Vol.22 6K30fpsの動画性能。Leicaと共同開発の「Insta360 ONE RS 1インチ360°版」詳細レビュー[染瀬直人のVRカメラ最前線]

1インチの大型CMOSイメージセンサーを2基搭載。最大6K30fpsの動画性能、21MPの静止画性能を持つ360°カメラ「Insta360 ONE RS 1インチ360°版」(以下:1インチ360°版)が、Insta360 Japan株式会社より2022年6月28日に発売された。レンズ交換可能な組み立て式アクションカメラのInsta360 ONE Rシリーズ(以下:ONE Rシリーズ)の最新モデルで、レンズユニットの光学設計は、Leica Camera AG社との共同開発だ。ここでは既報の情報は控え、検証や他機種との比較を含めた深掘りしたレビューをお送りしたい。

ONE Rシリーズの概要

2020年1月に発売された初代Insta360 ONE R(以下:ONE R)は、4K広角レンズ、360°レンズ、少し遅れて同年4月に発売となった5.3K1インチ広角レンズがラインナップされ、レンズを交換して撮影できるアクションカメラとして登場。レンズ、コア、バッテリーの各モジュールを合体させて、マウントブラケットと組み合わせて使用する仕組みになっている。その後、大容量バッテリーベース、縦型バッテリーベース、クイックリーダー、マイクアダプター、ドローンマウントや潜水ケースなどのアクセサリーも次々にリリースされ、オプションを追加していくことでさらに可能性が広がるという製品コンセプトになっている。

2022年3月には、2世代目としてInsta360 ONE RS(以下:ONE RS)が発売。1/2インチのイメージセンサーを搭載した4Kブーストレンズ、RSコア、バッテリーベースがそれぞれ性能をアップし、マウントブラケットも改善された形でお目見えした。

今回の新たに発売された1インチ360°版は、Leica Camera AG社と共同開発の光学システムを搭載したデュアルレンズ部分、RSコア、縦型バッテリーベースの3つのモジュールとそれらを保持するマウントブラケットからなる構成となっている。大型の1.0型(いわゆる1インチ)のCMOSイメージセンサーを搭載することで、360°撮影においても、より高精細な画質と低照度撮影時でも広いダイナミックレンジとノイズを抑えたクリアな画質を実現するべく開発された。プロフェッショナルやハイアマチュアのユーザー向け製品である。販売価格は税込118,800円。

左から1インチ360°版、ONE RS、ONE R
交換レンズ群。左から、4K広角レンズ、1インチ広角レンズ、1インチ360°レンズ、360°レンズ、4Kブーストレンズ

1インチ360°版について

1インチ360°版は、ほとんどのコンシューマー向け360°カメラのレンズのレイアウト同様、背中合わせに2つのレンズが配置されている。レンズの絞りはF2.2。焦点距離は6.52mm。前述の通り、1インチのイメージセンサーが2基積まれており、レンズモジュールの部分が旧360°レンズより、かなり大きくなっている。RやRSは基本的に横長の四角い形状(後に縦型バッテリーベースも発売)であったが、1インチ360°版は、最初から縦に保持して使用するデザインになっており、筐体の大きさは、53.2x49.5x129.3mm。重さは、239gとなっている。

1インチ360°版の縦型バッテリーベースは、1インチ360°版の縦型マウントブラケットに合わせて設計されている。RSコア部分には、カラータッチスクリーンが配置され、直感的な設定、操作、プレビュー、再生等が可能だ。右方向にスワイプすると撮影モードの切り替え。左方向で撮影設定。上方向で再生画面、下方向でカメラ設定画面が表示される。

コアには、マイクが3つ、スピーカーが1つ備わっている。電源ボタンとシャッターは、縦型マウントブラケット上から、物理的に操作できる。完全にロックした状態ではIPX3耐水となり、小雨程度なら保護される。

バッテリー容量は1350mAh。ONE RSのバッテリーベースの1445mAhから少し減っているが、公式には62分撮影可能とされている。筆者がテストしたところ、6K30fpsの動画の設定において、室温26℃で1時間程度撮影が可能であった。ただし、筐体の温度の上昇により、その間2回ほどサーマルシャットダウンした。動画ファイルはinsv形式として30分毎に分断して記録される。USBタイプCケーブルより、給電しながら撮影することも可能だ。

