第3回全国SDGs未来都市ブランド会議 開催レポート サステナビリティ × イノベーション × ヒトでつくる “未来に輝く都市ブランド”後編

2022年2月24日、「第3回 全国SDGs未来都市ブランド会議」がサステナブル・ブランド国際会議2022横浜と同時開催された。4時間にわたる会議では、欧州を中心とした世界のサステナブル先進都市と日本SDGs未来都市との違いに触れる対談をはじめ、企業と自治体が連携して実施する6つの持続可能なまちづくり事例を紹介。実際に自治体や企業の担当者達が登壇し、その取り組み内容が詳細に語られた。次々に明らかになる多様な地域課題とアプローチ方法に、参加者たちは、これからのまちづくり、地域のブランド価値のつくり方に、深く考えを巡らせる貴重な時間を共有することになった。(笠井美春)

SDGs 未来都市とは……
持続可能なまちづくりや地域活性化に向けた取り組みの推進に当たり、内閣府が選定した、優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体。その中で特に優れた先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定して支援し、成功事例の普及を促進している。

企業と自治体の連携事例②

逗子市×デロイト スマートローカル構想実現に向けた取り組み

ナビゲーター:
青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー / 駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
パネリスト:
坂本秀文・逗子市 環境都市部環境都市課 係長
小池雄一・デロイト トーマツ コンサルティング コアビジネス シニアスペシャリストリード

デロイトトーマツは逗子市とタッグを組み、約2年前から「スマートローカル構想」の実現に向けた取り組みを始めている。逗子市といえば山と海に囲まれた自然豊かな街だ。街には、JR横須賀線と京浜急行の2線が走り、都心部から約1時間の距離。1960年からベッドタウンとして開発され、現在は、ワーケーションの候補地として注目されるようになった。しかし、一方で住民が高齢化し、高台に造成した住宅地では、免許返納後、市街地への移動手段に困る例が多くなっているのだという。今回の連携は、その課題をきっかけに実現することになった。しかし、デロイトトーマツコンサルティングの小池氏は、この「スマートローカル構想」は高齢者の移動手段確保だけを解決するものではないと語る。この問題をフックに、まちづくりにおける様々な課題を解決していくことが最終目的なのだ。

プロジェクトは「安価な移動サービスの提供による、移動利便性が低下した地域の活動向上」からスタートした。具体的には、乗り合いタクシーの運用だ。ここには、①脱炭素、②夏場の渋滞緩和、③風光明媚な風景を歩いて回れる「ウォーカブルタウン」ブランドの確立という狙いもある。現在は地域を決めての実証実験の最中だという。また、このプロジェクトにおいて小池氏が大切にしたのは、市民の声であり、地域企業、商工会議所などの声だ。移動サービスも基本的には地場タクシー企業事業者に参画してもらうなど、市民の要望と企業の思いの折衷案を作りながら推進してきたのだという。

逗子市の坂本氏は、「このサービスは高齢者をターゲットにスタートしたが、子ども連れのファミリー層にも活用されている。誰もが住み続けられる、暮らしやすい町にしていくことは多くの自治体の共通課題。逗子もこの取り組みを起点に、色々な展開に挑戦していきたい」と語った。

ナビゲーターの青木氏からは、坂本氏に民間リソースの選定理由についての質問があった。これに対し坂本氏は、「データ分析、実装実験などに向けて、地域の特性をじっくりと理解した上で進めることを前提としていた点や、地域性を理解した上で話をしてくれる点が、市民にとって分かりやすく、伝わりやすいと感じたことで、一緒にタッグを組みたいと強く感じた」との回答があった。

企業と自治体の連携事例③

体験型空き家活用「Solar Crew」

ナビゲーター
中野香織・駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
パネリスト
大島俊也・墨田区 産業観光部産業振興課 産業振興主査
河原勇輝・Solar Crew 最高執行責任者

墨田区では現在、 Solar Crewとの連携プロジェクトが進行中だ。このSolar Crewがどのような事業を行っているのかについて、まずは同社の河原氏から紹介があった。簡単に説明すると、各地にある空き家の一部に耐震シェルターを設置し、そこにオフグリットの太陽光電源を入れることで、災害時も電気供給が可能な場所を作る。さらに地域のフードバンクとコラボすることにより食料や水をそこストック。この小さな防災拠点を全国各地に作るのが同社のSolar Crew事業なのだという。また、工事については地域の人や自治体職員とDIYで実施。防災拠点としてはもちろん、拠点によっては地域住民が遊んだり、学んだり、働いたり、物件によっては宿泊できる施設として活用されているのだと河原氏は語った。Solar Crewが目指すのは、CCP(Community・Continuity・Plan)。「行政に全てを任せるのではなく、地域住民や企業が主体となって防災力を向上しよう」と掲げているのだ。

