赤テントに懸ける(3)川合海裕さん 営業志望から出演者へ

ダンスショーできらびやかな衣装を着て舞う川合さん。自分を信じ、演技の道に飛び込んだ

 「努力すれば夢はかなう。挑戦する勇気を見る人に感じてもらえるのがサーカスの魅力だ」。木下サーカスの木下唯志社長はよくそう言って団員たちを叱咤(しった)激励する。

 4月に入団したばかりで、オープニングのダンスショーに出演している川合海裕(みひろ)さん(22)もその言葉に背中を押され、営業志望から出演者の道へと歩み出した。

 松山市生まれの京都府育ち。幼い頃から体を動かすのが好きだった。「いいと思ったらすぐ行動に移すタイプ」で、中学では兄の背中を追って未経験ながらも剣道部に入部。高校では、テレビで見て憧れた京都のダンス強豪高に毎日、電車とバスを乗り継いで片道1時間半かけて通い、ヒップホップダンスに打ち込んだ。

 サーカスとの出合いは大学4年の時。たまたまインターネットで空中ブランコの動画を見た。3分ほどの短い映像だったが、落下すれば命の危険すらある高い台から団員が平然と飛び立ち、鮮やかに成功させる姿に心を揺さぶられた。

 「やってみたい」と思ったが、体操などの経験もなく、自信がない。せめて舞台を支える仕事ができればと、営業職志望で採用試験を受けたところ、面接で木下社長から「舞台に出る選択肢もあるよ」と言われた。

 木下社長は自身が未経験の状態で大学の剣道部に入り、4年間、猛練習に耐え抜いたこと、その経験が後に空中ブランコに初めて挑戦する際に生きたという話をしてくれた。

 川合さんは中学の剣道部では京都府大会で団体優勝。高校では毎日4時間の練習に加え、自宅でも鏡張りにした部屋で一人特訓した。幼少期からダンスを習ってきたような部員が約100人もいる中で3年時に副部長となり、選抜メンバーの一人として国内予選を勝ち抜き、米国での国際大会に出場した。

 木下社長との面談後、「自分を信じよう」と出演者志望に変えた。

 現在担当するのはオープニングのダンスだけだが、空中ブランコや他のアクロバット芸への出演希望を持っている。「今は自分ができることを精いっぱいして認めてもらい、新たな演技に挑む権利を得たい」。川合さんのような若手たちの挑戦が木下サーカスの未来を支える。

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