タッチスクリーンによるダイレクトな操作以外に、Insta360 ONE X2(以下:ONE X2)などと共用のInsta360アプリで、カメラコントロール、設定、閲覧、再生、簡易的な編集を行うことができる。

1インチ360°版の筐体
1インチ360°版を構成する各パーツ。左から、1インチイメージセンサー搭載のレンズ、RSコア、縦型バッテリーベース、縦型マウントブラケット

360°動画性能を検証する

1インチ360°版の動画の解像度は、6144x3072 25/24fps、 5888×2944 30fps、3840x1920 25/24fps、3040x1520 50fps、最大ビットレートは120Mbpsである。ONE RS+旧360°レンズの組み合わせでも5.7Kの解像度が得られていたので、解像度のスペックとしてはわずかの増加であるが、1インチ360°版の映像は非常にシャープに解像しており、デティールの再現性も確実に向上しているのが見てとれる。

以下、他機種も交えた各種比較の検証動画を撮影してみたので、ご覧いただきたい。

他機種とは発売時期はもちろん、解像度等の要素も異なるため、単純な比較は難しいのだが、シャープネス、ダイナミックレンジ、色再現、ノイズの低減ともに、1インチ360°版の動画品質は際立っていた。試用した限り、コンシューマー向け360°カメラによく見られる、いわゆる「赤玉」と呼ばれるフレアの発生もなかった。

1インチ360°版 5888×2944 30fps(日中)

1インチ360°版 6144x3072 25fps(日中)

他機種との比較-1 1インチ360 vs THETAX

他機種との比較-2 1インチ360 vs QooCam8K

1インチ360°版は、デュアルレンズ間の距離が旧360°レンズやONE X2などよりいささか離れているので、検証ではステッチの精度も確認してみた。公式アナウンスではステッチの安全距離は50cmとされている。レンズ間のステッチライン上で3mの距離から歩いていくと、確かに50cm以内に近いた場合はステッチが破綻する。撮影時、特にステッチライン上においては、被写体を50cmより遠くに配置することを心掛ける必要がある。一般的にぼやけがちなステッチライン上の描写は、他機種と比較して、良好だった。移動撮影で背景のステッチが不安定になる場合は、PCアプリの「Insta360 Studio 2022」のステッチでダイナミックステッチを選択して試してみると良いだろう。

FlowState手ブレ補正は、360°撮影では特に有効であるが、Insta360 ONE X2やONE RSから搭載された水平維持の機能も大変優れており、検証で自撮り棒に取り付けて回転させたり、思い切り振り回してみても、文字通りしっかりと水平が保たれていた。

マイクはステレオで48kHz/AACで収録され、音声モードは風切り音低減とステレオの2種類が選択できる。Insta360 ONEシリーズでは、これまでも度々オーディオの品質改善が行われてきた。従来の風切り音低減の機能は環境によっては、音声がこもって収録されることもあったが、検証動画の撮影時には内蔵マイクを使用した割に、良好な結果だった。PCアプリのInsta360 Studio 2022では、メディア処理→ノイズキャンセルのボイスフォーカス、ノイズ低減の機能を適用できる。こちらも結果はケースバイケースなので、必要に応じて試してみてほしい。

1インチ360°版のステッチテスト

1インチ360°版のFlowState手ブレ補正のテスト

1インチ360°版の水平維持テスト

1インチ360°版の音声テスト(ステレオ)

1インチ360°版の音声テスト(風切り音低減)

撮影状況に合わせてスティッチングの方式を最適化する
メディア処理の項目にノイズキャンセルの選択肢がある

夜間等の低照度下におけるテストでは、他機種との比較動画でも明白なように、1インチ360°版の映像は、ノイズの発生しがちな空や中間調の部分などでもノイズが低減されていた。ビルの窓や輪郭などの構造物もシャープに描写され、ハイライトからシャドウ部の再現も優れており、デティールの潰れや色の滲みが改善されている。1インチイメージセンサーのアドバンテージが発揮されていた。

