女性のタイ旅行者を増やすことが課題だったので、この状況はチャンスだと思った」。

 ▽戦略的コンテンツ

 タイでは6月から入国後の隔離など規制がほぼ撤廃された。大阪事務所が一部旅費を負担する試験的なロケ地ツアーを企画すると、6月上旬出発の8人分が即完売し、確かな手応えを得た。チャーンユット所長は「BLドラマをしっかりと見たこともなく、ブームは想像もしていなかった」と驚く。人気がアジアや南米にも広がる中、タイ政府も戦略的コンテンツと位置付け始めたという。特に新型コロナ禍で落ち込んだ観光需要の起爆剤となり得るだけに、期待は高まる。

大阪・難波で開かれた「ミニタイフェスティバル」のブースで話す、タイ観光庁大阪事務所の村井茉耶さん(左)やチャーンユット所長(右)ら=6月5日(共同)

 ところで、BLドラマは何がそんなに魅力的なのか。自身もBLファンの村井さんは「男女の恋愛物語は女性の俳優に嫉妬することもある。純粋にイケメンを応援できるBLは多くの女性を引き付ける」と魅力を分析してみせた。これがBLファンは女性が大半を占める理由だ。フェスティバル会場では多くの女性が、「タイ人の率直な感情表現や笑顔に魅了される」と語った。
 さらにタイ人俳優は交流サイト(SNS)の投稿にコメントすると頻繁に返信があり、ファンとの交流の垣根が低いことも夢中になる理由の一つ。日本人ファンの心をわしづかみにしている。

 ▽もともと日本発

 BL作品がタイで次々と生まれる背景には何があるのか。タイ人で日本とタイ両国のポップカルチャーに詳しい青山学院大総合文化政策学部の石川ルジラット助教(38)を訪ねた。

取材に応じる青山学院大の石川ルジラット助教=6月1日(共同)

 「もともと、BL作品は日本の文化だ」と語る。石川助教によると、1980年代はBL作品と言えば日本の漫画だった。ジャンル名も現在「ボーイズラブ(BL)」ではなく、「やおい」という呼称が一般的だった。「やおい」は「やまなし、おちなし、いみなし」の頭文字を取り、物語性の乏しさを表す隠語のような言葉だったが、いつしか男性同士の恋愛を描く作品の総称としてファンの間で定着した。海外でも「Yaoi」や「Y」として広がった。
 90年代にはタイで日本作品の愛好会もでき、石川さんは初期メンバーの1人だった。ただ、人気が広がる中で、同人誌を描く人も増え、その性的な描写が問題視されるようになり、タイ政府が規制に乗り出した。2000年代は同性愛を描くことがタブー視され、07年にタイの恋愛映画に男性同士のキスシーンが登場し、批判が殺到する事態も起きた。

 しかし、この頃からタイ国内で同性愛に理解を示す声も上がり始め「タイ社会は変化し、タイ発のBLドラマが次々と生まれた」。タブー視されていた時期もタイではインターネット上でBL小説などの創作活動が続き、それが下地となったとみられる。性的少数者への理解が進んでいるイメージもあるタイだが、社会が受け入れ始めた過程はそう単純ではない。

大阪・難波で開かれた「ミニタイフェスティバル」のBLブースに集まるファン=6月5日(共同)

 タイのBLドラマには家族に同性愛を打ち明ける場面なども描かれ、当事者の葛藤を知るきっかけにもなる。石川助教は「タイの作品はハッピーエンドが多く、結果的に性的少数者への偏見をなくすポジティブな感情も生み出している」とも分析した。一方で、一部の当事者から「あくまでドラマであり、同性愛の現実を描いている訳ではない」との指摘もある。

 ▽「青田買い」も

 ブームは今のところ衰える気配がないが、石川助教は心配事もあるという。
 タイではテレビ放送後の作品を動画投稿サイトで無料公開し、広告料で収益を得るのが一般的で、著作権上の問題がない。手軽にどこでも見られる状況が、世界に人気が広がった理由でもある。
 ところが最近はタイBLの人気が高くなったばかりに、日本企業が有力なタイ作品の日本での放映権を「青田買い」するようになった。そのため、タイでは無料で見られるのに、日本では有料放送に加入しないと視聴できないドラマ作品が増えている。石川助教は「この状況が続くとコアなファンはお金を払ってでも見るが、新規ファンが気軽に見始める機会は減少する。今後は裾野を広げるための工夫も必要となりそうだ」と話した。