商談前にスボンのチャック、いわゆる「社会の窓」が開放されたままになっており、そのことを同伴した部下に指摘された時、どんな対応を取るのがよいだろうか。「大人研究」のパイオニアにして第一人者、『大人養成講座』『大人力検定』など多くの著書を世に送り出してきたコラムニストの石原壮一郎氏が「大人の切り返し講座~ピンチを救う逆転フレーズ~」と題し、その打開策をお伝えする。
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【今回のピンチ】
真面目なタイプの部下の女性と取引先に。ビルに入る直前、部下が「たいへん申し上げづらいんですが、さきほどから社会の窓が……」と教えてくれた……。
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めちゃくちゃ恥ずかしいシチュエーションです。部下は、このまま先方を訪ねたら取り返しがつかないことになると、勇気を振り絞って教えてくれたに違いありません。
申し訳ないし、ありがたい限りです。そうは思っていても、人はとっさの事態にうろたえると、ダメダメな反応をしてしまいがち。「あっ、ああ」と言葉に詰まって何も言えなかったり、「ど、どこ見てんだよ!」と青木さやかになってしまったり……。
まずは、言おうか言うまいかさんざん悩んだに違いない部下に、ねぎらいと感謝の言葉を伝えましょう。
「うわ、ずっと開いたままだったよね。苦しませて申し訳ない。教えてくれてありがとう。助かったよ。〇〇さんは頼りになるな」
ぐらいはきちんと伝えるのが、上司としての、しかもチャックを開けていたマヌケな上司としての当然の務めです。
もちろん、あれこれ言う前に、まずは横を向いて一刻も早くチャックを閉めましょう。開け放ったまま感謝の言葉を言われても、たぶん相手の耳には入りません。
ここで一件落着でもいいんですが、せっかくのアクシデントを全力でプラスに生かそうとするのが、大人の貪欲さ。ビルに入りながら、部下に「あやうく、必要以上に開放的な商談になるところだったね」と小粋なジョークをかましてみるのはどうでしょう。
あるいは「あれを社会の窓って最初に呼んだ人は、つくづく天才だよね」と話を広げることで、知的好奇心の旺盛さや懐の深さを醸し出せるかも。「でも女性の場合は、社会の窓って言わないよね」と疑問を呈して、鋭さを見せつけておくのも一興です。
……なんだか、どれも言わないほうがいい気がしてきました。テレ隠しにジタバタすればするほど、どんどん印象が悪くなりそうです。余計なことをしゃべらないように、お口のチャックも閉めたほうがよさそうです。
(コラムニスト・石原 壮一郎)