そんなSolar Crewが墨田区と取り組んでいるのが、「空き地、空き家、空き工場」の活用だ。墨田区の大島氏からは、「墨田区は木造密集地域で防災課題を抱えてはいるが、今回は産業振興の視点でも取り組みを推進している」と語られた。実際に今年度から連携して動きだしているのは、空き工場の新たな産業拠点化だ。かつてはたくさんの工場があった墨田区も現在は空き工場が増え、区民が区内であまり働いていないのだという。また、ベンチャー誘致のための支援制度(補助金)を進めたが多大なコストがかかる。そんな状況の打開策になるのではと、区はこの連携プロジェクトに期待を寄せているのだ。「都内の空き工場や空き家などが、住宅になるのも良いが、良い形で産業拠点を作っていくことで、人々が働き続けられる町にしていきたいと思っている」そう、大島氏は語った。

ナビゲーターの中野氏からは、「全国で課題となっている空き家問題に対して、ぜひ成功して横展開してほしい事例」とのコメントがあり、また「墨田区ならではのオリジナリティはあるのか」という質問があった。これに対し河原氏からは「墨田区に新しくできた千葉大学の方と一緒に改修工事をすることになっている。それが1つ墨田区ならではの取り組みであり、またここから地域に入りこむことで特性をもっと見つけ、活動に生かせればと思っている」と回答があった。

企業と自治体の連携事例④

すべての人の健康と福祉をめざして
~“相談”が支えるウェルビーイング~

ナビゲーター
青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー / 駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
パネリスト
飯泉嘉門・徳島県 知事
塚原雅子・ダイヤル・サービス 公共事業部営業チーム シニアエキスパート
深津研太・ダイヤル・サービス 公共事業部 部長
星野大輔・ダイヤル・サービス 公共事業部 マネージャー

徳島県では、コロナ禍で多様化、深刻化する県民からの相談に真摯に向き合うべく、相談業務を専門性の高いパートナー、ダイヤル・サービスに委託している。オンラインで登場した飯泉知事は、まずこの経緯について「コロナ禍の活動自粛による経済情勢の不安、外出の自粛や在宅勤務の長期化により家庭内にストレスが蔓延。これによりDV被害、児童虐待、性暴力被害が増加し、いじめ・不登校問題、ヤングケアラーの顕在化など新たな問題も出てきた。これに対し、相談事業に求められる変化に対応すべく専門家による電話や対面の相談が不可欠になっている」と語った。

具体的に連携しているのは、①DV被害者への相談支援、②性暴力被害者への相談支援、③子どもたち、生徒の心の悩みへの支援だ。①②については24時間365日体制でのサポートを実施。ダイヤル・サービスの専門スタッフが、緊急対応が不可欠な事案を判断し、110番通報を促すなど、県担当者との緊密な連絡、警察や医療機関など関係機関との迅速な連携を実現している。一方③ではLINEを利用した相談を実施。徳島県のマスコットキャラクターすだちくんのカードにQRコードを載せ、若者の利便性を重視したサービスを展開する。さらに学校や警察、相談機関などで構成する連絡協議会に、オブザーバーとしてダイヤル・サービスの相談員も参加。プッシュ型対応、教育現場での声掛けについてのアドバイスなども実施し、相談以上の効果を生んでいることが飯泉知事から語られた。

実際に子どもの相談対応をしている臨床心理士であり公認心理士の星野氏は、「悩みを打ち明けることが恥ずかしい、知られたくない、解決しないんじゃないかという不安もあり、日本では相談に対するハードルが高い。現在は子どもや保護者から相談を受けているが、まず窓口があり、1人で悩みを抱えることのない状況を作るだけでも、追いつめられる人を少なくできるのではと思う」とコメント。自治体と企業が連携して必要な支援を必要な人に届けられる仕組みをもっと作っていけたら、という思いを述べた。

また、ダイヤル・サービスの塚原氏は、「長年培ってきた電話相談サービスが、LINEなどのSNSツールを使ったサービスへと進化している」としたうえで、今後も相談者に寄り添うサービスを追求していきたいと意気込んだ。

ナビゲーターの青木氏からは、相談窓口をアウトソーシングすることのメリットについて質問があった。飯泉知事はこれに対し、「相談で大切なのはファーストコンタクト。専門家だという安心感があることが相談には重要。迷いはなかった」とし、プロの質の高い対応を相談者の皆さんに提供できることこそがアウトソーシングのメリットであり、それはそのまま相談者の皆さんの安心、メリットにつながると回答した。

