<社説>県が医療非常事態宣言 沖縄の事情に応じ対策を

 玉城デニー知事は、新型コロナウイルスの急激な感染拡大で医療逼迫(ひっぱく)が深刻化しているとして「医療非常事態宣言」を発出し、対処方針を示した。 県内新規感染者数が5千人を超える日が続き、病床使用率は70%を超える高水準に達した。救急医療を一時制限せざるを得ない病院が相次ぎ、医療現場は厳しい状態だ。

 沖縄は人口10万人当たりの感染者数が全国で突出して高い。その上、島しょ県であるため医療従事者の応援を求めにくい特殊事情がある。医療従事者の確保や協力金などの予算は県だけの力では限界がある。政府は沖縄の特殊事情に応じた抜本策を早急に打ち出すべきだ。岸田文雄首相は22日、「政府として新たな行動制限は考えていない」と語った。あまりにも無責任だ。

 感染や濃厚接触などにより欠勤した重点医療機関の従事者は千人を超え、過去最多を更新し続けている異常事態だ。特に救急医療は深刻だ。本島中部の救急医療の主軸を担う県立中部病院は救急の一時制限を余儀なくされた。医師や看護師の欠勤が増えたため入院の必要性や緊急性がない軽症者の救急受診と一般外来を停止するという。那覇市立病院も当面の間、入院延期や外来診療の一部を制限する。

 年代別で見ると30代以下の若い層で感染拡大が目立つ。若い世代は軽症で済むことが多いものの、懸念されるのは高齢者や持病を持つ人々への感染である。沖縄のワクチン接種率は全国と比べて低く、特に若年層で低い傾向にある。行政だけでなく民間も協力して接種率を上げる取り組みに力を入れる必要がある。

 県は対処方針として県全域でイベント開催時の対策強化や、会食時の人数、時間制限などを県民に求めた。イベントに関しては主催者に感染防止安全計画の提出や、アルコールを伴う催しは開催時期の変更を検討するよう求めている。医療関係者からは、県民や事業者がこれを守れば「流行は収束の方向に向かう」と一定の評価をする声がある。

 ただ重要なのは、県民一人一人が感染予防の原点に立ち返ることだ。屋内ではマスクを着用し、密集を避け、換気をするなどの基本動作を改めて徹底したい。症状がある時は外出せず7日間は高齢者など重症化リスクの高い人と会うことを控えることも大切だ。

 経済界は社会経済活動の維持を県に求めているが、観光シーズンを迎え、さらに感染が拡大する懸念がある。観光客や観光業従事者も感染防止を徹底したい。県は感染力の強い「BA.5」の特性上、飲食店のみの対策では限界があるとみている。また現行の国の制度では、他業種に休業などを求めた場合、予算措置が難しい状況もある。

 玉城知事は、現在の政府対処方針や政策の見直しを求める考えを示した。地方創生臨時交付金の弾力的な運用や拡充を進めるなど政府は今こそ政策を転換する時だ。

© 株式会社琉球新報社