動物愛護団体が救うのは当たり前?改善しないペットショップを放置する行政の甘さ【杉本彩のEva通信】

動物愛護団体が救うのは当たり前?改善しないペットショップを放置する行政の甘さ【杉本彩のEva通信】

6月、岩手県奥州市のペットショップで、経営者が死亡して不在となり、犬や猫など約300 匹の動物が店内に取り残されていたとの報道がありました。県は動物を緊急保護し、動物愛護団体を通じて譲渡の準備を進めていると発表。 店内に取り残されていたのは犬61匹、猫149匹のほか、ニワトリやカナリア、ハムスター など。放置を確認した県職員が翌日から餌を与え、ケージを掃除しながら保護を始め、動物は順次、県内9か所の保健所や災害時の動物救護活動協定を結ぶ愛護団体に移送されたそうです。 死亡した動物は確認されていませんが、約1割は体調を崩しており、県が治療し、犬猫に関しては感染症予防のワクチン接種も施したそうです。受け入れ環境が整っている希望者に譲渡する方針で、各保健所のホームページに掲載されました。協力したのは県内の2つの団体で、新たな飼い主への譲渡に向け64匹を引きとったそうです。

それ以外は保健所が保護を続けていて、譲渡または譲渡に向けたトライアルをしましたが、7月10日時点では27匹にとどまり、保健所に残る200匹以上の動物たちの飼い主を探すために、動物愛護団体が協力を呼びかけました。動物愛護団体は、取り残された多くの動物を救うために、こう呼びかけています。「一時的にご家庭で預かってくれる方、また、病気でもこのまま治療も自分たちでしたいので里親になりたいという方を募集したい」。こちらの愛護団体は、普段、一時預かりをあわせて300匹を超える動物を常時保護しているため、さらに犬と猫を引き取るためには協力者が欠かせないということです。県とは、今回に限らず1匹も殺処分をしないという約束の元に協力をしているそうです。

ここまでの話しを聞いていると、「動物たちが死んでしまう前に保護されて本当によかった。治療も受けて早く元気になって、いい里親さんと出会えますように…」と、ほっとされる人が多いかもしれません。確かに一方向から見ればそうでしょう。しかし、動物たちが救われてよかったと、果たして終わらせてよい話しなのでしょうか。この事案を違う角度から、または問題の全体像を見てほしいと思います。どういうことかと言うと、ペット販売事業者が、利益を求めて取り扱っていた動物のあと始末が、善良な団体に押し付けられているという事実です。必要な医療や保護主探し、そこにかかる費用も労力もすべて善意の民間が負担するわけです。もちろん、動物たちを助けたい一心で協力している方々は、押し付けられているという意識はありません。なぜなら、助けることを使命と思い行動しますし、助かった動物の姿に心からの喜びを感じるからです。しかし、その善意に対し、行政は当たり前になっているのではないか? こういう問題が起こる度にそう感じます。

当協会Evaが関わったある案件もそうです。劣悪飼育が問題になった繁殖・販売事業者を、行政は何年も前から把握していましたが、一向に改善の兆しがありませんでした。問題を把握した動物保護団体は、何とかそこにいる動物を救うべくオーナーと交渉しますが、結局、病気でお金がかかる動物から手放すのです。これでは、動物愛護団体はまるで事業者にとって都合の良い下請け業者です。このような保護活動の在り方は「下請け愛護」だと言われています。この保護団体も、これでは下請け業者のようだと自覚し、それでも傷ついた動物を見捨てられないという思いから、目の前の動物の保護に尽力しつつ、当協会にご相談くださいました。当然ですが助けることが悪いわけではありません。動物愛護団体は、飢えや苦しみ、痛みから解放するために手弁当で保護動物のために奔走します。また傷ついた動物には医療が必要で、苦労もいとわない心ある獣医師の長きに渡る治療が続きます。

けれど、往々にして助け方とタイミングを見誤るのです。なぜなら、保護と刑事告発はセットでなければ、動物を虐待していた事業者は動物愛護法違反の罪に問われません。下手すれば、病気の動物を団体が引き受けたことで、劣悪環境が改善されたと行政はみなし、営業停止のペナルティーさえ受けません。その後ものうのうと営業を続け、被害動物を延々と生み続けることになってしまいます。

動物を虐待した罪に問うには、飼育環境の劣悪さ、そこにいる動物の状態をきちんと記録し、その後、獣医師による詳細な診断書が虐待の証拠として刑事告発するには必須です。動物の体に表れている虐待の証拠、それを押さえないまま保護し単に治療するだけでは、虐待の証拠を消してしまうようなもの。つまり悪質事業者を助けることになってしまいます。それに、本来なら動物の治療費は、所有者である業者が出すべきです。しかし、治療費を請求しようものなら、動物をそこから持ち出すことに抵抗し、所有権を行使する。そうやって動物の命を人質に、業者のいいように、いつもコトが運ぶようになっていて強い憤りを感じます。

前述した岩手県のペットショップの事案に戻りますが、ペットショップは5月下旬に廃業していたそうです。台帳の管理不備や動物用のケージ不足があり、県が15年ほど前から指導していた経緯がありました。ただ、指導していても施設の環境や動物の状態が改善されないまま。それなのに期限を設けて「勧告→命令→業登録の取消し」という行政措置を進めなかったのです。それでは問題を知りながら15年間放置していたのと同じこと。県民くらしの安全課の担当者は「結果的に多数の動物が残されて残念。適正な飼育が行われるよう指導していく」と話したそうですが、全国で次々に顕在化する業者の劣悪飼育による虐待を見れば、指導に限界があることは明らかです。指導して良くなるもの、指導したところで改善の可能性がまったくないものもあるはずです。そもそも命を扱うという資質に大きく欠けた事業者であることも少なくありません。行政がすべきことは、明らかに改善の可能性のない劣悪事業者に対して、速やかに登録の取消しを行い、廃業させることです。そうでなければ、被害動物を最小限に留めることはできません。大きな施設崩壊があった時には、動物愛護団体は必死に保護します。でもできる頭数、限界頭数もあるのです。

動物の命を商品として、簡単に商売する事業者。そういう悪質事業者を許し続ける行政。事業者を監督する行政機関が正常に機能しないかぎり、どれだけ法改正しようと、どんな省令を制定しようと、被害動物を適切に救うことはできません。前小泉進次郎環境大臣が飼養管理基準省令の制定にあたって「悪質事業者には速やかにレッドカードを出して退散いただく!」と表明されました。動物取扱業を管理する地方公共団体はそれをしっかり実行すべきでしょう。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

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