全盲男性支えた小学生 「バスが来ましたよ」が絵本に

絵本の主人公のモデルになった山﨑浩敬さん(左)と、絵本作家の由美村嬉々さん=和歌山市で

 進行性の目の病気から全盲になった男性が、地元の小学生に助けられながら長年バス通勤を続けている実話をもとにした絵本「バスが来ましたよ」が出版された。絵本の主人公のモデルになった山﨑浩敬さん(60)=和歌山市=は串本町出身。「子どもたちの優しい心を多くの人に知ってもらいたい」と話している。

 山﨑さんは同町伊串出身で旧養春小学校、西向中学校、旧古座高校を卒業後、近畿大学に進学。民間企業を経て、和歌山市役所に入った。

 1994年、山﨑さんは難病「網膜色素変性症」と人間ドックで診断され、その後、徐々に視力が低下。2005年に仕事を休職して視覚障害者のリハビリテーション施設で訓練を1年間受け、翌年に復帰した。

 バスでの通勤を始めた当初は小学生の長男が付き添っていたが、卒業し、08年からは1人で通勤。気を張り詰めて職場に着くと、ほっとして何もできない状態、という毎日だったという。

 そんな中、「おはようございます」というかわいい声が聞こえた。続いて「バスが来ましたよ」と、山﨑さんの腰の辺りに小さな手が当たり、バスの入り口まで誘導して席に座らせてくれた。山﨑さんが通勤に使っているバスに乗っていた、和歌山大学付属小学校の児童だった。

 それ以来、児童は毎朝、山﨑さんの背中を小さな手で押して誘導。その子が小学校を卒業すると、今度は下級生たちが山﨑さんをサポートするようになり、「あたたかな小さい手のリレー」は同校の児童に受け継がれていったという。

 絵本「バスが来ましたよ」は、児童と山﨑さんの交流を知って感動した絵本作家の由美村嬉々(本名・木村美幸)さん(63)が、山﨑さんを取材するなどして執筆。絵本作家の松本春野さんが絵を担当し、6月27日にアリス館から発売された。40ページで、価格は1540円(税込み)。

 発売を記念した「トーク&サイン会」がこのほど、和歌山市にある「TSUTAYA WAYガーデンパーク和歌山店」であり、由美村さんが絵本を制作することになった経緯などを説明。「和歌山の子どもたちの素晴らしさを一人でも多くの人に知ってほしい」と呼びかけ、読み聞かせも披露した。山﨑さんは「こういう優しい子どもたちがいるんだよと、ずっと社会に知ってほしかったので、絵本がそのきっかけになって本当に感謝。串本でも図書館や小学校で読み聞かせをしていただき、優しい子どもたちが社会にたくさん増えてくれたらとてもうれしい」と話していた。

 山﨑さんは今年3月末に定年退職したが、再任用され同じ職場にバスで通勤。子どもたちとの交流は今も続いているという。

■23日から原画展 和歌山市民図書館

 南海和歌山市駅に隣接する和歌山市民図書館では23日~8月31日、アリス館の協力で「バスが来ましたよ」絵本原画展を開く。

 原画約10点を、著者やストーリーを紹介しながら展示。開館時間は午前9時~午後9時。

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