企業と自治体の連携事例⑤

パーパス発想での未来の街づくり。入間市の挑戦

ナビゲーター
中野香織・駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
パネリスト
杉島理一郎・入間市 市長
佐藤友亮・博報堂 第五ビジネスデザイン局 第五アカウント部 部長
角健太郎・USENMedia USEN-NEXT GROUP 事業戦略室
鈴木洋平・ネクソン FM&NI事業室 Marketing Lead

「30年先の未来に責任をとる」。入間市と博報堂、USENMedia、ネクソンの連携事例紹介は、杉島市長の力強い言葉からスタートした。持続可能な未来、入間市を作っていくために、自らを入間市の社長であり、市の経営をしている立場だと述べた杉島市長。ここから語られたのは、「行政の内部リソースだけではこれからの時代を生き抜くことができない」と考えた末、3社のパートナーを選び、彼らとともに歩んできた課題解決への道のりについてだった。

入間市はこれまでも、高齢者の健康長寿延伸のためにスマートモビリティチャレンジの先進パイロット地域(経産省の地域新Maas創出事業)に選定されるなど、Maas×ヘルスケアの取り組みなどを積極的に行ってきた。しかし一方で「各取り組みが市民に浸透していかない、伝わらない」という課題も持っていたという。発信、PRの仕方に問題があるのではと感じた市長は、外部にアドバイスを求めることに。まず相談を持ち掛けたのが、ネクソンだ。

「広く発信するためにテレビなどで取り上げてもらうのにはどうしたらよいか」という市長の問いに対し、ネクソンの鈴木氏は「テレビ紹介を目的とすべきではない」と助言した。そのうえでまずは「入間市として、なぜそれを発信したいかを理解、設計し、まずは組織内にそれを伝えていくべき」と説いた鈴木氏。手始めに組織力向上を図るべくマーケティング、プロモーションの勉強会を開くことを提案し、これを市長は快諾した。

そこで連携をすることになったのが、ネクソンから協力依頼をうけた博報堂だ。博報堂の佐藤氏は、「市長に入間市はどうありたいかと聞いた際、鋭い答えがあるものの、それが入間市、入間市役所の一人称になっており、三人称ではなかった」ことに課題を感じた。そこで「何よりもまず、市政の北極星であるパーパス(存在意義、志)、つまり皆が乗れる大きな船をつくるべきではないか」と提言。市長と協議の末、職員の思いを解放するワークショップを開き、職員の中にある思い、理想を引き出すことに成功した。

さらにここで理想や思いを具現化するために登場するのが、USENMediaだ。USENMediaの角氏は、同社事業戦略室で新規事業の開発やDX推進などを担う人物。角氏はこのプロジェクトにおいては「組織にメス」を入れる役割を担った。角氏が、ここまでの経緯やヒアリングをもとに出したのは、「現在市の組織は日々の課題解決で多忙。新たな取り組みに手を付けられない状態である」という結論だった。現場の職員がどんどん動いていくためは新規開発専門の部署の新設が必要。この提案のもと、入間市は2022年4月に未来共創推進室を市長直轄で新設。これにより、組織や領域、部や課を越えて全体でパーパス視点でのまちづくりに取り組む体制が整ったのだという。

これまでの道のりを振り返り、杉島市長は「今後は未来共創推進室でパーパスを策定し、様々な企業、人々とパートナーシップを組むためのプラットフォームを整える。それを起点に、サステナブルなまちづくりを進めていきたい」と語った。また、自治体との仕事はこれが初めてだったという博報堂の佐藤氏は、「スタートから新部署創設まで約3カ月。そのスピード感に驚いた。そして覚悟を感じだ」と述べ、鈴木氏、角氏とともに今後、新部署を起点とした新たな挑戦に期待を寄せた。

ナビゲーターの中野氏は、自治体がパーパスを取り入れた運営をするのは先進的な取り組みだとしたうえで、今後はどのようなことが可能になりそうかとの質問があった。これに対し、杉島市長は「これまで課単位、部単位、私中心になりがちだった様々なプロジェクトが、パーパスを旗印に同じ方向に向かっていける。それを先導するのが推進室。だからこそしっかり取り組んでいきたい」と意気込んだ。

企業と自治体の連携事例⑥

「サステナブル・ツーリズム」の可能性と課題
―国立公園・国定公園の保護と利用の好循環を目指して―

ナビゲーター
青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー / 駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
パネリスト
岡野隆宏・環境省 自然環境局 国立公園課 国立公園利用推進室 室長
三好一弘・日本旅行 執行役員 DX推進本部 統括副本部長