1インチ360°版 6144x3072 25fps(夜間)

1インチ360°版 5888×2944/30fps(夜間)

他機種との低照度性能比較の検証動画。左より、Insta360 ONE RS 1インチ360度版、リコーTHETA Z1、Kandao QooCam 8K

360°静止画性能を検証する

1インチ360°版の静止画の解像度は6528x3264(およそ2100万画素)である。今回は静止画撮影性能に定評のあるリコーのTHETAと比較撮影を試みた。

1インチ360度版は、同じく1.0型のイメージセンサーを積んだRICOH THETA Z1(2019年発売)と比較してみると、構造物がシャープに描写されていることがわかる。発売されたばかりのTHETA Xの画像と比較すると、11Kの解像度には及ばないが、木の葉や水滴のデティールなどが、よく捉えられていた。

1インチ360°版は、PureShotという静止画撮影機能を適用すると、ダイナミックレンジを拡張して、ノイズを抑えた仕上がりが得られる。Insta360 ONE XやONE RSに搭載されていたナイトショット機能は採用されていないようだが、1インチ360°版ではAIと自動露出ブラケットにより、3枚のPureShotの写真を合成して、さらに幅広いダイナミックレンジを生み出すPureShot HDRが利用できるようになった。。

同じく1.0型のイメージセンサーを積んだリコーのRICOH THETA Z1は、サードパーティーのDualFisheye RAWプラグインをインストールすることで、最大9枚のDNGファイルを撮影し、カメラ内で一つのHDR-DNGファイルに合成するHDR-DNGモードを利用することができる。 以前は、HDR-DNGモードの撮影には、60秒ほど掛かっていたが、昨年の改良版で撮影時間が20秒から1秒に改善されたことで、画像のスタックと保存も併せて40秒程度で完了するようになった。ダイナミックレンジの広さでは、Z1のDualFisheye RAWに及ばないが、1インチ360度版のPureShotの補完機能と撮影時間(10秒程度)を鑑みると、短時間に多くのHDR撮影をこなす場合は、メリットを感じるだろう。

撮影することができるが、多くのカットを撮影する必要がある場合など、短時間で撮影可能な1インチ360°版のPureShot HDRのメリットも大きいと思う。

静止画撮影の画像比較。左から、1インチ360度版、THETA X、THETA Z1。 360度撮影した画像から、拡大して、切り出している
1インチ360°版 PureShot写真モード
1インチ360°版 PureShot HDR写真モード
1インチ360度版のPureshotHDR(上)とTHETA Z1のプラグインDualFisheye RAWで撮影、ファイルをAdobe Lightroom ClassicでRAW現像処理を施したもの(下)の比較

まとめ

ONE Rシリーズは、アクションカメラの選択肢に360°撮影の世界観を持ち込み、GoPro等の他機種と差別化を図ってきた。Insta360の製品は強力な手ぶれ補正機能であるFlowstateを武器に動画性能に定評がある。ONE RSで追加された水平維持の機能も秀逸だ。昨今は動画のみならず、PureShotやPureShot HDRなど、静止画撮影の品質のアップデートにも注力していると感じられる。

ライカと共同開発の1インチイメージセンサーを搭載したレンズユニットの性能は、シャープネス、広いダイナミックレンジ、高い画素密度ゆえの滲みや潰れを抑えた高精細なデティールを実現している。

1インチ360°レンズは従来のコアにも対応しており、ONE RとONE RSユーザー向けに、コア以外の1インチ360°レンズ、縦型バッテリーベース、縦型マウントブラケットがセットになった「Insta360 ONE RS 1インチ360°レンズ アップグレードバンドル」も販売されている(税込96,600円)。

1インチ360°版は、ONE Rシリーズの変身型アクションカメラとして、拡張性という魅力は維持しつつ、じっくり据え置きの撮影にも使用したいVRカメラだ。今回の1インチ360°版試用では360°撮影におけるコンシューマーVRカメラの領域を超える進化の手応えを感じた。

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