2022年3月期決算「役員報酬1億円以上開示企業」調査 【まとめ】

 上場企業の2022年3月期決算で、1億円以上の役員報酬を開示したのは287社、人数は663人だった。
 前年の253社から34社増、人数も前年の544人から119人増で、社数・人数ともに開示制度が開始された2010年3月期以降で、過去最多を更新した。
 役員報酬額トップは、Zホールディングスの慎ジュンホ取締役の43億3,500万円(前年開示なし)で、歴代5位の報酬額だった。連結子会社LINEの報酬が41億4,600万円(うち、ストックオプション41億700万円)で大半を占めた。開示制度が始まった2010年3月期から13年連続で開示されたのは46人(構成比6.9%)で、今回開示された663人の1割に満たなかった。
 企業別の開示人数は、日立製作所が18人(前年15人)で、3年連続で最多となった。
 コロナ禍で中小企業の業績回復が遅れる一方、上場企業は業績が好転し開示社数・人数ともに大幅に増加した。なお、前年に続く開示は437人で、報酬額の増加は303人(同69.3%)だった。欧米型の業績連動の報酬体系が広がったほか、ストックオプションや株式報酬など非金銭報酬も定着し、報酬額を押し上げた。コーポレート・ガバナンスの重要性が年々増すなか、報酬額の妥当性や決定方法などについて、社員や株主、取引先などステークホルダーへの説明責任がより重くなっている。

  • ※本調査は、全証券取引所の3月期決算の上場企業2,355社(未提出9社を除く)を対象に、有価証券報告書で役員報酬1億円以上を個別開示した企業を集計した。上場区分は2022年6月30日時点。
  • ※2010年3月31日に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正」で、上場企業は2010年3月期決算から取締役(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)など、役職別及び報酬等の種類別の総額、提出企業と連結子会社の役員としての連結報酬1億円以上を受けた役員情報の有価証券報告書への記載が義務付けられた。内閣府令改正は、上場企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する開示内容の充実を目的にしている。

 2022年3月期決算で1億円以上の役員報酬を開示した企業は287社で、人数は663人だった。前年より社数は34社増、人数は119人増だった。社数・人数ともに2019年(281社・571人)を上回り、開示制度が始まった2010年3月期以降の最多を更新した。
 コロナ禍の2021年は業績低迷などで社数が前年を下回ったが、人数は前年を上回った。2022年はコロナ禍が3年目に入り、円安などを背景に業績が好転した企業が増えたほか、ストックオプションや株式報酬などの非金銭報酬もウエイトが高まり、人数・社数とも大幅に増加した。
 報酬総額は1,453億2,800万円(前年1,092億9,800万円)で、前年比32.9%増と大幅に上回った。
 役員報酬の主な内訳は、基本報酬が580億8,800万円(構成比39.9%、前年比14.7%増)で最も多い。一方、ストックオプションは113億700万円(同7.7%、同143.0%増)と大幅に増え、非金銭報酬も定着しつつある。

役員報酬

役員報酬額ランキング 最高はZホールディングスの慎ジュンホ取締役の43億3,500万円

 2022年3月期の役員報酬の最高は、Zホールディングスの慎ジュンホ取締役の43億3,500万円(前年開示なし)。歴代5位の報酬額で、連結子会社LINEからの報酬が41億4,600万円(うち、ストックオプション41億700万円)だった。
 2位は、第一交通産業の黒土始会長の19億400万円(前年3億1,000万円)。固定報酬2億4,000万円、退職慰労金7,000万円のほか、取締役退任に伴う特別功労金15億9,400万円。
 3位は、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEOの18億8,800万円(同12億5,300万円)。定額報酬2億1,500万円、業績連動報酬3億9,100万円のほか、ストックオプション15万株、譲渡制限付株式7万5,000株が付与された。
 4位は、武田薬品工業のクリストフウェバー社長の18億5,800万円(同18億7,400万円)。
 5位は、東京エレクトロンの河合利樹社長の16億6,500万円(同9億200万円)。
 役員報酬は基本報酬が中心だが、近年は業績連動に加え、ストックオプション、株式報酬などの非金銭報酬も高まっている。一方、退職慰労金による多額の報酬は減る傾向にある。
 報酬額10億円以上は8人(前年5人)で、前年を3人上回った。報酬額40億円以上は、2017年のソフトバンクGのニケシュ・アローラ元副社長(報酬額103億4,600万円)以来、5年ぶりの登場。
 一方、1億円以上2億円未満は474人(同392人)で、全体の71.4%を占めた。個別開示制度が始まった2010年3月期から13年連続で開示されたのは、8位の富士フイルムホールディングス古森重隆元会長ら46人で、2022年3月期に個別開示された663人の6.9%にとどまった。