最後の事例は、持続可能な観光、サステナブル・ツーリズムの可能性についてだ。

日本旅行の三好氏によると、2016年から国立公園パートナーシップ企業となった日本旅行は、2019年に「Tourism for Tomorrow」を掲げ、SDGs宣言。UNWTO(世界観光機関)が定めたサステナブル・ツーリズムの定義に、同社独自の「旅行に参加したお客様が、旅行後の経済・社会・環境への影響を考えて、行動変容に繋がる」という内容を加味してサステナブル・ツーリズムの実施に取り組んできたのだという。

「新型コロナの感染拡大には大きな打撃を受けたが、これにより人々の意識、行動変容には拍車がかかった」と言う三好氏。人や地域とのつながりをコロナ禍で深く意識するようになったことから、物見遊山的な旅行よりも、農業体験とアウトドアをセットにしたり、地域の産業に関わったり、ボランティアに参加したりと、新たなコミュニティに触れるニーズが高まっているのだという。これを受けて同社も、行先となる地域視点で、地域の実情に合った、自然環境によく、地域経済にも貢献するツアー作りを積極的に実施。教育旅行も、これまでの観光地を回るような内容から、探求学習型に内容が変化。地域の伝統文化や産業、SDGsを学ぶような内容に変更することが多く、国立公園もこうした内容を提供できる可能性を秘めているのだと三好氏は語った。

また、同社が昨年夏に開催した、国立公園とSDGsをテーマとしたイベント「GO GREENプロジェクト ㏌長野」についても紹介。その他、独自の取り組みとして「マイボトルを持参するツアー」「ビーチクリーンを取り入れた旅行商品」「JRセットプラン(カーボンゼロ)」なども進めているという同社。今後は、人材育成やツアー催行面、環境保全面、集客面などの課題を解決しつつ、SDGsに配慮した商品に価値を感じてもらえるよう啓発にも力を入れたいと意気込んだ。

これに続き国立公園の保護管理を管轄する環境省の岡野氏からは、SDGsによって様々な企業、業界が変わっていこうとしている中、国立公園がどう変わろうとしているかが語られた。そもそも国立公園は自然公園法に基づいて定められた地域であり、優れた自然の風景地を保護し、その風景をもって健康、休養強化、教育的活用を推進してきた場所である。日本では、景色の美しい所を国立公園に指定し、風景を保護するための規制をかけることで、その環境を守ってきた。アメリカなどとの大きな違いは、「土地の所有の有無に関わらず土地を指定」しているため、国立公園内にも人の営みがあるという点だ。だからこそ、地域の営みと環境保全のバランスが非常に難しいと岡野氏。例えばリゾート開発をしたいが、国立公園があるからできないなど、これまで「開発の足枷」だと言われてきた側面もあるのだ。

しかし、今、地域の人々とともに改めて魅力的な国立公園づくりをしていこうという動きがスタートしていると岡野氏は語る。例えば、すでに進められている「国立公園満喫プロジェクト」では、国立公園を軸に観光を組み立て、地域の食、体験を楽しむ旅などを企画。地域経済を回すことで、風景保護にも資金が回る仕組みを作ろうとしているのだ。

そのために国立公園で急がれているのが、多言語化などのサービス面の向上と、自然を楽しむプログラム作成だ。プログラム作成においては「その自然には物語がある」というキーワードがあると岡野氏は語った。多様な自然風景と生活文化、歴史が凝縮された公園ならではの物語を知ることで、唯一無二の体験を提供したいという思いがこの言葉には込められているのだ。

「カーボンニュートラルなどサステナブルな取り組みも積極的に実施し、旅によってそれぞれの行動変容が促されるような仕組みを作っていきたい。それを実現するため必要なのが自治体、企業、地域の自然を引き継いできた地域の住民たちとパートナーシップだ」と語る岡野氏。ぜひ今後は様々な方と連携して唯一無二の感動体験ができる国立公園を一緒に作っていきたいと、最後は会場全体に語り掛けた。

ナビゲーターの青木氏からは、環境省のフレキシブルな考え方にいい意味で驚いたとコメントがあり、さらに三好氏に対しては今後、どのような地域リソースが求められているのかとの質問があった。三好氏からは、「地域ならではの特別なこと」をどう出していけるかが重要だとの回答があった。

以上で6つの事例紹介が終了。会議の最後に青木氏は、「自治体それぞれに特色があり、実施している施策もパートナーも違っている。ここからは自分たちの求めるビジョンに一緒に向き合ってくれるパートナーの争奪戦になるでは」と全体を振り返った。また、地域の人々と様々なパートナーが今後、どのような絵を描いていくのかとても楽しみだと、未来のまちづくりに期待を寄せ、このSDGs未来都市ブランド会議は幕を閉じた。

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