役員報酬

開示人数別 3年連続で日立製作所がトップ

 役員報酬を開示した287社のうち、開示人数が10人以上は3社で、前年(2社)より1社増加した。一方、1人が140社(構成比48.7%、前年136社)で、ほぼ半数を占めた。
 企業別の開示人数は、日立製作所が18人(前年15人)で、3年連続最多だった。2位は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(同11人)と東芝(同1人)の各13人。4位は、大和証券グループ本社と三井物産の各9人で、前年と同人数だった。
 グローバル展開する電機や金融、商社が上位に顔を揃えた。2022年3月期で前年に続いて開示した226社(構成比78.7%)では、開示人数の増加は57社、減少は24社、同数は145社だった。
 一方、前年開示がなく2022年3月期に開示したのは61社(構成比21.2%)。 

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業種別 最多が製造業の156社で、前年より17社増加

 業種別の社数は、最多が製造業の156社(構成比54.3%、前年139社)だった。次いで、運輸・情報通信業35社(同12.1%、同28社)、卸売業25社(同8.7%、同22社)の順。
 開示人数は、製造業が367人(同55.3%、同302人)で最も多い。以下、運輸・情報通信業74人(同11.1%、同57人)、金融・保険業70人(同10.5%、同60人)と続く。
 製造業は、前年より65人増加した。日立製作所のほか、東京エレクトロン、東芝、バンダイナムコホールディングス、ダイキン工業、富士フイルムホールディングス、日産自動車などが、上位に名を連ねている。
 運輸・情報通信業も前年より17人増加した。商船三井(1→6人)、Zホールディングス(2→6人)などが前年を上回った。また、35社のうち、前年開示なしが13社(構成比37.1%)だった。

役員報酬

前年からの連続開示は437人、約7割で報酬額が増加

 2022年3月期に1億円以上の役員報酬を受取った663人のうち、前年に続いて開示されたのは437人(構成比65.9%)だった。
 連続開示の437人のうち、報酬額が増加したのは303人(同69.3%)で、約7割を占めた。一方、減額は96人(同21.9%)、同額は38人だった。
 業績連動報酬のほか、ストックオプションや株式報酬など非金銭報酬などの報酬体系が定着し、報酬額を押し上げる一因になっている。

役員報酬

役員報酬と従業員の平均給与との格差 最大はトヨタ自動車の105.7倍

 2022年3月期の役員報酬が1億円以上の663人の基本報酬と賞与の合計(以下、報酬額)と、従業員の平均給与を比較した。
 格差が最大だったのは、トヨタ自動車のジェームス・カフナー(James Kuffner)取締役(報酬額9億600万円)で、従業員の平均給与(857万1,000円)と105.7倍の差があった。参考までに国税庁がまとめた給与所得者の平均給与(2020年)433万1,000円とは209.1倍の差がある。
 2位は、ソフトバンクGのサイモン・シガース元取締役(報酬額11億5,100万円)で、従業員の平均給与(1,322万3,000円)との差は87.0倍。3位は、日本管財の福田慎太郎会長(報酬額2億6,500万円)で、従業員の平均給与(356万2,000円)とは74.3倍の差だった。
 格差の平均は、報酬額で12.2倍(中央値9.9倍)、報酬総額(基本報酬・賞与以外の報酬を含む)で25.1倍(同18.2倍)で、基本報酬や賞与以外の報酬が大きい。

役員報酬

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